片羽根


 このままでいい。
 このままでいいんだ。

 お前といつまでも仲良く、笑っていられるなら。
 俺の想いなんか、届かなくったって。


 「……へー…またカノジョとケンカしたんだ〜?」
 「んー……」
 今朝から機嫌悪いって想ってたら、やっぱそんな理由。
 気になって聞き出して、これほど損する話って、ちょっとない。
 「そーじろーさー…何回目だっけ…?今週入ってからのケンカ」
 「…うるさい。放っとけ」
 外見、かなり大人っぽい秀才に、見えなくもないモテ男が。

 むくれた子供みたいに横を向く、それを隣で独占できるのって、おいしいよな…?

 そーじろーがありのままの自然体で居るのって、俺の前だけ、だよな…?

 その遠い目線が、誰のこと想ってるかって、俺が1番知ってるけど。
 「ったくー…自分百戦錬磨ですってぇツラしてるクセに、実は経験浅いもんなぁ…ウチのそうちゃんはー」
 「…うるさいな…俺はナツメとは違う。ピュアボーイなんだ。もっといたわれ」
 「ぶはっ…!ピュアボーイって奥さん…!ピュアボーイって…!!何よピュアボーイ…!!まさかね…まさかピュアボーイとか…」
 「……連呼するなよ」
 ピュアボーイが聞いて呆れる。
 「ナツメとは違う」って…?

 俺がどれだけ、どんな風に、お前のこと諦めようとして頑張って来たか…
 お前がこうして、カノジョとのつまんねーケンカの話、振ってくる度に、ラッキーチャンスとも想えない俺のこと、何にも知らねーくせに。
 けど俺は、もう悟ってるから。
 大人になるって今年の正月、決めたから。
 ずっと、一生、高垣惣治郎の親友の位置、キープしてやるって決めた。

 一瞬で感じたこと、全部なかったことにして。
 俺の経験則から、カノジョの怒りが解ける方法、一緒に考えてやってアドバイス。
 これぐらい、なんてことない。
 一生治らない、ちっちゃいカサブタ。
 そう覚悟したら、もう、何てことない。
 泣かないって決めたんだ。
 俺のアドバイスを受けて、そーじろーのクールな顔立ちが、若干明るくなった。
 「…わかった…そうしてみる…」
 「いえいえーどーいたしましてー!」
 「流石だな、ナツメ…お前、勉強はからきしなのに、こういう言にはクルっクル頭回るのな」
 「一言多いんだっつの!!」

 こうやって、ふざけて、笑って。
 目が合ったら、また笑ってもらえる。
 それだけで、幸せなんだ。

 俺は、恵まれてるんだ……


 「ナツメみたいに不思議と気が合うヤツ…マジ居ない。お前が女だったら、俺達どうなってただろうな?」


 たとえ、地雷、踏まれたって。
 俺は笑える。

 「ナニ気色わりーこと言ってんだよっ!つか、俺が女かい!!」
 「痛てっ…相変わらず鋭いツッコミ…だってお前、黙ってたらそこらの女より可愛く見えるし、今までだって散々…ってナツメ!!飛び蹴りは止めろ!!」


 大丈夫。
 俺は大丈夫。

 だからずっと、側に居させて。
 
 お前は何も知らなくて良いから。
 ただ、こんな時間がいつまでも続いてくって…
 俺に、信じさせて。



 2008-10-04 22:40筆


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