孤軍奮闘。

 俺は今現在まさに、この4文字熟語の現実を体験中で、この言葉の意味をひしひしと噛みしめている。
 「ハハハ!」
 「オホホ!」
 「ワフ、ワフっ」
 リビングではアメリカンホームコメディドラマが進行中。
 このドラマの主人公は、俺を排してキッチンに押し込み、小間使い扱いした家族じゃない。

 平和な相月家の朝に、突如乱入した、後から出て来たクセに堂々とリビングの中央に存在している大魔覇王様。
 全ての鍵を握り、全てを支配する、全てを手中に収めて悠然と微笑ってる、何が目的なんだか計り知れない、鷹藤光だ。
 うぬぬ〜!
 脇役中の脇役に回された俺は、こうしてキッチンとリビングを隔てる国境(ただの壁)から、大魔覇王様の動向を窺うことしか許されていない。

 くっそう、パパンもママンも、すっかり大魔覇王様が描いたドラマのシナリオにハマって、ウフフアハハと操られておる!!
 コマツナは、大魔覇王様の膝元から離れる気配がないし!!
 皆、皆、すっかり操り人形にされてしまった。
 今、正気を保っているのは俺だけ。
 大魔覇王様は、俺をナメてかかっているのだろう。

 されど魔王よ、油断は禁物なり!
 地を這う蟻なれど、知略次第で脅威になるのだよ。
 たった1人のちっぽけで非力な俺だけど、こうして正気を保ってる!
 俺は騙されない!!
 あんたの黒い噂も伝説も山ほど聞いて知ってる!!
 そのおキレイな微笑の裏がまっ黒だってこと、俺にはわかってるんだからねっ!
 いざとなったら、コマツナだけでも奪取して、魔王の支配下と化した相月家からダッシュしてみせる!!

 「って、痛っ!?」
 「満ちゃん…?いつまで待ったらブレックファーストは出て来るのかしら…?あなた、さっきから壁にへばりついているだけで、一向に作業進めてないわよねぇ〜え?鷹藤さんがお待ちでしょうが…早くしなさい?できるわよね、満はデキる子だものね…?」
 「ひっ!は、はいっ!はいはいっ!ただ今、すぐに!お持ち致しやすからっ!!」
 俺は、うっかり忘れていました。
 我が家には、大魔覇王様的に恐ろしい、ママンが居るということを。

 いつの間に音もなく忍び寄って来られたのでしょう、いきなり頭に肘鉄を喰らわされ、冷蔵庫の陰で脅迫されました。
 外では大魔覇王様、内ではママン。
 ううっ、俺の人生ったら、ハードボイルドでバイオレンスでドラマチックで…
 「み・ち・る・ちゃ・ん?」
 「はいぃ!!今すぐに!!」
 「まったくあなたときたら、どうしてすぐ妄想世界へトリップしちゃうのかしら。鷹藤さんを見習って、少しでもきりっとしたイケメンになってくれたら良いのに〜」

 大ゲサにため息を吐きつつ、既にできあがっていた料理を運んでくれるママンの足取りは、とっても軽やかでございました。まる。
 いきなり襲撃されても、対大魔覇王様ご機嫌伺いメニューなんか、組めるハズも時間もなく。
 俺はびくびくしながら、いつも通り冷蔵庫にあるもので作る、我が家の定番メニューをお出ししたのでありました。
 和食はミオっちやはるるにお任せします。
 他人の得意分野には侵入しない主義です。

 今朝は、厚切りの食パンをサイコロ型に四つ切りしたフレンチトースト、りんごジャムとメイプルシロップ添えをメインに、かぼちゃのポタージュスープ、チキンとくるみ入りグリーンサラダ、オリーブとカリフラワーのピクルス、搾りたてオレンジジュース、カフェオレ。
 コマツナには国産の無添加ドッグフードのビーフミックス。 
 ダイニングテーブルに並んだ4人分の朝食に、大魔覇王様がナチュラルに驚いた顔をなさっておられるのを、びくびくしながら見守った。

 「…これ、本当に満が…?」
 しっかし、男前は驚いた顔すら男前なんだねぇ。
 もはやここまでになると呆れるわ、と内心引きつつ、はぁとかはいとか返事しようとしたら。
 「こんなものでごめんなさいねー!満は洋食派のお子さま嗜好だから、自分の好みで作っちゃうのよ〜鷹藤さんのお口に合うかしら?」
 「満は甘党だからね〜済まないね、鷹藤君。遠慮なく残してくれて構わないからね!」
 「ワフ〜」

 裏切りおった。
 パパンもママンも、甘党のくせにっ!!
 朝はしっかり糖分摂らないと、仕事行く気になれない〜とか言って、甘い朝食希望出すのはどこの誰?!
 コマツナまで俺をちらっと失笑気味に見て、すみませんねぇと言わんばかりにヘコへコしとる!!

 はい、わかってます!
 俺の味方は、どこにもいないよね。
 改めて、孤軍奮闘の意味を、ぎりぎりと噛みしめていたら。


 「とんでもない…こんな立派な朝食、生まれて初めてです。朝はやっぱり糖分ですよね。満、急に来たのに俺の分まで用意してくれて有り難う。料理上手いんだな」


 ちょ。
 ちょおおおぉぉぉっ!!
 何?!
 何、その、フレンチトーストに粉砂糖とメイプルシロップと生クリームふんだんにかけた、魅惑の状態より、甘い甘い甘い笑顔!!
 人の笑顔で、糖質がたっぷり摂れるなんて、初めての経験じゃ―――!!!
 大魔覇王の会心の一撃!スイーツスマイル、満にダメージ999,999,999…
 
 その後、いただきますと4人+1匹で手を合わせ、始まった朝食の儀。
 何度も何度も大魔覇王様から、「美味い」「すごい」「料理上手なんだな」「こんな美味い料理初めて食べた」「満は家の手伝いして偉いな」などなど、スイーツスマイルと共に褒め殺し攻撃を受け、ことごとくクリィカルヒット。
 甘ぁぁぁい笑顔を受けまくったにも関わらず、俺は骨と皮になるまで減量した気分でした。
 げっそり。



 2010-11-12 23:16筆


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