46.お母さんの食育道
そして、どうしてこうなった。
「詰めろよ」
「「詰めろよ!」」
「生徒会も風紀も専用席があるだろーが…」
「ちょっと〜横暴〜何なの、この状態〜」
「食堂の扉は万人に開かれている。此所は公共の場だ、譲り合うのが当然じゃないか」
「と言うか、最上級生に逆らうべからず、ですね」
「「「「ウザ…」」」」
「前君は『金曜日の創作料理プレート』か…そうするかな」
「……りっちゃん、おれ、も。」
「柾様、素敵……」
「萌えりー、パねぇ…!」
「このテーブル、ヤバくねー?」
「前、早く食え…出るぞ」
まさに、すし詰め状態とはこのことだろう。
8人がけのテーブルを2つ使わせて頂いていた。
そこへ、「武士道」の幹部メンバー4人+アイドルさま6人+風紀委員さま2人=プラス13人、つまり13脚の椅子を追加。
ぎゅうぎゅうだ。
ぎゅうぎゅう以外の何でもない。
両隣にいた仁と一成は押しやられ、なぜだか俺の右には生徒会長さまが、左にはひーちゃんがいる。
各自オーダーを済ませ、食事が運ばれて来て、尚、にぎやかになるテーブル。
わいわいするのは好きだ。
にぎやかな食事は、たのしい。
ひとりで静かな食事もいいけれど、やっぱり、誰かと食べるほうがいちばんおいしく感じる。
だけど。
しかし。
あれやこれやと言いたい放題、騒ぎ放題、食事の好き嫌い言いたい放題、とんでもないカオス。
このカオスを中心に、ざわめきが広がるレストラン内。
付近の生徒さまからは、「超貴重ショット!」と携帯電話のカメラを何台も構えられる始末。
挙げ句の果てには。
「はるちゃ〜ん、俺さぁ〜ピーマン大ッキラ〜イ!甘い人参もイヤ〜交換してぇ〜」
ひーちゃんのお皿から、俺のお皿へ、移動して来るピーマンさんと人参さん。
俺の中で、なにかが、フツリっと。
音を立てて切れたのが、わかった。
「いけませんっ…!!」
もうダメだ…止められない…!!
「アレルギーでも何でもないのに、ただの食わず嫌い、我が儘は許しませんっ…!!
ひーちゃん、あなたはちゃんと考えたことがあるのですかっ?!このピーマンと人参が生まれて、ひーちゃんの元へお料理の形として出されるまでに、どれだけのプロセス、どれだけのドラマ、どれだけの歴史…どれだけ多くの人々が関わって来て、自然の恵みを享受するに至ったかを…!!いいえ、考えたことがあるのならば、こんな風に簡単に無下にすることはできないでしょうねっ?!ならば、今すぐ考えなさいっ!!今!すぐ!考えなさい!!
このちいさな命の恵みの中にはですねぇっ、過去・現在・未来とそれはもう様々な数え切れない程の人々の想い、願い、俺たち子供が乗り越えられない程の苦労、創意工夫、汗と血と涙が詰まってるんですよ!!尚かつ、自然の力がなければここには存在し得ない、尊い生命なんです!!
頂くということは、命を頂くということ!!あなたはさっき『いただきま〜す』と軽く言っていたけれど、安易な気持ちで使っていい言葉ではありませんっ!!そもそも宣言したからには、余す所なく頂きなさい!!命を頂き、己の命を生かせて頂く、この重みを今1度、噛みしめなさいっ!!
大体、どうしても食べられないのならば、何故オーダーの時にお断りしておかなかったのですっ?!初めから残すつもりであるならば、何故自分に合ったオーダーができないのですかっ?!こちらのレストランさんだって、それなりの融通は利くのではないのですか?!」
「は、はい…あらかじめ召し上がれないものを仰って頂ければ、お料理から抜く事が出来ますし、1度お窺いした件はデータとして保存し、以後のオーダーに活かさせて頂きます」
いつの間にかいらしていたウエーターさんに、ありがとうございます!とお礼を言って、更に深呼吸。
「ほらご覧なさい!お店の方もこう仰ってくれているじゃありませんか?!何故、試しもせずに無駄を出そうとするのです?!
それだけ立派な身長、体格、且つ成長期でありながら、食べ物を粗末に扱いきちんと頂かないような我が儘な子は、もうウチの子じゃありません!!知りませんっ!!もったいないオバケに逆に食べられておしまいなさいっ!!
そもそも、そもそもですよっ?!あなたは学校のアイドルさま、生徒さまの代表という立場でしょうが!!そんな立場の人が好き嫌いを言い、レストランという公共の場で目立つ振る舞い、目立つ言動を発していいと想っているのですかっ?!いつの時代の殿様気取りですか?!子供たちの模範、規範となるべきあなたが、そんなに頼りないことでどうするのです?!一体何を支えられると言うのですかっ!!率先して前に立つと言うのならば、安易な行動は控えなさいっ!!
男は黙って背中で語る!!男たるもの、『義・礼・勇・名誉・仁・誠・忠』が欠けてはなりません!!反省なさいっ!!」
はーはー…
言い切った…
スッキリした…
モヤモヤが晴れた…
だけど。
レストラン中が、し――んと静まり返っている。
無人の空間になったように、まだ誰も来ていない開店前のように、針が落ちる音も聞こえそうに、静まり返っている。
このテーブルだけじゃない、生徒さま方もウエーターさま方も微動だにせず、厨房の音すら掻き消えている。
呼吸が整ったところで。
俺の額を、冷や汗が伝った。
顔色が青ざめていくのが、自分でもわかる。
やってしまった…
やってしまった〜…!!!!!
なによりも。
「……そう言う俺が、1番騒がしくして、誠に不甲斐なく申し訳ありません…」
深く深く頭を下げるしかなかった。
2010-07-27 10:42筆[ 98/761 ][*prev] [next#]
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