39.―――――す…アレ?


 うー…
 おいしい…!!
 ひとつひとつ素材を活かして、シンプルながらていねいに作ってあって、ほんとうにおいしい…
 塩加減も最適なら、甘辛苦酸っぱいのバランスもばっちりだ。
 きっと、下ごしらえの段階からていねいになさっておられるんだろうな…
 惜しみなく取られた出汁の風味の豊かさ、野菜の根も葉も皮も使っているところから、料理人の心意気が伝わってくる。
 隅から隅までおいしい。
 おいしいなぁ…

 おいしいものを食べると、どうしてこんなにも心があったかくなるんだろう。

 作り手さんの心が伝わるからだろうか。
 料理に携わった方だけじゃない、素材ひとつ取っても、調味料ひとつでも、いろいろな人の心や歴史が背景にあって…そこに心が在れば在る程、食べさせて頂くこちらにも、感じるものがあるということだろう。
 それも、すべて、自然の恵みあってのことだ。
 数え切れない、たくさんの心と恵みの結晶を合わせて仕上げる、料理人さんはほんとうにすごいな。
 俺もそんなふうに…いつも大仰に考えていたらキリはないけれど、食べてくれる人の心を温かくできる、安心できる料理を作れるようになりたいな。
 いろいろな人に、そうして、笑顔になってほしいな。

 しみじみとごはんを味わいながら、仁と一成と近況を話したり、美山さんたちから皆さまの学校生活のご様子を聞いたりした。
 こうして誰かと、当たり障りのないことで談笑しながら、ゆっくりごはんを食べることも、かけがえがなくたのしいものだ。
 食事は、食べ物を咀嚼するだけの時間じゃない。
 心身のほんとうの栄養のためには、どこでどんなふうに、ひとりかあるいは誰と食べるか、そういうこともとても大事だと想う。
 初めてのレストラン、よく知ってる仁や一成はもちろん、クラスの皆さんとご一緒できてほんとうによかった。
 これまた、人さまの奢りだと想うと、ますますおいしい!
 美山さんには後で、たくさんお礼しよう!

 しあわせな一時を、堪能していたら。
 食事も半ばに差しかかった頃、ふいに、レストランの入口付近が騒がしくなった。
 ……この時まで、俺は非常にのんきな心持ちでいた。
 お腹も満たされ始め、余計にのんびりしていた。
 まさか、俺の「あのクセ」を発動しまくる事態になろうとは…
 まったくもって、想像だにしていなかったのだ。

 にぎやかになったのはお昼のピークだからだろう、広いレストランで空席はたくさんあるけれど、後の方のために速やかに退席しようと、俺は箸を止めなかった。
 そこへ、聞こえて来た声。


 「「「「「お母さん…!!」」」」」


 どこか懐かしい、複数の声。
 どやどやと近寄って来る気配。
 「「げっ…」」
 両隣から聞こえた声。
 周囲のテーブルから届く、動揺とざわめき。
 美山さんの眉間に、再び寄ったシワ。
 おとなりさんとあいはらさん、クラスメイトさんたちの笑顔。
 ひとつやさんの呟き声(「萌えぇ…」)。 

 「トンチンカンよしこちゃんたち…!!」
 「「「「お母さ〜ん!!会いたかった…!!」」」」
 満面の笑顔なのに、なぜか泣きそうにも見える、カラフルな頭髪の集団は、まぎれもなく。

 「「……何でここがわかった…?」」

 仁が率い、一成がサポートするチーム、「武士道」の幹部メンバーで。

 「総長達だけズルいっス!!」
 「俺らだってはるお母さんに会いたいもん!!」
 「お母さん、マジお母さんだ〜!!ぐすっ…」
 「副長、ケータイの電源落とすなんて卑怯です。総長、GPSですよ。世の中便利になって万々歳ですね」
 抱きついてきたり、手を握ったり、一生懸命話しかけてくる皆を、蔑ろになどできるわけがない。
 だって、ほんとうに久しぶりだ。
 みんなも、ここの生徒さんだったんだ…!
 レストランで食事中、という状態をうっかり忘れて、俺はみんなと視線を合わせた。

 「皆…元気だった?」
 「「「「押忍!」」」」
 「そっかあ…よかった〜…ほんとうに久しぶりだよね!俺も元気だったよ〜!何かと忙しくて連絡もままならなずで…ごめんね」
 「「「「押忍!…寂しかったっス」」」」
 「ごめんね。皆もこちらの生徒さんだったんだね。これからよろしくお願いします」
 「「「「押忍!」」」」
 「皆、ちゃんとごはん食べてた?」
 「「「「……っス」」」」
 「なんで全員目を逸らしたのかな?ねえ、仁?一成?」
 「「……っス」」
 まったく!
 これは後で説教10分コースものだな!

 気合いのため息を吐いた時。


 「「「「「キャアアアアアア…!!」」」」」
 アイドルコンサートの時と同じ、どよめきが響いて。
 

 「はるちゃんっ…?!」


 台風が、いきなり発生して上陸した。



 2010-07-24 12:16筆


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