怒濤の授業、午前の部が終わった。
 疲れた&落ち込んだ&凹んだ。
 はぁ。
 はあ〜ぁ!
 俺の高校生活も終わった。
 4限終了のチャイムと同時に突っ伏した俺に、さとっちだけ慰めるようにポンポンと肩を叩いてくれた。

 休み時間の度、視線も耳も逸らして全身拒否状態のさとっちに、懸命に事の経過を伝え続けた成果だぜ…
 ようやく事情を呑みこみ、同情を寄せてくれた、心の友の温情が染みるぜ…
 だけど、クラスの皆はやっぱり、腫れ物に触るみたいに俺を扱い兼ねているようだった。
 もともと地味な存在で、誰の認識も薄いクラスメイトA君だったのに、急に注目を浴びたと想ったら絶対関わりたくない厄介者状態って、どうよ俺。

 腐ってもアノ鷹藤光に付き従ってる存在、この看板はデカくて重すぎる。
 部下だか舎弟だか子分だか犬だかパシリだか奴隷だかサンドバックだか知れないが、鷹藤光の超!超!超!有名な都市伝説の1つ、「一時的にでも自分の息が掛かった者(ないし物)に、チーム内外問わず他人が手を出す事を決して許さない」というヤツ。
 
 各教科担当の先生にも、話は行っているのだろう。
 つか、アノ鷹藤光が登校して来ちゃってるんだ、噂にならないほうがおかしい。
 ほんとうなら俺、今日の日付け的に必ず指名される出席番号で、英語のミノリン先生から前回の授業で「次、世界が滅びない限り当てるから!」と超スマイル宣言されていたのに、かなり覚悟してたのに、4限共無傷で終わった。

 ミノリン先生の中で、「鷹藤光が登校して来て、その後ろには相月満がいた」という出来事は、世界が滅んだに等しいのだろうか。
 いずれの教科の先生も、俺とは決して目を合わせようとせず、居ない存在として努めているのがヒシヒシと伝わって来た。
 俺の高校生活、終わりました。

 机に溶けこんで、いっそ同化したい。
 私は机になりたい。
 あーでも、掃除サボられたり落書きされたり削られたり、上に乗っかられたり引きずられたり、ジュースならまだしも牛乳こぼされたり、乱暴に取り扱われるのはイヤだな〜特にウチのクラスの男子は野蛮人ばっかりよ!でも、アノ鷹藤光大魔覇王様にイビられるのと比べたら、どう考えたって机のほうがしあわせな人生…机生ってやつ?だよなあ〜席替えとかでさ、かわいい女の子(例えば木村亜衣さんとか亜衣ちゃんとか亜衣ぽんとか)の机になっちゃったりしたら、超!しあわせな机生じゃん?恋のおまじないっつって、相合い傘とかこっそり書かれたりしてさ!きゃー、イヤーン!!満デスク、赤面ですぅ!!机の一生を賭して、ラブキューピッドになっちゃうんだからねー!!

 ってね、くだらない妄想に逃げてなきゃ、どうにかなっちまいます、ロンリーマイライフ。

 ぶくぶくと机に沈んでいた俺に、さとっちは実に慈愛深い眼差しを向けてくださった。

 「元気出せよ、みっちー。アノ大魔王様々もさ、罰ゲームだか新手の遊びだか知らないけどさ、みっちーの宇宙1を誇る平凡っぷりにすぐ飽きるって!容姿平凡・成績平凡・カネも無い・甲斐性も無い・女も居ない・常に右手がオトモダチ人生、そんなノリでぼけらーっとした日々を送って来たみっちーなんだからさ、もっと自信持てよ!
 だいじょーぶ、ちょっとボコられて、殴ってもコイツ面白くないわーって、やっぱお前要らねってなるさ…嵐が過ぎるまでひたすら耐えるんだ、みっちー!目を閉じ、耳を塞ぎ、歯を食いしばり、腹筋に力を込めて、頭だけは殴られないように耐えてたら終わるさ!!潔く殴られろ、それでぼけらー人生が帰って来るさ!!」

