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「ちょっと待てや、生徒会。俺らの目の前で調子乗ってんじゃねぇよ」
戸惑いは、仁の一声に隠された。
「そぉそ、超ウゼェ〜。昴(こう)、俺らのはるるにガンくれんの止めてね〜?悠君もそこから退こうか〜?」
続いて一成が、横から強引に手を伸ばして、悠から俺を引っぱりはがした。
「大体てめぇら、昼はルームサービスだろーが。俺らの居場所が何でわかった?」
「「「「「GPSだ」」」」」
「……じゃーん。」
アイドルの皆さまが揃って出された携帯電話には、「仁の現在地」がしっかり表示されていた。
わぁ、世の中便利になったものですなぁ。
ん?
仁の居所は「武士道」といい、皆さまにすぐわかるようになっているんだろうか?
しまった〜と項垂れる仁に、一成はケラケラ笑っている。
「ごめんね〜そーちょー!はるるゲットにテンション上がって、手回しすんの早過ぎたわ〜こーゆー策はじっくり練るべきだったさ〜」
「いや…早いに越したことはねぇ…しっかしGPSの徹底設定っつー『約束事』、良いも悪いも枷だな…」
「ね〜」
2人でうんうんと頷いた後。
おもむろに2人が俺を振り返り、肩に腕を回して来た。
「取り敢えず〜はるとは俺ら『武士道』の唯一無二、だから護る。賭けは抜ける」
「文句あるヤツはかかってこいや〜!ハッキリ言って、『均衡』もどーでもいーんだぞ〜!」
「「「さすが、総長!!さすが、副長!!」」」
「我々は戦争も辞しませんよ」
おろおろと視線を向けたら、ニヤっと笑い返してくれる「武士道」の皆。
頼りになる、不敵な表情だけれども。
俺にはなにがなんだかわからない。
皆がなぜだか、護ってくれようとしていることしかわからない。
わからないまま、皆がやんちゃモードになるのを、見ていることしかできないのだろうか。
「武士道」の気勢を受けて、アイドルの皆さま方は、こちらも不敵な笑顔を見せていらっしゃる。
その笑顔に、一部の生徒さんが歓声を上げておられる。
「へえ…年中無気力なお前らが、そんなに必死になるとは、な…」
「実に興味深い…ほら、僕の見立てに間違いはなかっただろう?」
「「りっちゃん、正解〜面白そー!」」
「……じゃーん。」
「だぁか〜らぁ〜!はるちゃんは俺んだってぇ〜」
また、だ。
生徒会長さまの細められた鋭い視線が、俺を見つめた。
この御方の視線って、アイドルさまだけに、胃が締めつけられるような気がする。
「面白ぇのが来たな…楽しませてくれそうじゃん」
俺には、なにがなんだか…
「――想像以上だな…この有様は何だ?此所は食事をする場ではないのか。生徒会と『武士道』が騒ぎを先導してどうする、昴、仁」
いつの間に現れたのか。
いつから見ておられたのか。
新たな人物の登場に、俺は目を白黒させるしかなかった。
「「「「「っち……風紀委員会…!」」」」」
風紀委員会?!
「武士道」とアイドルさま方の声が、見事に揃って絶妙なハーモニー。
(皆さま、仲良しさんなのかな?顔見知りではあるようだけれど。)
颯爽と登場し、びしっとした姿勢で立つその方の威厳たるや、相当なものだった。
アイドルさま方への声援が、ピタリと止んでしまった程だ。
きちんと撫でつけられた漆黒の短髪、切れ長の瞳を覆う細い黒フレームの眼鏡、高い鼻筋、きりりっと結ばれた薄い唇。
この御方も高身長でスタイル抜群、それを更に引き立てる堂々と真っ直ぐ伸びた背筋。
制服はいささかの乱れもなくきっちり着こなされ、アクセサリーの類いも一切ない。
隅から隅まで完璧な、寸分の隙もない御方で。
制服でなければ、教師かと見紛う大人の雰囲気すら漂っておられる。
皆さまとはまたすこし違った格好よさだ。
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