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「ワンワンっ、ワフっ」
「ははは、こらコマツナ〜そんなにじゃれて。悪いね、いつもはこのコ人見知りするんだけどなぁ」
「構いませんよ。犬、好きですから。おいで」
「ワフっ!クウン?」
「よしよし…フワフワですね。毛並みが良い…大事にされてるんだな、お前」
「満が拾って来たコだからね。毎日マメに世話してブラッシングしてるからかな」
「そうなんですか」
なんなの?
これこそ、嘘でしょ?
どうか嘘だと言って下さい、神様!!!
なんで我が家のリビングで、あの、あの!
その名を聞けばお年寄りだって背筋伸ばして猛ダッシュ逃走する、「kitty」の総長様と、マイファーザー・パパンがソファーに並んで座って談笑なんぞ交わしとるんですか?!
し、しかも!
大魔王の魔力でも行使されているのか、その神がかった美貌と圧倒的なカリスマ溢れる存在感の所為なのか、いつもの我が家のボロっちいリビングとボロっちいインテリアまでもが、光り輝いて見える!!
ソファーなんて、パパン&ママンの結婚年と同じなんだからねっ!!
し、し、しかもですよ。
俺の胸が、絶望で満たされる。
コマツナ!!!!!
俺の最愛の家族、コマツナ!!
家族の中でも俺にいちばんに懐き、滅多なことでは他人に尾を振らない、気高くも孤高の武士の如きニヒルなワンコ様が。
クンクン甘え、すり寄って離れない、撫でられて気持ち良さそうに目を細め、機嫌良く終始揺れている尻尾…コマツナよ!!!!!
お前は相手が誰だかわかっているのか?!
お前を拾って来て、家族になろうねって約束して、それから毎日毎日おはようからおやすみまで愛情をたっぷり注ぎ、日向の匂いがするふわっふわのミルクティーカラーの毛皮をキープしてきた、俺に対する裏切りも甚だしいではないか?!
泣ける。
父ちゃん泣けてくるよ!!
相手が超絶美形だからって、何かもういろいろ超越しちゃってる大魔王様だからって、簡単に尻尾を振るような、そんな軽薄なコに育てた覚えはありませんよっ!!
あ、コラ!
お前、いきなり腹まで見せるか?!
「あらっ、微笑ましいわねぇ。すっかり仲良くなったみたい」
ママンまでそんな!!
相月家、大丈夫かおいっ!!!
錯乱している俺に、ふと、視線が向けられた。
ぎくり、と心臓が縮こまった。
昨日のアレと。
夢の中のアレが、重なる。
「満、やっと起きたのか?いつまでパジャマ姿で…折角迎えに来てくれた先輩に、そんなだらしない格好を見せるものじゃない。早く顔洗って来なさい」
「ごめんなさいねー鷹藤さん」
「いえ、こちらこそすみません。突然お邪魔してしまって…おはよう、満。朝早くに押し掛けてすまない」
ねぇ。
誰、このひと。
どちらさまですか?
相月家全体に、パルプンテか何かかかってません?
もしくは俺こそが異邦人なの?
ど金髪で耳にも手にも首にも腰にもじゃらっとアクセつけて、姿形格好は何ら変わりないのに。
パパンと大人っぽく談笑して、きちんとした姿勢でソファーに腰掛けて、ママンに礼儀正しく微笑みかけて、俺など見向きもせず甘えるコマツナを慣れた手付きで優しく抱き上げてる。
こんなひと、俺、知らないんですけど!!
つか、大魔王さまに関して極悪な噂しか聞いたことないんですけど!!)
「あなたはいつまでボケっと突っ立ってんのよっ!失礼でしょっ!!ほら、朝の挨拶して!さっさと着替えて来るっ!!」
ママンの恐ろしい脅し(小声)に屈し、腑に落ちないながら俺はもごもごと呟いた。
「おお、お、おはようございまふ」
「おやおや、満は先輩の前で緊張してるのかな?」
「ホホホ、この子ったら!ごめんなさいね、まだ寝惚けてるみたいで」
な、なんなの!
このアメリカーン!ホームドラマなノリ。
コマツナまで、締まりのない俺をワフワフ笑っているではないか!!
大魔王様こと鷹藤光先輩は、何も意に介さない大人の態度で、あろうことかにっこりと微笑み。
「おはよう、満」
また挨拶の言葉を賜ってくださった。
2010-10-14 23:31筆[ 5/25 ][*prev] [next#]
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