道中、会話不成立。
 当然、当っ然、予測できたことだ。
 会話不成立、それが自然。
 そうよ満、空気になるのよ!!
 今こそ、特技のひとつ、「空気化」を行使するべきなのよ!!

 しっかし、いー天気だなぁ。
 ポカポカの日差しが気持ちいい。
 一緒に歩いているのが大魔覇王様じゃなかったら、もっと気分いいだろうな。
 ちらっと、数歩前を行く大魔覇王様を見上げて、すぐ視線を逸らした。
 コンパス、違うからさ。

 同じ国籍のハズ、同じ市に住んでて同じ高校に通ってるハズなのに、お相手様は人並外れた美貌と外国人モデルばりスタイルの持ち主で。
 頭の先から爪先まで、欧米化が進んでいる現代日本とは言えども、100%純度・平凡を誇る俺とは雲泥の差。
 その明らかなる差は、歩幅の違いを生み、歩く姿に大きく現れる。
 さっさ、さっさと、キビキビ歩く大魔覇王様。

 それに必死になって付いていく、おかしいな、背丈や胴の長さから考えてもそんなに短足じゃないと想うんだけど、若干小走りの俺。
 ひたすら、無言。
 大魔覇王様は、一体、何事を考えておられるのか。
 俺をもう顧みることもなく、長い脚を駆使して俺の前を往く。
 まっすぐ、顔を上げて、堂々と歩いて行く。
 この人に怖いものなんか、ないんだろうな。

 容姿にも体格にも恵まれて、人脈っつか顔も広くて、老若男女問わず恐れられている反面、実はひっそりと都市伝説的人気や憧れを持って語られていることまで、俺は知ってる。
 さぞかし自信でいっぱいなんだろうな。
 それに足るだけの、誰もの頂点に立てるだけの人、なんだろうけど。
 実際、道を1歩進む度、自己防衛本能に優れているっぽい人たちは、視線を合わさないように空気化に努めている。

 でも一部の人たちは、「あのカッコいい人は何者?!」的に、ポ〜っと惚けた表情で、うっとり見つめている。
 当の大魔覇王様は、一切を気にせず、ただ己の道を行くのみ!って勢いで、オーラもカリスマ性もだだ漏れのまんま歩き続けてるんだけど。
 この人が何者か、俺は知ってる。
 どんなつもりなのか告白めいたことして、いきなり今朝迎えに来て。
 俺の作った朝食を美味い美味いって食ってスイーツスマイル炸裂させながら、腹の内でどんな恐ろしい企みを練っているんだか、俺はちゃんと覚悟しておかなきゃならないんだろう。

 それにしてもこんな、全然話さないし、隣に並んで歩くこともないのに、一緒に登校する意味なんてある?
 意味なくね?
 意味ないよね?
 これ、別々に登校してるのと変わらないよね。
 2人で存在する理由もないし。
 俺、無意味なことするの大っキライなんだけど。

 最初から1人だったら、もっと楽しく登校できたのに。
 天気いいなあって、お昼に食べるチョコメロンパン、楽しみだなあって、すっごいほのぼのできた時間なのに、無意味に無駄に、緊張だけして過ぎて行ってる。
 「あの人カッコい〜」って、ポーっとなってる人たちの視界にまったく映っていない、認識されていない俺。
 何、これ。

 いやいやいや、勿論、大魔覇王様とお手々繋いでルンルンルン!スキップスキップ、ランランラン!なーんてノリできゃーきゃー登校したいワケじゃないけれども!!
 空気に同化することを望んでいるのは、俺自身ですけれども!!
 何でこんなに、朝っぱらから虚しい気持ちにならなきゃいけないんだろう。
 想わず、視線が下向きになるのも仕方がない。
 下向きで歩いていたから、気づかなかった。

