１
眩しい笑顔が、一転。
「…嘘」
「へっ？」
超絶美形、もはや神々しい美形の笑顔に、目を奪われていた俺は、ぽっか――ん。
放たれた言葉を、ただ享受するのに精一杯。
嘘？
笑顔から一転、世にも恐ろしい悪魔の嘲笑の出現にも、ぽっか――んとしているしかなかった。
ぼんやりと、こんな「いかにも」的な嘲笑よりも、さっきまでの笑顔のほうがいいのになって想った。
「嘘に決まってんだろ？まさかてめぇ、本気にしやがったのか？この泣く子も黙って走り逃げ出す天下無敵の『kitty』総長の俺様が、てめぇの様なド平凡でドチビな何の為に生きてんだか意味無ぇ存在を、間違っても目にかけるワケないだろうが？」
そんなの。
そんなこと、今更いちいち言われなくたって、俺が１番わかってるし！！
それより、嘘って…嘘って…
呆然として言葉も出ない俺、悪魔大魔王の後ろから不意に現れた、これまた大魔王様よりは劣るものの悪名高い不良さん方に、指を差されながらゲラゲラと爆笑された。
「ちょっとちょっとー！まさかの本気にしちゃった系〜？！」
「総長がてめぇを相手にするワケねーだろうが！自惚れんな、平凡チビ！！」
「しっかし、総長はマジ名俳優っす！」
「性別とか身分差の問題じゃねぇっつーの、こんなだっせぇ男、フツーの女でもごめんじゃね？！」
「マジ笑えるー！！見ろ、あのマヌケ面！！」
嘘って。
さっき言ったこと全部、嘘っていうこと？
「てめぇなんざ、サンドバックやパシリの価値すら無ぇ。茶番は終わりだ、消え失せろ！！」
「消えろ」
「消えろ」
「消えろ」
「消えろ」
「消えろ」
吹き荒れる、嘲笑の嵐。
いつの間にか随分人が増えて、その全員が俺を罵り、茶化し、蔑み、嘲笑っていた。
中には、さっきの告白シーンを、わざと大げさに再現して見せる人達もいた。
俺は、言葉の暴力の数々が痛くて痛くて、立っていられなくてうずくまった。
耳を塞いでも、どんなにちいさく縮こまっても、消えない嘲りの大合唱。
助けを求めるように、中心に立つ人を見上げた。
大魔王は侮蔑の眼差しで、誰よりも高雅に嘲笑っていた。
全部、嘘？
どうして？
「――…うーんうーん…嘘にゃんて…ひ、どいよ…むーんん…ふがっ…ふゃはっ？！」
「満っ！！！！！いつまで寝惚けてるの、このバカバカ息子！！一大事よっ、早く起きなさいっ！！」
ノーノーノー！！
ママン、ママン！！
起きたくても起きられまへんっ！！
枕が、枕が俺の顔面にウルトラ密着、ガチ死亡の予感です。
ああ、なんか意識が朦朧とする。
「起きろ―――！！！！！」
「へぎゃぁっ！！」
ドッターン！！
と、何やら盛大な音がこだましたと想ったら。
床とおはようのキスを交わしたいがためにベッドから転がり落ちた音でした。
えへっ！
いや、したくなかったっス。
ファーストチッスもまだでごめんあそばせ、ピュアピュアボーイの俺、チッスには夢ありまくりの乙女ん(おとめん)ですもの。
こんなとっ散らかったマイルームのフローリング味なんて、イヤよ。
そうね、夜の海で穏やかに打ち寄せる波の音を聴きながら、無数の星々に祝福されて、それは甘い甘いハニーレモン的なスイーツ風味のファンタジーチッスをゆっくりじっくりコトコト、何度も何度も…でも、軽くソフトな…
バッコーン！！
と、何やら盛大な音がこだましたと想ったら、学校の指定革鞄で頭を殴られた音でした。
てへっ！
いや、痛いっス。
頭も痛いけど、心臓も痛い。
「ヒドいよ、ママン〜」
「満ちゃん…？」
「ひっ！！あ、あ、あ、綾子様！え、えーとそのぅ〜おはようございます？」
「おそようございます、可愛い可愛いバカ愛息子の満ちゃん。まだ脳内惰眠中のご様子ね？広辞苑もイッとく？」
「！！！！！いいえ、いいえっ！！僕、もうすっかり起きましたよ！！すみませんっ、朝食の仕度がまだでしたわよね？！今すぐ！今すぐに学校を洗ってお弁当にアイロンかけてシャツを作って顔を食べて洗面所で朝ごはんへ向かいますから！！」
「何ひとつ合ってないわ。満ちゃん、落ち着きなさい。何処へ持って行こうってのよ、そのデスクトップPC。とにかく、一大事よ」
一大事？！
「安心しなさい。寝坊じゃないから」
え？！
寝坊じゃないなら、ママンが俺を叩き起こした意味がわからない。
つか、俺？？？
床にへたりこんだまま、抱えたデスクトップとママンをおろおろと見比べていたら、ママンの親指と人指し指が拳銃の形になって、俺をバーン！と打った。
「神がかった超絶美形が、下に満ちゃんを迎えに来てるわ。こんの美男たらしぃ〜！やるぅ〜ヒューヒュー！」
神がかった超絶美形？！
2010-10-14 18:57筆[ 4/25 ][＊prev] [next＃]
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