38.いただきまぁ――…


 それにしてもしかし…カードを通すのが面白い!
 にこにこしていたら、俺の様子に気づいた仁と一成が、2人のオーダー分のカードを通させてくれた。
 このスラッシュさせる度に、ピ!ピ!と軽快な音が鳴るのが楽しい!
 そうしたら、おとなりさんとあいはらさんとひとつやさんも、カードを渡してくださった。
 皆さま……!
 なんて…武士の情けに長けた素晴らしい方々なんだろう…ご自分もカードを通したいだろうに、新参者の俺にそのチャンスを譲ってくださるなんて…!

 侍は、まだ、ここに生きていた…!!

 皆さまに丁重にお礼を言って、カードをお返ししてから、静かに待つこと5分。
 ウェイターさんが数人、頼んだものを持って来てくださった。
 さすが、学生が利用するだけあって、こんなに立派なレストランだけれど、早い。
 今日はもう授業も何もないけれど、普段はお昼休みの時間が限られているし、そりゃそうか〜。
 ホカホカと湯気の立つ、俺の頼んだメニューは木のお盆にまとめて乗っていて。
 「お待たせ致しました。『金曜日の創作料理プレート』でございます」
 ていねいな動作でそっと置いてくださったのは、先程、ここまで案内してくださったウエーターさんだった。

 「わぁ…おいしそう…!!ありがとうございます、いただきます」

 想わず漏れた感嘆の声と、お礼をお伝えしたら、ウエーターさんはすこし目を見張られて、でもまた、すぐにやわらかな微笑を浮かべてくださった。
 ちょっと子供っぽかったかな〜…ついうっかり、見たままの喜びを漏らしてしまった…
 こんなとびきり上等でステキなレストランなのに。
 「…どういたしまして。こちらのメニューは、私達スタッフ一同にも人気の逸品でございます。きっと気に入って頂けると想います。ごゆっくりお召し上がり下さいね」
 ウエーターさんはプロだった!
 なんにも気にしてませんよ〜っていう、大人のプロの仕事人の姿勢を崩さず、やさしい言葉をかけて下さって、微笑を浮かべたまま去って行かれた。
 プロの仕事に俺はもうメロメロです!

 「「流石だな、はると……」」
 両隣から、ポツリと何か聞こえたような気がしたけれど、俺はうっとりと、ザ・仕事人の後ろ姿を見送っていた。

 さ〜てさて!
 気を取り直しまして〜!
 わーい、ごはんだ〜…!!
 俺が頼んだのは「金曜日の創作料理プレート」、その名の通り、金曜日限定品です。
 手仕事でくり抜いたような、ブナの木のまあるいお盆には、彩りのいい見るからに美味しそうなお料理が、すこしずつたくさん乗っていた。

 菜の花と切り干し大根のサラダ、新キャベツと桜海老のコールスロー、さわらと豆腐の蒸し焼き、鶏ハムソテー・人参とゆで卵巻き・ごまだれ添え、セロリの五目きんぴら、新じゃがのこっくり煮、せりと厚揚げのみそ和え、グリンピースの和風ポタージュスープ、焼きタケノコごはんをふきの葉の塩漬けで巻いたおにぎり、かぼちゃの寒天寄せ…
 春、だ…!!
 あますところなく、春だ。
 春の喜び溢れる、色鮮やかな献立!
 随所に感じられるきめ細やかな心遣い、素朴なお料理たちながら繊細さも有している盛り付けに、俺はうっとりホレボレ。

 しかも、こんなにたくさんの品目数を1度で味わえるなんて…
 しあわせ〜!!
 ところで、他の皆さんはなにを召し上がるんだろう。
 失礼にならないよう、さり気なく視線を巡らせた。
 うーん、皆さん、我が道を行く!といった気概溢れるオーダーっぷりだ。
 仁と一成と美山さんは、気合いが入っておられるのか、「ビーフカツレツセット」だ。
 おとなりさんは「サーロインステーキセット」。
 あいはらさんとひとつやさんは…「クロック・ムッシュセット」…食欲があまりないのだろうか…こっそり心配だ。

 他の皆さまもそれぞれ、洋食をセレクトなさっておられる。
 なるほど、なるほど〜。
 どれもこれもおいしそうだなあ。
 メニューはすごぉく多いみたいだし、自炊だけじゃなく、食堂全メニュー制覇も視野に入れねばなるまいて。

 「はるる〜アレ、やって〜」
 
 ひとりで頷いていたら、一成に腕を小突かれた。
 アレ…やっちゃって、いいのかなぁ…?
 「やって〜」
 「やって〜」
 両隣からせっつかれて、俺はコホンと咳払い。
 2人と俺の為だけに、ひっそりやったらいっか!
 「はい、では!」
 「「押忍!」」
 「姿勢を正してください!」
 「「はい」」
 「手を合わせてください!」
 「「はい」」
 「今日もごはんを食べられることに感謝をこめて〜」
 「「はい!」」

 「いただきます」
 「「「「「いただきます」」」」」

 あれ、いつの間にか、他の皆さまも姿勢を正し、声を揃えてくださっていた…
 一様に神妙な表情をなさっている、皆さんの存在がなんだかうれしくて、親しみを感じて。
 「さぁ、冷めない内に頂きましょうか」
 「「「「「はい!」」」」」
 笑って、お箸に手を伸ばしたのだった。



 2010-07-23 23:34筆



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