glass


 後悔、してばっかり。
 生まれて17年、後悔ばっかりだ。

 「え…?」
 話が、違う。
 何か、あるんじゃないかって。
 頭のどこかではわかってたけど。
 「だあってさぁ〜こーでも言わないと、朝日(あさひ)、来ないだろ?俺はねーマジメに朝日君の未来を心配してるワケですよ。健全な男子たるもの、やっぱ遊ばにゃ〜!な!?今夜はパーッと行きまショー!イエーイ!」
 引きずられる様にして、連れて来られたのは、コイツ…深夜(ふかや)の行きつけのクラブで。

 「ココさぁ、可愛いオンナノコばっかだから。あ、つってもだいじょーぶ!ギャルっちーのはあんま居ねえし、皆フツーに可愛いし〜たまにお嬢高のコとかも居て〜」
 抵抗して。
 こんなことなら、帰るって。
 言う間もなくて、どんどん薄暗い店内へと連れられて行った。

 深夜は、ここでも、学校と同じ。

 どこに居てもコイツは、持ち前の人懐っこさで誰からも愛されて。
 整った容姿とモデル並みのスタイル、今っぽいファッションもさり気に個性的で、誰からも羨望の眼差しを浴びて。
 あちこちから声かけられて、にこにこ笑ってる横顔。
 見上げて、内心ため息をついた。
 帰る、って言いたかった。
 2人で遊ぶって、言ったじゃんか…
 バイト代入ったから、いつものファミレスじゃなくて、カフェバーで美味いもの奢るって。
 お前が、そう言ったから、俺は…


 「――…深夜〜?!」
 
 その時、すぐ近くでコイツの名前を呼ぶ声が聞こえた。
 目を上げると、久しぶり〜とか言って、女の子2人連れと、ハイタッチしてるのが見えた。


 ――ちくり――


 いつもの、痛み。
 もう慣れたけど。
 ちいさなトゲが、心の奥底に刺さる音、聞こえた。
 
 ふわふわに巻いた、胸元まである栗色の髪。
 くるんとカールした睫毛に、キラキラしたメイク。
 パステルカラーの、柔らかそうな素材のミニワンピース。
 ろくに物が入らなさそうな、ちいさなカゴバッグ。
 ビーズやラインストーンなんかのアクセ。
 花がついた玩具みたいなサンダル。
 女の子はどっちも、同じ様な格好で、同じ様に甘い匂いがした。
 
 深夜と話す女の子は、全部同じに見える。
 どんな女の子も、深夜と話す表情は、満面の笑顔。
 嬉しそうに楽しそうに、深夜の目に留まったことに、幸せそうで。

 女の子に生まれたことが、ほんとうに幸せそうで。

 
 ――ちくり――


 「――…あ、そだ〜お前らさ、これからヒマ?俺らと一緒にカラオケでも行かね?男2人で寂しーんだ俺ら」
 深夜の思いつきに、2人は顔を見合わせて、ビックリした顔。

 「え…深夜、そのコ…深夜の連れの女の子じゃないの…?」

 一瞬。
 時が、止まった。 
 1つずつ刺さるトゲが、いきなり100本刺さったみたいだと、俺はのんびり、想った。
 深夜は、一瞬固まってから。
 盛大に、爆笑。
 ひとしきり笑った後、俺の肩をぐいっと引き寄せて。
 何の遠慮もなく、バンバン、肩や背中を、叩かれて。

 「おっかしー…!はははっ、コイツは俺のガッコのツレ!朝日っつーの。確かにカワイー顔してっけど、正真正銘男だし。ツレはツレでも、違うツレ!」
 深夜の爆笑に女の子達もつられて、くすくす笑い始めた。
 「なんだ〜そっかぁ!」
 「ビックリしたあ!本命いない筈の深夜に、カノジョさんいたのかと想って〜」 
 笑いながら、女の子達が安心しているのが、わかった。

 俺は、深夜に叩かれた肩と背中が、ただ、痛かった。

 ほっとした表情を浮かべて、女の子達は、女の子らしく。

 残酷で。

 「でもさ〜マジで勘違いする程カワイイよね〜?朝日くん、だっけ?」
 「ホントホント!付き合っててもおかしくないぐらいだよー!深夜とお似合いだよ?」

 耳が。
 ざわざわとうるさい、クラブの雑音を、拾わなくなって。
 いろんな音、何も聞こえなくなって。 
 深夜の、声だけ。
 深夜の声だけを、拾って。

 
 「バッカ、やめろよ!冗談でもキツいって!男同士なんて有り得ねー!考えただけで鳥肌立つし…!うっわ、お前らのせいでマジ鳥肌立った〜!なあ、朝日?お互い勘弁だよな!」


 大きな、明るい声。
 ふざけた声音。
 冗談が好きな深夜の、大ゲサなリアクションと笑い声。
 女の子達が更に笑う声。
 どうして笑っているのかって。
 俺には、わかる。


 ほんとうにそんなこと、有り得ないって。


 俺以外の皆、想ってることだから。
 だから、全部、冗談にできるんだ。
 
 俺だけ、何も言えず。
 一生懸命、苦笑を浮かべて。
 
 まだ、肩に残ってる手の熱さに。

 憎悪と愛情を、同時に感じていた。


 なあ…
 このまま、ずっと…

 俺の人生って、後悔しっぱなしのまま、終わるのかな…?



 2009-06-26 21:27筆


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