後で、手紙を書きます。


 「別れよう」
 

 そう言ったら、ぼんやりとバラエティー番組に興じていた顔が、笑ったまんまこっちを振り返った。

 「んー?」
 冗談だと、想ってる顔。
 返しに困るって、書いてある。

 TVの中は、相変わらず盛り上がったまんま。
 『相方に一世一代の告白をするとしたら、何を伝えますか?!』
 お笑い芸人のコンビが複数出演している、企画型特番での一幕。
 いつも憎み合いけなし合うのが芸風のコンビの片割れが、『実はお前のこと…めっちゃ好きやねん…!』と告白したり。
 クールな政治経済以外興味ありませんっていう堅物キャラの片割れが、『実は…最近、結婚しました。女好きのお前を差し置いてごめん』と告白したり。
 世紀の告白に、スタジオは沸き、相方や司会担当の芸人さんの反応が面白い番組。

 2人で、イワシの梅煮と青菜と豚肉の炒めもの、いろんなきのこ沢山の味噌汁と炊きたてごはんっていう、質素な夕食を食べながら笑って見ていた。
 気にいりの芸人がたくさん出ているのだと、爆笑しながら、ふと。
 「なぁ、お前は俺に一世一代の告白とか、何かある?」
 軽い調子で、お前が聞いて来たから
 もう、限界だったから、そうだなあ…ってワンクッション置いてから。
 笑顔で、言った。
 特に俺の返事を期待せず、すぐにTVへ戻って行った横顔に、言った。

 「今、何てー?」
 どっとおおきな笑いが起こっている、平和なTVの中。
 あくまで軽い調子のお前。
 俺がどれだけお前惚れているか、お前は知っている。
 実際、恥ずかしくなるぐらい、俺の世界は君だけで、君だけを愛してきたんだけど。
 大方、また愛の告白でもしたんだろう、ぐらいに想っている筈。
 何の不安も、何の感情の揺らめきもない瞳。

 その、俺を信頼しきってくれる瞳が、だいすきでした。

 
 「別れよう」


 やっと、俺が本気だっていう事実を呑み込んだ、彼の手から箸が転げ落ちた。
 「……え?」
 TVはCMに変わった。
 この時間帯に相応しい、家電やシチューや住宅関係なんかの、温かい家庭を喚起させる作りのCMが次々と流れている。
 強張った彼の瞳から、決して視線を逸らさずに、淡々と告げた。
 「俺たち、別れよう」
 「なん…お前、何言って…?」
 そう、ほんとうに君の言う通りだ。
 
 俺が惚れ込んでいるのをいいことに、俺の気持ちを弄ぶように、元々モテる特質を利用して散々浮気を繰り返して来た君。
 浮気相手はいつも女の子で、それが身を切られるように辛かった。
 好きになって、10年。
 その内、付き合ってもらえた期間は3年。
 いろいろなことがあった。
 ほとんどいつも泣いて泣いて、でも時々優しくしてもらえたら、それだけで満たされて。
 いろいろなことを言われた。
 お前なんかセフレだ、お前しか愛していない、真逆の言葉をたくさん、たくさん…

 友だちまで巻き込んで、親にもバレそうになって、すごく濃い喜怒哀楽の日々を経て、やっとここまで来た。

 2人で暮らし始めて、春夏秋冬が訪れて、もうすぐ新年を迎える今。
 
 「ごめんね。飽きちゃった。平穏な暮らしに、一緒に居ることに…。なんか疲れちゃったんだ。もうとっくに気持ちが冷め切ってるのに、情でだらだらと一緒に居るのは違うなって想って。男同士だしさ…お互い、まだやり直し利く年齢じゃん。だから、俺たち、別れよう。ただの友だち、幼馴染みに戻ろう?」
 「おい…!何勝手に決めてんだよ…!」
 「ごめん。ごめんね、一世一代の告白って言うから…でも俺、本気だよ」
 まっすぐに見つめ返せば、俺の深刻さがわかったのだろう、息を詰める気配が返って来た。

 ごめん。
 驚かせて、ごめんね。
 でも、すこしは変だなって感じてただろう?
 最近の俺は、君と一緒に居てもぼうっとしていることが多かった。
 食事も前より凝ったものを作らなくなったし食べなくなった。
 一緒に眠ることもせず、段々と口数が少なくなっていった。
 笑わなくなっていた、すこしは気づいてくれていただろう?


 「もう荷物は纏めてあるんだ。これ片付けたら、俺、出て行くね。今までありがとう…いろいろあったけど、今となっては全部いい想い出だし、ほんとうに楽しかった…俺と付き合ってくれてありがとう。
 いつか、さ…同窓会とかでさー…笑える良い想い出になるよね?俺たち、付き合ってたんだよってネタにしたりしてさ。
 あ、でも、好きだったことは嘘じゃないよ?ほんとうに愛していた。こんなに人のこと好きになったのは、初めてだった…気持ちが続けば良かったんだけど…。
 勝手ばかり言ってごめん。じゃあ、さようなら…バイバイのほうが、俺たちらしいかな?

 バイバイ、今までほんとうにありがとう…」




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