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苛立ち、好奇心、不快感、混乱、疑問、動揺…いろいろな感情が渦巻き、あちらこちらざわめき始めていたところへ、決して大きくはない、けれど凛と筋の通った低い声が響き渡り、一瞬で静まり返った。
コツコツと小気味良い足音が聞こえて、自然に開かれた人波の中を悠々と、こちらへ近づいて来られたのは。
「柾(まさき)様…!」
あいはらさんの呟きが、耳を掠めた。
先程のコンサートで、MCの中心だった、生徒会長さまだ…!
その後ろには、副会長さまや双子さん、1番最後に挨拶なさった頑張り屋さんもいらっしゃる。
わぁ…キラキラだぁ…
皆さん、それはもうキラキラしていらっしゃる。
間接照明と自然光の穏やかな空間が、急に、華やかに輝き出した。
まさかこんなに近くで、アイドルさま方のご尊顔を拝見できようとは…入学初日にしてツチノコに遭遇したような、摩訶不思議体験と等しいのではないだろうか。
ありがたや、ありがたや…
心の中で、そっと手を合わせておいた。
「「「「「っち…生徒会…!!」」」」」
うん?
「武士道」一同、さっきよりも厳ついお顔。
美山さんもおとなりさんも苦いお顔。
あいはらさんとひとつやさんは、赤いお顔で今にも倒れそうだけど、大丈夫だろうか…
ひーちゃんは何にも興味がないといった様子で、強引に俺の座ってる椅子に腰かけて来た。
狭いよ!
「俺も腹ヘリぃ〜何か食べよっかな〜ぁ?」
そして呑気だよ!
状況は何も好転していないのに!
生徒会長さまは、「武士道」からひーちゃん、俺、美山さんたちへと、順番に視線を向けて。
最後にまた、俺を見て。
微笑った。
なんだかよくわからない、ただ、異様にキレイなお顔だった。
「よぉ、武士道…ナメた真似してくれんじゃん…?賭けから抜けるって?対象者に手ぇ出したら許さねえって…?ふざけんな。んな戯言でハイそーですかって誰が引き下がれんだ」
「あ、こーちゃん。俺も抜けるからぁ〜」
「あ?悠、てめえまで何言い出してんだ」
「つか、はるちゃんに手ぇ出したら、こーちゃんでもりっちゃんでも皆でも、俺、マジギレするからねぇ〜…?」
「「「悠がマジモード…?」」」
「……モード。」
「…何だ…?どいつもこいつもどうなってやがる…そいつが原因か?武士道従えて、悠に執着させて、A組手懐けて…まだ入学初日だろうが。てめえ、何者だ?」
生徒会長さまの、鋭い視線が、まっすぐに俺を射抜いた。
逸らせない。
この御方の視線は、逸らせない。
強い引力だ、だからこそ、生徒会長の座に就いておられるのだろう。
目は、口ほどにものを言うと、古い言葉がある。
けれど、この御方の目からは、「何の感情も窺えない」、そんなフィルターが張られているようで何も見えなかった。
無気力なわけではない。
無感動にも見えない、瞳に有した光はどなたさまよりも明るく強い。
まっすぐ前を見据えている瞳は、深遠で、ただひたすらに静かだった。
あなたこそ何者ですかと問いかけたい。
どうしてそんな遠い瞳なのか…でも、生徒の頂点、アイドルさまで生徒会長さまで先輩に他ならない、それ以上でも以下でもない。
まして、ひーちゃんがお世話になっているご様子だ。
目を逸らせないまま、どう答えたらいいのかわからなくて。
俺が何者か、なんて。
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