まあね!
 空耳かも知れないし?
 いやいや、十中八九空耳だよ、きっと。
 青天の霹靂、驚天動地が、俺目がけて集中豪雨しているような昨日と今日だもの。
 はっきり言って、超ハードボイルドなマイライフ。
 これだけ心身共々消耗激しかったら、空耳だって聞こえて来るさ!

 『マタヒルニムカエニクル』って、悪魔召還の呪文かも知れないしね!
 流石、大魔覇王様、怖っ。
 「…はぁ…」
 何かヘコむ。
 マジ疲れた。
 ため息吐くのもキツいぐらい。

 でも、まだ1日は始まったばかり。
 今日もみっちり、6限まで授業がある。
 とぼとぼと教室へ入り、自分の席へしょんぼりと向かった。
 俺の席は全世界の学生人気ナンバー1を誇る、窓際の1番後ろだ。
 席替えでこの席を勝ち取った時の喜びは、計り知れないものがあった。

 平々凡々な空気生徒の俺だから、この席になってから、益々授業中に当てられなくなり、安眠貪り放題!まんが読み放題!早チョコメロンパンし放題!
 更にクラス内だけじゃない、1年人気ナンバー1を誇る(はっきり言って全校、いや近辺の高校に轟く人気っぷりだろうな!)アイドルよりもよっぽど美少女な、木村亜衣ちゃんがナナメ前の席というベストポジション!
 こっそり鑑賞し放題、やっほーい!!

 と、こんな具合で、この席になってからいいことばっかりだったのにな。
 昨日から、悪魔に取り憑かれてしまいました。
 マイフレンドにどう報告したら良いものか。
 とほほな気持ちで席へ近づいたら、同じくほ乳類・人間・空気種族に属する心友、佐藤君を発見致しました。
 あら?
 いつも遅刻ギリギリのさとっちなのに、今日はどうしたのかしら?

 珍しいな、ミラクルだなと想いつつ、まだHRには間がある。
 ちょっとだけでも俺に起こった災難を聞いて欲しいと、藁にもすがる想いで佐藤君ことさとっちに接近した。
 「さとっち〜!!何か懐かしいヨ、さとっちの空気っぷり…ねぇちょっと聞いてよ〜!!俺、俺…」
 「オオオオオ、オハヨウゴザイマス、相月様」
 えっ?!

 「お、おはよ…どうしたの、さとっち…つか、妙に姿勢良くない?いつもダルそ〜に座ってるか寝てるかの人が…そもそも、今日来るの早くね?何、ネタ?俺、どう返したら良いのかわからないヨ?」
 「あああああ相月様こそ、リーディング・エアー・プリーズ!プリーズ!!」
 リーディング・エアー・プリーズ?
 直訳したら、空気読めってこと?
 空気を、読め???

 そろっと周りを見渡して、拙者は飛び上がりそうになったで御座る。ニンニン。
 クラスメイツの過半数が、さとっち同様、姿勢を正してきっちり着席している。
 私語、一切無し。
 有り得ない、緊迫したムード。
 教室内だけじゃない、何故か廊下まで、しぃぃぃーんと静まり返っているじゃありませんか。

 HR前はいつもなら猿山みたいに賑やかなマイクラスなのに、マジ有り得ない。
 よくよく見れば全員、血の気の引いた顔色で、カタカタと小刻みに身体を震わせている。
 一体、何事?! 
 そして、さとっち含め、俺が視線を向けても必死に避けに避けて、決して見ざる・聞かざる・言わざる状態なのはなじぇ(何故)〜?!

 「み、皆さん、どうなさって?」
 「どどどどどうかなさったのは相月様の方でっしゃろ?いきなり天下無敵の『kitty』のしししししかも、そそそそそ総長のたたたたた鷹藤光大将軍様にお仕えし始めらっしゃった理由は、まったく聞きたくないでごじゃりまするから、今日から他人で何卒宜しくお願い申し上げ候。
 あのあのあのね、ほら、俺みたいな下々の人間と、あああああ悪魔にお仕えする相月様とは世界が違いますけぇ、どうぞよしなにお収め下さいませ。今まで親しくお付き合いして下さったお礼とお冥土のお土産を兼ねて、『ベーカリー・ふわふわ』のチョコメロンパンを捧げますから、寂しいけど笑ってお別れしましょうね、あたし達…じゃ、そういう事で!」
 
 ほっげらぁぁぁ―――――!!!!!
 いっやあああああ!!

 見られてたのね!
 見ていたのね、マイフレンドに、マイクラスメイツ!!!!!
 つか、そりゃ見るよね?!
 俺だって我が身に起こった事態じゃなけりゃあ、「kitty」の総長様が珍しく早朝登校だ!ってなったら、ツチノコ出現したって?!っつー同じノリで、怖いもん見たさで見ちゃうものー!!!!!
 好奇心と肝試しを、同時消化出来る事態なんて、そうそうないもの〜!!
 おおおおおわぁぁぁ!!!!!

 「違っ、違うんだ、さとっち!!お願い、聞いて聞いて聞いて聞いて聞いてよぉおおおっ!!俺は被害者だ、俺は悪くない、俺は無実だ無罪なんだぁぁぁ!!誰が喜んでお仕えするものか!!これにはえげつない複雑な事情があって、俺、俺、あの大魔覇王様に弄ばれてっ」
 「わーわーわー!!何も聞こえない、何も知りたくない、何も見たくない!!俺は関係ない関係ない関係ない関係ない関係ない!!赤色の他人だ他人だ他人だ他人だ他人だ!!」
 「ひどっ、ひどいよ、さとっち!!俺を見捨てないでぇ〜!!つか、こんだけ騒いでんのに、クラスメイツの皆さんまで無関心装わないでよ〜!!」

 誰もが、さとっちと同じスタイル。
 目を硬くぎゅうっと閉じ、耳を両手で塞いで、歯を食いしばって俺の存在を無いものとしていらっしゃる。
 クラス1やんちゃで明るい黒田君も。
 成績優秀な学級委員長の原君も。
 ちょっぴりはっちゃけたギャルの角田さんでさえも。

 皆、皆、大魔覇王様とは勿論、それに属するものとは死んでも関わりたくない。
 その気持ちは、すげーすげーすげーよくわかります!!
 だって、俺がいっちばん関わりたくないっつーのー!!
 さとっちが、「ベーカリー・ふわふわ」の紙袋を俺に押し付けながら、ちらっと、気の毒そうな目を上げた。
 

 「みっちー…昨日の『ドッキドキ☆モーニング・ラヴィング・ハプニング星占い』で、『人生最大の運命の恋に出逢えるかも!身だしなみを整えて外出してネ!一目惚れでも恐れないで、大丈夫。ガンガン、アタックして良し!今日の出逢いは絶対に手放さないで。ラッキーアイテムは金髪』って…乙女座1位だったのにな…ご愁傷様デス」


 俺は、想いっきり、その場で盛大にひっくり返ったのでありました。



 2011-01-09 22:53筆


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