また巡る時、この星の下で。


 稲妻の如き銃声。
 末期の命の罵声、叱咤を互いに浴びせ合い。
 重なる剣の火花、閃く音。

 幾千幾万もの人馬と共に大地を踏みにじり、潰した花の行く末を後に想う。

 燃え、猛る炎。
 吹き荒ぶ熱風に頬を焼き、何時までも命在る限り駆け続ける事を、天に誓った。
 
 唯、己が護りたいものをひたすらに…

 例え天命に逆らおうとも、護り抜く覚悟のみ。
 心の剣は永久に折れない。
 けれど、戦は終わる。


 
 「…此所が最期の地となりましょう。」
 冷徹にして有能、そして誰よりも忠義に厚い、右腕の静かな声。
 こんな時でもこの男の横顔は涼しい。
 昨日の戦いで失った左腕の事など、まるで気にもしていない。
 「皆を労ってやれ…酒も食糧も在るだけ出してやれ。明朝、決着だ。」
 血の混じる汗を拭い、己の掌を見遣った。

 未だ、この心も身体も、この忠臣も生きている。
 
 明日に全てが果てる事を想っても、微塵の恐怖も悔悟もない。
 想うが侭に在った、20年の生涯だった……

 唯一つの心残りを除いては。

 「齋隠寺(さいおんじ)」
 「はい。」
 「俺は少し散歩に出る。日向(ひなた)を連れて行く。」
 「馬ですか、人ですか?」
 「阿呆、両方だ。直に戻る。」
 「お気を付けて。」
 言うなり重苦しい甲冑をその場で解いた。
 慌てて従者が寄って来るのを目で確認しながら、苦楽を共にした剣を手に立ち上がった。
 この地方ならではの冷たい夜風が、傷を負った身体の彼方此方を撫で摩っていく。 

 「……白勢(しらせ)様」
 「あ?」
 振り返りもせずに背中で問うた。


 「貴方と共に在り、今生を活かした事を誇りに想います。」

 
 一度たりとも聞いた事のない、何故なら態度で全てが解ったから…
 年上の従兄弟として出逢った、今の今まで一度たりとも道を違えた事のない、忠義厚き「戦友」。

 正面から向き直り、微笑ってみせた。
 

 「阿呆!まだ生きてる。その言葉は明日まで取っておけ。」
 

 「失礼致しました。」

 きっと気の所為ではないだろう、齋隠寺が初めて微笑った顔を見た。



 2008-02-13 22:31筆

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