 「ふぎゃあ?!」
 ばふっと、何かに想いっきり激突して、なんだよこの適度な硬さの良い匂いまでする壁!俺は今、虫の居所が悪いんですけど?!八つ当たって蹴っちゃうよ?!と、ぎっと顔を上げて。
 卒倒したかったです。
 壁、と想ったら誰かの背中で、誰だよ俺の進路を妨げる勇者は?!と、再びぎぎっと睨んだら。
 くるっと肩越しに振り向いた顔は、勇者どころかラスボス中のラスボス、本編のエンディングをクリアした後に出て来る、よっぽど最強最悪な大魔覇王様じゃないですか。

 「…満、大丈夫か?」
 オマイガっ!!
 心配そうな眉根の寄せ方が、俺には「てめぇ…ナメた真似してくれんじゃねぇか…この俺様の尊い黄金の背中に顔面ぶつけて来るたぁ、良い度胸だなぁ〜あ"…?てめぇの背中にも同じ事してやろうか?」っていう不機嫌モードに変換されて見えるのですが、これはきっと気の所為じゃないですね!!
 オーノォォォ〜!!
 俺には大魔覇王様の真実の顔が見えてしまうんだわ!!
 
 「だだっ、だだだだだ、だいじょーぶですっ!すすす、すみません!!高級お衣装の背中に俺の小汚い顔をぶつけて!!たたた、他意はございません!!けけっ決っして、貴方様が憎くてぶつかったワケではなく!!多少のモヤモヤはあるものの…いーえ、いえいえっ、ついうっかりぼーっとして居りましたらこの始末、相済みません、俺という下等生物は日常的にぼーっとしているのが日常茶飯、日常と書いてぼーっとすると読む次第でして、もう本当に本当に本っ当に誠に申し訳ございません!!」

 どうか、ハラキリだけは御勘弁!!
 慌てて10メートルぐらい後退し、追従のポーズでヘコヘコ謝る俺を、大魔覇王様は小首を傾げて見ていらっしゃる。
 あわわ!!
 今はまだ、謀反の気配を知らしめては成りませぬ!!
 俺が大魔覇王様から自由を得る為には、まだまだ大人しく、あくまで忠誠を押し通さねば、この一向一揆は失敗に終わりまする!!

 ここは致し方ありますまい。
 満の特技其の2、「お愛想笑い」でごまかし炸裂!!
 1日の内で特技を2つも披露しなくてはならないなんて、やはり大魔覇王様、強敵すぎるぜ!
 へらりへらり、へらへらへらり、笑ってごまかす俺を、じいいっと見つめる大魔覇王様。
 やがて諦めたのか、軽く息を吐き、「そうか…」と宣った。
 ほっほっほ、天は我に味方す!!

 俺のごまかし笑いに突っ込めない等、お主も所詮、まだまだ小童(こわっぱ)、しがない1高校生よのう。
 悦に入っていた俺に、大魔覇王様はぐっと距離を詰めて来て、僅か1メートルの範囲で向き合う形になった。
 やめてよして触らないで、悪魔菌が付くから!!
 びびくんっと肩を震わせた俺に、気づいてか気づかないのか、にぃ〜っこり。
 スイーツスマイル、再び降臨。
 
 「今朝、満に会えて…それだけじゃない、満の家で満の作った朝食を食べて、一緒に登校できてすげー嬉しかった…メシ、マジで美味かった。ありがとうな。また昼に迎えに来る。体調悪いなら無理するなよ。じゃ」

 はぇっ?!
 じゃ、ってあれ、いつの間に学校着いて、いつの間に俺の教室前?!
 状況確認している内に、大魔覇王様は、最後にスイーツスマイルをもう1度ぶっ放し、速やかに去って行ってしまった。
 え?え?え?
 ぽかーんとしている俺の耳に、何度もリフレインする、大魔覇王様の地獄の囁き声。

 『マタヒルニムカエニクル』

 『またひるにむかえにくる』

 『また昼に迎えに来る』
 
 また昼に迎えに来る?!
 はああっ?!



 2011-01-07 22:29筆


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