届かない、届けない


 友達と連れ立って、ふざけて歩く帰り道。

 かけがえのない時間だって。
 最近、ふとした瞬間によく想うんだ。
 こんななんてことのない、当たり前の日々。

 ありふれた、特に際立った特徴のない日々が、大事なんだって。
 
 もうすぐ、俺達は卒業する。
 この時間が終わっていこうとしてること。
 簡単に終わる様な、脆い交友関係じゃないって、自負してるけど。
 それでも、それぞれの道を進んで行く俺達が、今みたいに気軽に集まる時間は少なくなるだろう。
 お互いの新しい世界ができたら、きっとそっちで手いっぱいになって行くだろう。

 今までのことを忘れるとか、忘れないとかじゃなく。
 俺達は年を重ねる毎に、自然に追われて行く。
 なりたくなくても、大人になって行くから。
 例え、友情は変わらなくても。
 俺達自身が、変わって行かざるを得ないんだ。 
 そう気づき始めて、俺は、じゃあ今を大事にしないとって想う様になった。
 特別に何をするワケじゃないけど、何てことのない日々を、心から味わって噛み締めて過ごそうって。

 特に…

 目の前を歩く、背の高い後ろ姿を、何気ないフリをして見上げた。
 ラフに流した、クセのある髪…何度も派手に染めてる髪。
 細身だけど、実はがっしりした、男らしい広い背中。

 くだらないことを喋りながら、前で笑ってる、親友…

 黙ってたら目つき悪い愛想ない顔が、ふにゃっと目を細めて笑ってるんだろうその顔、見なくてもわかる。
 笑いのツボは一緒なのに、頭のデキが違うから、大学は別。
 あと数ヶ月でやって来る、春にはもう、別々の道。
 それを想うと、今からどうかなりそうなぐらい、心臓の辺りが重いけど。
 先のことは考えないって、決めたんだ。
 今、一緒に過ごせる時間を、大事にするんだ。


 こんな想い、一生、言えるワケないから。

 
 俺を囲む様にふざけていた悪友共が、ふと申し合わせた様ににやりと笑った。
 前で盛り上がってる、親友の後ろに音もなく近づき。
 1人がスラックスの後ろポケットから、素早くヤツの携帯を抜き取って戻って来た。
 ヤツはまったく気づくことなく、相変わらず何かで盛り上がって話し続けている。
 その様子を一緒に盗み見て、爆笑を堪えてる悪友共と、苦笑した。
 「じゃーん!さてさてどんな携帯ですことやらー!」
 スリ取った携帯を得意気にかざし、開こうとする悪友に、やめとけよとか何とか、フォローにならない柔らかさで言いながら。
 実際、俺も少なからず、興味があった。


 開かれた画面を見て、どん底に落とされるなんて、薄々わかっていた筈なのに。


 「ヒュー!さぁすがー…!」
 「愛妻家ですなあ…」
 「羨ましいですなあ…」
 「ちょ…マジ、可愛くね…?!」
 「「「「さすが過ぎて、ムカつく気も起きねー…」」」」 
 異様に盛り上がる悪友共の気配に気づいたヤツは、やっと何事だって振り返った。
 自分のものらしき携帯を、まじまじと見つめるヤツらに、一瞬ぽかんとし、慌てて後ろポケットを探って。
 「おい…いつの間に…」
 「「「「今の間ー!」」」」
 「お前らなぁ……良いコちゃんだから、返ちてね?」
 「「「「あーい」」」」

 冷やかされながら、苦笑いして。
 でも、満更でもないって顔…
 見ていたくなんかないのに、目、逸らせなくて。


 1つ1つの仕草が、表情が、大事過ぎて。


 待ち受け画面に設定されていた、他校のカノジョさんの笑顔、忘れられないのに。
 すげー大事にしてるって、本気で結婚も考えてるって、真面目に語ってた横顔すら、大事だったんだ。
 

 ……どうして……?


 自分の想いに気づいてから、俺は、ただ。
 言えるワケないから、側に居られたら、それだけで良い。
 ヤツに大事な大事なカノジョが居るって、もう知ってるし。
 だから俺は、親友の位置がキープできたら、それで良い。
 そう想ってるのに。
 それは嘘じゃないのに。

 重い。
 
 胸に伸し掛かる、モヤモヤが重い。

 
 皆に混じって、笑いながら歩く帰り道。

 卒業したくない、いつまでもこのままで居たいっていう気持ちと。
 早く卒業したい気持ちと。

 なかったことにしたい、重苦しい想いと。
 知ってしまったから、大事にしたい想いと。

 いろんな感情の狭間。

 前を行くヤツの肩越しに見えた、鮮やかな夕陽のオレンジ色が、ひどく目に眩しかった。



 2009.08.10 18:43筆



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