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我が家が、大魔王様に占領されてしまった。
顔を洗って制服に着替えた俺が知った事実は、実にシンプルなものだった。
我が家が、大魔王様に占領されてしまった。
我が家のパパンは残業上等!とある商社の営業部課長、ママンは夜勤上等!な看護婦さんと、どちらも忙しい共働きで、俺とコマツナの他、現在遠方で一人暮らし中の大学生兄ちゃんがいます。
そんなパパンとママンの説明に因ると、こうだ。
いつになく早く目覚めた2人は、コマツナの散歩を終えた後、2度寝するか迷ったものの、俺が起きるまで待つことをセレクトチョイス。
さっぱりと着替えて、のんびり寛いでいたら、ピンポーンとチャイムが鳴った。
こんな朝っぱらから一体どこのカチコミだ?!と、若干殺気立って対応したのはママンだった。
俺の学校の先輩だと名乗ったインターフォン越しの声は、異常な程の美声。
これまでの人生で聞いたことのない、低く男らしい美声に、耳ごとハートをノックアウトされたママンは、迷いなく開けた玄関の扉で、更に第2の衝撃にやられた。
玄関に立っていたのは、この世のものとは想えない美形、顔良し!スタイル良し!の男。
とあるキッカケで俺と仲良くなったと、家が近所だから気が向いて迎えに来たのだと告げた、羊の皮を被った大魔王にあっさりと気を許し、いそいそ招き入れたそうで。
かくして、その世紀の美貌と色気と、外見の派手派手しさに反して目上の大人に対する昨今の若者らしからぬ礼儀正しさのギャップと、●ン様顔負けの爽やかな微笑に因って、ママンはメロメロ骨抜きにされ、パパンは良い子だと感心し、コマツナはすっかり服従してしまったのであった。
俺は。
俺は、俺だけは、騙されないんだからね!!
きっと、視線を向けて、すぐさま後悔した。
膝に抱き上げ、うっとり目を細めているコマツナの頭から背中を、ゆっくり優しく撫でている大悪魔覇王様と、目が合ってしまったからだ。
それはもう、女だったら誰でもすぐさまフォーリンラブだろう、甘い微笑を返されて、卒倒しそうになった。
ママンは別の意味で卒倒しそうになっている。
パパンとママンだって、「kitty」の名前は知ってるハズだ。
コマツナだって、散歩仲間の犬ネットワークで、「kitty」の存在を認識しているハズだ。
だけど、その現総長が俺の通う高校に在籍しており、鷹藤光っつー名前だってことまでは知らないのだろう。
いつも家族団らんで和んでいるソファーセットに座らせ、周りを取り囲んで談笑している、その超絶神美形の男こそが、あの世にも恐ろしい不良ティームの総長なんだってばよ―――!!!!!よーよーよー(エコー)
今は微笑っている、超ウルトラビッグサンダースペシャルビクトリア究極悪魔覇王様だが、1歩我が家を出たら、どう変貌するやら!!
そもそも誰が「明日の朝ぁ〜迎えに来て欲しいにゃ!ね、ダ・ァ・リ・ン?きゃるん!」なんて甘えん坊な恋人っぷりを披露しましたか?!
ねぇ?!
つか、そうだよ!!
俺、この人に昨日告白されちゃったんですよ!!
想い出したよ!!
そんで、想いっきりメンチ切られたから(いや、元々何言われてもされても反抗しようがなかったけどさ?!)、つつつ、付っつき合う事になっちまってさ?!
ワケわかんなくなって、ワニワニ大パニックで、その場から逃げるために「で、でではっ、そういうことでっ、わたくしめはこれにてドロン、失礼致しますっ!ここ、これからよろしくお願い致しますっ!」つって、屋上から我が家までマッハゴーゴー!!
夢だ、何かの間違いだ、神様そうですよね、ね?クリスマスのプレゼントは要りませんからどうか全部夢にしてください、サンタクロースイズカミン〜トゥナイトー!!と、コマツナの散歩はショートコースで済ませて、夕飯もそこそこに爆睡して。
あの、いやな感じの夢を見て。
起きたら(ママンに叩き起こされたら)、何でか我が家のソファーにちんと座ってて、我が家の支配完了してるって、どういう展開なんだよぅ!!
作者の元々ない力量が、更に疑われる展開じゃん?!
こんなの、漫画スクールとかだったら、減点の対象にしかならないよ?!
はっ、混乱し過ぎて異次元と繋がっちゃったじゃん。
作者って誰よ?
ねぇ、どうしてくれんの、大魔覇王様!!
あなた様は一体、何をお考えなんですか。
「満ったら、いつまでぼけーと突っ立っているつもり?先輩の前で失礼よ!今日は満が食事当番でしょうが」
「そうそう、満、急いでくれないかな〜?」
ママンもパパンもヒドい!!
確かに仰る通りですが、俺、とてもそんな気分じゃ…
「食事当番…?」
う!!
何やら低いエロ美声が聞こえると想ったら、大魔覇王様がこてんと首を傾げて、邪気なく(隠してるだけでしょうけど?!)不思議そうになさっておられるではありませんか。
魔王の傘下に入ったコマツナまで、一緒になって首を傾げてる。
ちくしょう、可愛いぜ!
何であんなに可愛いんだ。
「あら、ごめんなさいねー鷹藤さん。もう暫くお待ちいただける?」
「悪いねー我が家は共働きなもので、仕事の状況に因って食事当番制なんだ。今日は1日、満が担当なものでね」
「そうだったんですか…すみません、朝早くから押し掛けてしまって…」
「とんでもないわよー満が遅いのが悪いわ!」
あれあれママン、俺の扱い、さっきからヒドすぎない?
「そうだ、鷹藤君はもう食べて来たのかな?」
「いえ…俺は1人暮らしなものですから、食事は適当で…」
「まぁ!お若いのにもう独立なさってるのね!偉いわぁ…ウチの満に聞かせたいぐらい!」
あれあれママン、満はここにいますよ?
「だからしっかりしているんだねぇ。偉いもんだ。だけど、まだ育ち盛りなんだからしっかり食べないと」
「お恥ずかしい話です」
あれあれ大魔覇王様、年相応に少年っぽい照れ笑いも朝飯前なんですか?
「そうよー。満の手料理だから、お口に合うかわからないけれど、良かったら一緒に召し上がってくださいな」
「それが良い!満の手料理だから、お気に召すかどうかわからないけれど」
「ワンワン!ワフ〜っ」
あれあれ、ちょっと皆、皆、何で俺を見て失笑してるの?
そして、何よこの雲行き。
何なの、この怪しい流れは。
「良いんですか…?お邪魔じゃないですか?」
「「邪魔だなんてとんでもない!」」
「ワンっ!」
「……正直、嬉しいです、最近まともに食べていなかったので…満、良いかな?」
何なの、その遠慮がちで、でも嬉しそうな少年スマイル〜!!
2010-10-18 20:14筆[ 6/25 ][*prev] [next#]
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