ハレルヤ!


 ――1年F組兼坂環(かねさか・めぐる)君、至急生徒会室までお越し下さい。
 繰り返しお呼び出し申し上げます。
 1年F組兼坂環君、神妙に5分以内に生徒会室へ来やがって下さい……――

 
 「おぉー?環、お呼び出しだってよー」
 ギャハハハと下卑た笑いがそこらで沸き起こり、それでやっと気づいた(ように見せかけて)、顔からバイク雑誌を取り除き起き上がった。
 「……あぁ"?」
 想いっきり眉間にシワを寄せて辺りを睨みつけ、低く唸ってやれば、しーんと空気が凍る。
 いつものパターンだ。
 
 ――繰り返しお呼び出し申し上げます――

 校内放送が延々とくり返されているのが、遠くで聞こえる。
 俺とどうにか視線を合わさない様に、大概の人間が俯いたりあらぬ方向へ視線を彷徨わせる中、1番付き合いの長いダチだけが飄々と背中を押してくれた。

 「環、朝から寝過ぎ。頭、ボケてんじゃね?せーとかいからお呼出しだってよ〜早く行っといで〜!じゃねーと、まぁた俺らの聖域までアノ腐れ外道鬼畜俺様生徒会長が乗り込んで来たら面倒くせーじゃん。ホント、ヤツが会長になってからウゼェ事、ウゼェ事!今や俺らの唯一のユートピアは、此所、屋上だけになっちまったい!嘆かわしいねぇ〜だからせめて此所だけは死守しねぇとね〜。
 って事で、さっさと啖呵切って来いっつ〜の!期待してますぜ〜。よっ!1代で東地区制覇しちゃったそーちょ〜!」
 「っち…ウゼェのはてめぇだっつの、柊(しゅう)。フツーこーゆー厄介事は副総長であるてめぇの出番だろーが、あぁ?」
 「あ、無理〜俺、アノ会長だけは生理的に受け付けねぇのよ〜やっぱあーゆー大物には同じく大物のそーちょーが当たるべきさ〜!宜敷くお願い致します!総長のご武運をお祈り致して居りますっ!」
 「ごぶぅん…?はぁ?5分…?5分でカタ付けて来いってか…それぁ流石の俺でも難題だ、なるべく早く話つけて来るがよ」
 「あーはいはい、5分でも10分でも1時間でも何だってい〜から、早いとこ行ってらっしゃいませ〜」

 あ?
 何か無性に腹立つな…バカにされてないか、俺?
 けど、ほとんど万人に有効な俺の睨みも、コイツには効かない。
 どんだけ睨んでも、しっしとばかりにヒラヒラ手を振られるだけだ。
 柊め…今に見てろよ…!
 すうっと息を吸い込んで、怒声を響かせた。
 「ってなワケでてめぇら、留守は頼んだぜ!ちょっくら生徒会で遊んでくらぁ。ふん…2・3発殴ったらすぐ戻って来る。良い子にしてろよ」
 「「「「「押忍!行ってらっしゃいませ、総長!」」」」」
 十分に睨みを利かせてから、びしいっと直角で頭を下げる長身の男共が居並ぶ中、堂々とした足取りで屋上を後にした。
 バターン、がしゃんっ!と騒々しい音をわざと立て、「立ち入り厳禁」の札が掛かった扉を閉めた後。

 俺は、猛ダッシュで階段を駆け下り始めた。

 
 「「「「「……副総長…あの…総長って、やっぱり……」」」」」
 「アッハハ、やっぱりどころか、ありゃ正真正銘ど天然のバカだわな〜お前ら、見たぁ〜?あんだけイキがっておきながら、アイツ、寝癖はついてるわ、顔に雑誌のアトついてるわ、シャツの下からタンクの裾が中途半端にはみ出してるわ…あーマジ笑かしてくれるわ〜!」
 「「「「「……ぷっ……」」」」」
 「ケンカの腕は立つのにね〜」
 「「「「「はい、マジで」」」」」
 「だからこそ、ギャップ萌えっつか…アイツの幸せは守ってやりたいっつか…」
 「「「「「副総長〜?何かおっしゃいました?」」」」」
 「いーえ〜別に〜?さぁて!何かと口うるせぇそーちょー居ない内に、『賭博人生ゲーム』でもしよ〜ぜ〜!」
 「「「「「ウオー!!」」」」」
 

 この顔で良かったと、想う時。
 生まれつき目付きが据わってて、最強に人相が悪い、ほぼ誰からも恐れられるこの顔。
 この顔のお陰で、今みてぇに焦って急いでいる時、通行人がものっそい勢いで避けやがるから、自然と走りやすくなる。
 理想よりも伸びなかった(まぁな?!言ってもまだ、俺高1だしな?!これから伸びるかもだしな!)身長、筋肉が付きにくい(まぁな?言ってもまだ以下略)体にも、こんな時ばかりは有り難ぇと想う。
 ちょこまか動きやすい。
 逸る気持ちと比例して、俺は校内を暴走し続けた。

 じゃあ、この顔やこの体型を後悔する時は?

 目的の部屋の前へ着き、「生徒会執行委員控え室」といういちいちゴツいプレートを睨み上げながら、呼吸を整えた。
 上手くやらねぇと…
 緊張でばくばくしている心臓をなだめるように深呼吸し、より一層眉間に力を込めてから。
 ばーん!っとノックもせずに扉の把手へ手をかけ、薄く開いた隙間に足を差しこんで蹴り上げた。
 暴挙で開いてやった扉の向こうには、唖然とするキラキラ星人軍団と。
 一際ゴーカなテーブルセットにふんぞり返っている、アイツがいる。
 ばくばくしていた心臓が、違う意味で騒ぎ出して、慌てて俺は更に目に力を入れた。

 「この俺を呼び出したのはどいつだ…?ヒトが折角気分良く昼寝してたのによぉ…安眠妨害たぁイイ度胸じゃねぇか…あぁ"?」
 「兼坂君、君という人は…何処まで野蛮なんだか。流石猿山のボスだけあるね、いっそ感服するよ」
 キラキラの1人、メガネ星人(確か、副会長?)がこっちを見下ろして来た。
 コイツがいっつもナニ言いてぇんだか、俺にぁまったくわかんねぇんだよな。
 さすが猿山のボスって…つまり、誉められた?
 カンプクするって、ナニ?
 取り敢えず睨み付けたら、悔しそうに視線を逸らされて、益々意味がわからない。
 
 「猿め…学園のクズの分際で偉っそうにしちゃって!チビで1年の癖に生徒会に歯向かうなんて生意気!!」
 「あぁ"?」
 「そうやって暴力に訴えたら良いと想ってる、君の程度の低さに我々は心底呆れるよ」
 「あぁ"?」
 「分からないのかな…?君にはついこの間、身だしなみ違反で厳重に注意したばかりだよね!」
 「あぁ"?」
 「それなのに、休み明け早々にそのバカみたいな金髪と大量のアクセサリー…いい加減にしないと停学だけじゃ済まないよ?」
 「あぁ”?」

 ピーピーわーわー喚き出すキラキラ星人達に、1回1回ていねいに凄んでやったら、誰もが最終的には黙りこくってそっぽを向いちまった。
 ふん…
 それにしても、いつ見てもコイツら、無駄にキラキラ発光してやがる。
 育ちの良さがぶわぁっとあふれてやがる。
 家柄、成績共に良く、更に美形でなければ入れないという、学園のエリート中のエリート、生徒会役員。
 ほとんどの生徒が憧れを寄せる、キラキラ星人達。
 コイツらの前に立っていると、俺がどんだけ…――。




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