ハレルヤ!(2)


 「お前ら、その辺にして後は俺に任せとけ」


 ふいに響いた、低く、色気のある声に、キラキラ星人共もそりゃあ安心しただろう。
 だけど、俺のほうが、もっと安心してる。
 ぎしっと椅子が軋んで、アイツが立ち上がるのが見えた。
 「兼坂環」
 その声に名前を呼ばれただけで我を忘れそうになる。
 必死でぎっと強く睨みつけた。
 「何度注意してもお前の素行は正されない…どうやら、俺直々によく言って聞かせる必要がありそうだ……なぁ?腹を割って話し合おうぜ、じっくり、な…?」
 「……ウゼェんだよ、たかが生徒会長風情が…てめぇがそんなにこの俺とおしゃべりしたいってぇなら、拳で相手してやらぁ。来いよ」
 「会長!校内で暴力沙汰は、」
 「心配すんな。こんなチビに誰がヤラれるかっつーの。お前らは外へ出てろ。風紀と一緒に校内見回りでもして来い」


 かくして、2人きりになって。
 数分後、複数の足音と声が、完全に遠ざかってから。

 
 「なおっ!!」

 ゆったりとした姿勢で机にもたれて立っていた、生徒会長…もとい、コイビトに俺は助走をつけて抱きついた。
 「おっと……めぐ、こら…危ないだろ…?」
 ちょっと身体が揺れただけで、余裕で受け止めてくれるコイビト。
 コイビトのガタイの良さは見かけ倒しではない上、俺よりよほど腕が立つ。
 がっしりとした温かい腕の中、この上なく優しく甘い瞳と視線が合って、やっと心の底から安心した。

 「まったくお前は…俺をどれだけ驚かせたら気が済むんだ?暫く大人しくしている約束じゃなかったか?どうした、この髪とピアス…」
 形のいい指が伸びてきて、髪とピアスに触れたかと想ったら、呆れたため息が聞こえた。 
 恐る恐る見上げた、誰より整いまくった顔は、別に怒っているわけじゃなさそうでホッとした。
 「ダメか?だって、大人しくしてたらなおに会えないし…ちょっとでも目立ってやったら、こうしてすぐに会えるから…」
 「めぐる……」
 「似合わねぇのはわかってんだけどさ…なかなか会えないから…」
 こうしてバカみてぇな格好するしか、立場が違いすぎる俺となおが校内で会うチャンスがないから。

 「…そんな事はない」
 「え?」
 ぼうっと俯いていた顔を上げたら、なおが、ものすごく優しく微笑ってて、落ち着いていた心臓がまた騒ぎ始めた。
 「この髪、めぐによく似合ってる。お前、色素薄いからな、こういう淡い色がよく似合う…ピアスも…コレ、俺があげたヤツだろ?」
 左耳の上につけた、シルバーの輪っかに、なおの唇がそうっと触れて。
 びくりと肩が震え、触れられた部分に熱が集中するのがわかった。
 「も、もー…わかった…?」
 「当然。いつ着けてくれるのかと想ってた」
 「いつ、どこに着けようかと想ってた…なおが折角くれたから、どーせなら新しく空けようと想ってさ」
 「そうか…じゃ、此所は俺専用だな」


 得意気に誇らしく微笑う、ちょっとガキっぽいなおの顔は、俺だけが知っている特別な顔。

 今、この瞬間だけは、ほぼ全生徒から注目されて憧れられている、生徒会長じゃない、俺だけのコイビト、俺だけのなお。


 「そーそー!今日のなおの挨拶も超カッコ良かったー!俺、あの時だけはバッチリ起きてたから!」
 「朝礼な…珍しくめぐが来てるのがわかったから、ちょっと張り切ってみた。お前、俺の話が終わるなりすぐに消えただろう?」
 「え、そこまで見えた?」
 「当然」
 しょうがないな、めぐはって言って、染めたての髪をくしゃりとかきまぜる。
 優しい指、優しい瞳、優しい体温、全部全部、俺だけのもの。

 「今日、会いたかったのは、さ…いつも、会いたいんだけど…最近、なお忙しいだろ?疲れてるみたいだから、差し入れ持って来た」
 こっそりとブレザーの内ポケットに潜ませて来た、手製のチョコレートブラウニー。
 おおきな手の平に落とすと、ちょっとだけ目を見張ったなおは、すぐにしあわせに満ちた笑顔になって。
 ぎゅうっと、抱きしめられながら。
 好きだ、愛してると、囁かれながら。
 俺もだよと、応えながら。
 ちいさくキスを交わしながら。


 この時間だけ、永遠に続いたらいいのに。

 虚しく、想った。


 
 2011-03-30 23:59筆


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