ばあちゃんの葬式に来てくれてた、やたらにしゅっとしてイケメンな大人の男性を呆然と見上げたっけ。
 差し出された名刺を、ぼんやり受け取って。
 なんか高級感漂う、つるっとして分厚い紙には、流麗な文字が刻まれていた。
 「狐ヶ森学園 理事長 狐狸一之助(こり・いちのすけ)」と。
 まだ、ばあちゃんが亡くなったショックで、呆然としてる俺に、初めて会ったその人は何か、押し付けがましくなく優しい雰囲気で、訥々と語ってくれた。
 
 よく覚えてないけど、確か始めに、ばあちゃんとの想い出を語ってくれた。
 ばあちゃん、こんなイケメンとも接点あったのかよって。
 何かおかしくて、ちょっと泣けたんだよな。
 ばあちゃんの住んでた、狐ヶ森って山の上は、街から30分程離れたのんびりした場所で、古き良き日本ってーの?
 ご近所さんと仲良しで、屈託なくて豪快で元気なばあちゃんは、老若男女問わずいろんな人から慕われてた。
 
 急に畑で倒れてそのまま亡くなった時も、俺が駆けつけるまでご近所さんが一丸となって、精一杯の看病や何かと手を尽くしてくれた。
 葬式の時も、そうだ。
 突然のことで何も知らない、何もできない俺を、皆さんで手伝ってくれた。
 ばあちゃんの孫だって皆さん知ってて、葬式を取り仕切ってくれ、これからもいくらでも力になるから!って励ましてくれた。
 何よりビビったのは、葬式の参列者の多さだった。

 何百人、お別れの挨拶に来てくれたんだろう。
 絶え間なく訪れる人々、あまりの多さに入場制限まで設けられ、ばあちゃんの家にはいろんな供物が山と届けられた。
 皆が泣いて、でも最後は笑ってありがとうって、ばあちゃんを見送ってくれた。
 いろいろなことが目まぐるしく終わって、少し落ち着きたいでしょうって、皆さんが気を遣ってくれた合間に、この大層な肩書きのイケメンが登場した。

 「フミさんには生前、本当にお世話になったんだよ。恥ずかしながら、私が学園の事で悩んでいる時、何度フミさんに背中を押していただいたか…新鮮な野菜を学園に届けに来てくれたことも少なくない。生徒も皆、フミさんを慕っていてね」
 穏やかに語られた、その話の場面が目に浮かんで笑えた。
 『しゃんとしんねぇ!アンタは男だっけな!!どうしようもねぇ時しか泣くんじゃねぇよお。アンタなら大丈夫だけん。男の涙はぁ、とっておきの時の為に取っておきねぇ!ガハハ!!アンタなら大丈夫、なんとかなるさぁ。ババが保証するでなぁ!!』

 『ほぅれ、とにかく腹いっぱい食って、あったまって寝なされ!』って、食卓に乗り切らないぐらいのおかずやメシを用意してくれて、もう無理だって!腹いっぱいだって!って必死に言ってさ。
 『なんだぃ、ひょろっこいのぉ!!』笑ったばあちゃんに、風呂に追い立てられて、風呂から出たら布団に追い立てられた。
 消灯9時て!!って、ブツブツ文句言いながらも、ばあちゃんの美味いメシと熱すぎる風呂と、干したてふかふかの布団のおかげで、すぐ眠れたんだよな。


 『だーいじょーぶだぁ、幸音にはばぁちゃんがいるからなぁ!!お天道様も、お狐様も、幸音の味方だぁ!ガっハっハー!』


 あんなに元気で、あんなに笑ってたのに。
 雨ぐらいじゃへこたれない、山の上だってのに台風来ようと、台風のがビビるんじゃねって勢いで畑に出てた。
 何があっても、ばあちゃんはいつもお日様みたいだった。
 もう、いないなんて。
 信じられないよ、ばあちゃん。
 『うっそぴょーーーん!ガっハハ、ばあちゃんが死ぬわけなかろ?!幸音、びっくりしたかねぇ?』
 って、ひょっこり部屋の奥から出て来そうなのに。

 俯いた俺の肩に、そっと大きな手が乗った。
 「お孫さんがいると、街の中学校に通っていると伺っていたんだよ。君の身の上も…ご両親が早くに亡くなって、中学校を卒業したらフミさんの所で暮らすつもりだって。その時から私はフミさんに約束していたんだ。フミさんには本当にお世話になっているから、高校進学の時は私が力になりたい、と。幸音君、我が学園に是非、来て欲しい。一先ず高校に通ってから、今後の事を考えてみないかい?我が学園には大学部もある。もちろん、君の希望を最優先するけれど…力にならせて欲しい」

 それから、何度か狐狸さんと話して。
 話す内に、イケメンなのに温かい人柄に惹かれ、ばあちゃんとの様々な面白エピソードを伺うにつれ、親近感を持った。
 学園のことを調べたら、とんでもないお金持ち私立学園で、ぶっ倒れそうになったけど。
 必ず出世払いか、何年かかっても返済しますからと、約束してお世話になることに決めた。
 実際に俺には、他に行く所も頼りにできる人も、何もなかったから。
 
 そう。
 狐狸さんとは、何度も会った。
 何度も話した。
 眼鏡なしで、対面したし、食事したこともある。
 数時間、一緒に過ごした日もあった。
 それでも、何も感じなかった。
 ただ、この人ってホントお茶目で良い人だな〜ばあちゃんの良い人見つけ運ってすげぇなあ〜って、安心して想ってた。

 でも。
 見渡す限り、獣の耳や尻尾が大量発生。
 中には「あやかし」の術力が弱いのか、眼鏡を除けた俺の目からは、獣人にしか見えない存在も少なくない。
 「あやかし」が堂々と歩く、人だけじゃなくて「あやかし」にも妙に縁があったばあちゃんと、ご縁のあったこの学園の理事長。
 つーか。
 はたと気づく。
 苗字ぃぃぃぃぃ!!!!!

 「狐ヶ森学園の狐狸さん」て、キツネでタヌキて、想いっきりアヤシいよね!!!!!



 2016.4.30(sat)23:34筆


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