45
なんとなく納得したところで、ひわさ先輩と呼ばれておられた風紀委員さまが、全体を見渡した。
「とにかく食事をする生徒は静かに食事をする様に。食事が終わった生徒は速やかに退室しなさい。そもそもこの騒ぎの原因は何だ。それから、賭けを降りるとは何事だ、仁」
きっちり取り仕切られ、相方の愛嬌風紀さんが、傍観なさっておられた生徒さんたちを「撤収、撤収」と追い払った。
鮮やかなチームワークだ。
ぽかんとしていたら。
「どうもこうもねーよ、日和佐先輩。俺ら『武士道』の護るべき存在が賭けの対象だった、つーだけ。気づかなかったのは最大のミスだけど。だから降りる、そして護る。筋が通らねぇっつーなら、戦るまでだ。単純っしょ?騒ぎんなったのは、考えなしの生徒会と風紀のアンタらがここに集まったからですよ」
仁の穏やかな声と、対照的な不遜な表情。
賭け…対象…?
なにがなんだか、俺にはやっぱりわからないままだ〜…
「ふん……前陽大は、お前か」
「ふへぇっ…?う?は、はい!」
急に振られて、冷静な視線が向けられて、想いっきり動揺してしまった!
「「「「「ふへぇっ?って…」」」」」
あわわ、皆さんが呆れていらっしゃる!
だってだって、いきなり自分の名前が、知られていないハズの人から語られたら、誰だってびっくりするものじゃぁありませんか?違いますか?
風紀委員さまも、軽く目を見張っていらっしゃるけれども。
愛嬌風紀さまが微笑ってフォローして下さった。
「前君、この学園で外部生は青天の霹靂だからね。我々学園の運営に少なからずとも関わる生徒は、君の名前を耳にしている。円満な学園生活の為に、ね。…風紀委員長、先ず我々から名乗らねば、可哀想に怯えて居ますよ」
「これは申し遅れた。俺は風紀委員長の日和佐誉(ひわさ・ほまれ)、3年だ」
「俺は副委員長の渡久山凌(とくやま・しのぐ)。仁達と同じ2年生です」
「あ、ありがとうございます…なぜか皆さんに知られている、前陽大です」
わざわざ教えてくださったことにお礼を言ったら、お2人共、きょとんとなさって。
とくやま先輩が、また軽やかに笑った。
「ちょっと〜風紀まではるるに関わんないでくださいます〜?」
「はるとだからしょうがないけどな〜ヤロー共、これから気合い入れっぞ」
「「「「押忍!」」」」
「面白ぇな…」
「嵐を呼ぶ体質の様ですね」
「「オモロー!!レッツ監視!!」」
「はるちゃんは俺んだ、はるちゃんは俺んだ、はるちゃんは俺んだ……」
「……ウゼェ……前、食い終わったらすぐ出んぞ」
「『ありがとうございます』とか『ふへぇ』とか、良いわ〜前!」
「あぁん、柾様…そんな悪いお顔も素敵…!!」
「萌えりー最強也…萌えて萌えて萌えレボリューション…」
口々に、思い思いのことを言ったり、呟かれたりする、カオスな状況下。
俺は、ひとりに注目していた。
ふるふると、なにかを言いたそうなその御方、確かコンサートで会計さんだと言っておられた、その御方の言葉を助けてあげたくて。
「皆さん、しぃっ…!し――…お静かに……」
想わず静けさを促したら、俺の視線をたどって、彼の存在に気づかれたのだろう、皆さんハッとなり、ぴたっと口をつぐんでくださった。
これは…
コンサートの再現だ…!
あの時と同じ、緊張感が走る。
息をするのもまどろっこしいぐらい、ひたすらに静けさを求めてしまう。
同じアイドル仲間さまたちはもちろん、クラスの皆さまも「武士道」も風紀さまも、皆、皆、固唾を呑んで成り行きを見守っている。
頑張れ、頑張れ…!!
大丈夫だよ、皆、ちゃんと聞いてるよ!
「……お、れ……」
うん、何?
頑張れ!!
一言でもいいから、なんでも言ってみて!!
大丈夫だからね!
「おれ……」
なぁに?
ゆっくりでいいからね。
頑張れ、頑張れ!!
「…おれ……お腹……へった。」
2010-07-26 23:33筆[ 97/761 ][*prev] [next#]
[目次]
[しおりを挟む]
- 戻る -
- 表紙へ戻る -