 わぁお!
 爽やかスポーツまんがのイケメンばり笑顔〜!
 ただし、さとっちがやっても全っ然カッコよくないけどねー!!
 しかも、慰めてる風だけど、さり気に俺を貶めまくってる発言だらけ。
 でも俺は知っている。
 さとっちは、わざとこうやって暴言を吐いて、俺が元気になるように励ましてくれてるんだ。

 「ヒドいこと言わないでよー!」て怒って、不幸モードを忘れて元気になれるように。
 多分だけど。
 さとっちは、俺と同類の平々凡々空気男子のクセに口は悪い、けどほんとうは優しい子だって知ってるんだからねっ!!
 「…さとっちぃぃぃ〜!!俺、俺、さとっちが居てくれたらそれだけで人生大満足!!愛してるよ〜!!俺、相月満は病める時も、健やかなる時も、」

 いつものパターンだ。
 俺とさとっちの、100通りはある会話ネタのひとつ。
 どっちかがどっちかに愛の告白をし、プロポーズ、誓いの言葉を口にして、されたほうは「止せよ…人前で…けど、悪かぁねぇな」ってキザに受けるのがお決まり。
 熱い抱擁を交わしてエンドマーク!
 この実にアホなやりとりは、俺とさとっちのお気にいりネタ、ベスト5には入る。

 もう何度も繰り返して来たから、お互い、呼吸も間も芝居もばっちり!
 どん底谷間な気持ちを奮い立たせて、ウルウルっとさとっちの瞳を見つめ、誓いの言葉を述べようとした、その時だった。
 さとっちの顔が一瞬で青ざめ、地震が起こったように全身をガタガタ震わせ、唇にはチアノーゼ現象。
 どうしたの?なんて、いつも能天気な俺が聞かなくても、流石にわかった。
 さとっちどころか、クラスの皆まで、同じように地震を起こしていたのだから。

 俺にだって、地震は起こった。
 現実に地震が起こっていないことを証明するのは、唯一、今まさにさとっちに抱きつかんとする俺の目の前にいらっしゃる、地にしっかり足を踏みしめている大魔覇王様の存在。
 いつ?
 いつ、ご降臨なさった―――?!!!!!
 SHI・KA・MO、とんでもなく美丈夫なお身体から発せられる、禍々しくも網走の如き厳しい冷気はこれ如何に?!

 気の所為じゃない。
 気の所為なんかじゃなく、この御方、もんのすごくとんでもなく恐ろしく怒っておられません?!
 眉間にどっぷりと深く存在する、その皺と、そもそもズバ抜けた目力が更にズバ抜けて剣呑な光を宿しておられまするでごじゃりまするー!!!!!
 Noooooooo――!!!!!
 鷹藤光、地震、雷、火事、オヤジ!!

 今日こそ俺の命日だったのねー!!!!!
 青ざめるというか、もう寧ろ、紫色ぐらいに変色しちゃってるだろうな、震える突然死間近の俺に向かって、大魔覇王様はまっすぐに視線を向けた。
 他の誰を見るでもなく、まっすぐに、俺だけを。 
 「……満……」
 ひぃいっ、ウゴウゴルーガァァァ――!!(我ながら意味不明)
 なんつー、ひっくうううぃお声ざましょー!!

 「……今、何つった……?満が?誰を?愛してるって……?誰が居てくれるだけで人生大満足だって…?病める時も、健やかなる時も…?満が誰に何を誓う……?教えろよ、なぁ……」
 ガタガタガタガタ、ぶるぶるぶるぶる、震えまくる俺は、ひたすらに意味もなく首を横に振り続けた。
 一語も発せられるワケがないでしょうや!!
 どれだお待ちいただけても、俺は今、何にも話せませんから!!
 ただ首を振り続ける俺に、大魔覇王様は業を煮やされたのだろう。
 ガンっ!!っと、俺の椅子の脚を蹴っ飛ばした。


 「てめぇは俺のものだろうが!!あぁ"?!」


 ひげぇえええええ!!



 2011-01-19 23:25筆


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