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 キャアアアアア…!!
 ぎぃやぁあああああ…!!
 ウソぉぉおおお―――…!!
 生徒会の皆様だっ!!
 うぉおおお―――っ!!
 
 様々な歓声、雄叫びが混じり合い、それは轟音となり、レストラン中を轟かせた。
 続いて、アイドルさま個人へのラブコール、好意の形容詞とセットで乱れ咲い…てるのはわかるんだけど、いろいろな名前や声が混ざって、それぞれ何を仰っているのかはわからない。
 ただ、アイドルさま方へのラブコールの合間に、「武士道」のメンバー、美山さん、あいはらさん、おとなりさん、ひとつやさんたちへ対するラブコールも聞き取れた。
 ついでに騒いじゃえ!
 …ということなんだろうか。
 食事中ということもあって、今まで、遠慮してくださっていたのかも知れない。
 いろいろな熱いラブコールに当てられて、すこしクラクラした。

 アイドルさまたちが、食事にいらっしゃったんだろうか…?

 腕時計を見れば、ちょうど12時になったところ。
 
 辺りに視線を向けても、なにがなんだかわからない。
 それまでまばらだったレストランは、急に混雑し始めていた。
 全学年の生徒さん大半が、食事にいらっしゃったのだろう。
 尚かつアイドルさまたちが登場なさったからか、入り口付近を中心に高い人垣ができており、しっちゃかめっちゃかで、なにがなんだかわからない。
 よくよく見れば、俺たちのテーブルの皆さまは、しっかりと耳を塞いでガードなさっておられた。
 「武士道」の皆は苦い顔をしている。
 あいはらさんは、食事の手を止め、あたふたと身だしなみを整えておられる。
 
 俺は、クラクラしながらも。

 台風が発生する直前、一瞬聞こえた声が、気になっていて。
 まさか。
 まさか、まさか。
 どうしたものか、呆然と座っているしかなくって。
 仁と一成が口を開きかけた、その時。

 「ゴメンネ!ちょっと道開けてねぇ〜!ちょっと失礼!!ゴメン、マジでゴメン、ねぇ………通せやコルァアッ!!ウゼーんだよ、邪魔なんだよ、マジきめーんだよっ!!こっちは人生が懸かってんだぞ、退きやがれ腐れ外道共っ!!」

 うーわー…
 うーわわわー…
 あの、感じ。
 あの感じは、やっぱり、俺の気の所為じゃなかったんだ。
 人垣の中央から聞こえて来た大声に、俺は想わず、額を抱えた。
 鳴り止まない歓声。
 怒声を浴びても、止まらないラブコール。
 そんな大波小波を、ほうほうの体で泳ぎ切って、現れたのは。
 やっぱり、の、やっぱり。


 「はるちゃんっ…!!!!!」
 「……ひーちゃん……」


 「「「「「ひーちゃん…?!」」」」」


 変わってしまった姿、だけど、今の姿のほうが「らしい」なと想う。
 無理なくラクに呼吸できてるんだろうなって、安心する。
 淡い茶色の髪に白いメッシュが効果的に入った、後ろ下がりのアシンメトリーな長髪。
 くっきり整った各パーツ、尖った耳、くりくりっとした可愛らしい目は変わらない、グリーンのカラーコンタクトがまたよく似合っている。
 日焼けした肌に、ゴールドやシルバーのゴツゴツアクセサリーたっぷり、ピアスもたっぷり、制服は着崩している上、Tシャツやウォレットチェーンで独自なアレンジ……というのが、もしかしてこの学校の正装なんだろうか?

 他の皆さんもそれぞれ、アクセサリーの重ね方やブランドさん、好みがきっぱり別れていらっしゃって、制服の着崩し方にもそれぞれこだわりがあるご様子で、よく似合っていらっしゃる。
 そういうファッションセンスって、羨ましいな。
 いいな。
 …なんてことを想っている内に、ひーちゃんこと、天谷悠(あまがい・ひさし)が、俺にタックル同然で突進、抱きついて来た。
 がたがたっと、揺れるテーブルと椅子。

 「ば…ばるぢゃんん〜!!ぼんどにばるぢゃん?ぼんどのぼんどにばるちゃん?!おで、ずでーじのうえがらぢょっどみえだげど、ぜっでーぎのぜいだどおもっで…!うぞだどおもっで…がいぶぜいのなまえだっで、りっぢゃんがらぎいでだのに、ぢゃんどきいでながったじ…!!ぼんどにばるぢゃんだよね?ね?ね?だっで、ごのにおいば、ばるぢゃんじがありえないじ…!!」
 「ひ、ひーちゃ…!!首、苦し…!!チェーン当たっ……も〜わかったから〜ほんとうのほんとうに俺だよ、陽大だよ…?俺もさっきコンサート初体験の時、悠が出て来たからびっくりしちゃったよ。ずいぶん変わってたから、同姓同名なだけかと想った…でもやっぱり、ひーちゃんだったんだね」

 抱きついたまま、離れないひーちゃん。
 「ばるぢゃんんんっ…!!!」
 「はいはい。よしよし…ひーちゃん、元気そうでよかった…」 
 昔は泣き虫だったひーちゃん。
 今も、泣いてる?
 ほんとうに久しぶりに会うから、感極まっちゃったのかな。
 男らしく成長した背中を、よしよしあやしつつ、ハンカチとティッシュを渡しながら。

 ひーちゃんのあのクセ、もうなくなった…?

 心の中で、疑問を浮かべたところで。

 ひーちゃんが人波から出て来て、俺に抱きついた、今までのわずかな時間は、台風の目に入っていただけだった。
 周囲が一際騒然となり、本格的な大嵐が到来し、そこからノンストップの暴風雷雨突入となったのは、すぐのことだった。



 2010-07-25 22:51筆



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