36.ところでお母さんは腹ぺこです


 まぁ、でも、気を取り直して、っと…!
 腹が減っては戦ができぬ!
 いつか機会があったら、お邪魔できますように〜!
 ちらっとでもお窺いすることが叶いますように!
 遠目でも身に余るしあわせです!
 とりあえず今は、ごはんごはん!

 俺が厨房方面へ惹かれている内に、皆さまはもう移動しておられた。
 俺も急いで後を追った。
 ウエーターさんが案内してくださったところは、8人掛けの細長いテーブルが2つ並んだ、入口から離れた場所だった。
 それにしても、正真正銘のまっ白なテーブルクロスだなぁ…
 椅子の脚も、テーブルの脚も、ぴっかぴかに磨き上げられている。
 プロの仕事だ。
 このレストランの心意気を、端々から大いに感じられる。

 我が身も引き締まりますなぁ…
 これは失礼があってはならない。
 示された誠意にはこちらも誠意をもって、食事をたのしむことでお返ししなければなるまいて。
 一応、学生だから、制服もドレスコードに…ギリギリ入るのかな…ネクタイもしてるし!
 つい忘れそうになるけれど、学校の中だしこれでいいんだよね…
 先輩だと判明した仁さんと一成さんは、ノーネクタイで着崩しまくってるし…あぁ〜も〜仁も一成も袖のボタン取れそうだし〜…暴れん坊さんめ…是が非でも後で直しますからね!

 さて、着席。
 どこへ座ろうかな、新参者の俺はやはり末席でしょう。
 と、移動しようとしたら、一成に手を引っぱられ、強引な着席。
 「はるるは〜俺と仁の真ん中ね〜」
 「何食うかな〜んなに腹へってねぇんだけどな〜」
 どっか、どっかと、俺の両隣に座る2人。
 おお、硬すぎない座面、背凭れのカーブも身体にジャストフィット、レストランの椅子もやっぱりいい椅子なんだなぁ…
 十八さん、椅子に関してこちらの学校はかなり好感度高いです!
 そう言えば、家の椅子もこだわっておられたっけ…

 「……アンタら、何勝手に座ってんスか」 
 「加賀野井(かがのい)様、成勢(なるせ)様、違和感ありまくりで浮いてらっしゃいますよ」
 「そうスよ、先輩!折角の新入生同士の交流に割り込まないで下さいよー」
 「ハァハァ…萌えりー萌えモテ…!ウルトラドキュン萌え死ぬ…!ハァハァ…」
 あれ?
 美山さん、あいはらさん、おとなりさん、なんだか怒っていらっしゃる?
 ひとつやさんは、顔が赤いばかりか、呼吸まで荒くなっておられるけれど、大丈夫だろうか…

 「君らねぇ〜センパイの俺らに楯突く気ぃ〜?つかヤる気ぃ〜?心底面倒くせ〜けど、本気なら相手してやるよ〜?」
 「ははっ、そりゃ面白ぇな〜!ここらでこの学校の腐った『均衡』ぶっ潰してスッキリするか〜?」
 両隣から感じた不穏な空気。
 まったくこの2人と来たら…! 
 「はい、天誅!!」
 「「痛っ……!!マジかよ、3回目…!!」」

 俺だって、この短い時間で3度もデコピンを繰り出したくなかったよ?
 「仁も一成も、さっきから何をピリピリしてるんですか!」
 「「……だって〜……」」
 「だっても、だからも、だがしかしも、へったくれもありませんっ。今から皆で食事という、しかもこの神聖なるプロ根性が溢れ出たレストランにおいて、やたらと戦闘モードに入らないこと!めっ!」
 「「はぁい……」」

 なるべくちいさな動作で、小声で愛の天誅後、立ったまま呆然としておられる皆さまに、中腰で謝った。
 「皆さま、すみませんでした。さっさと勝手に着席してしまって、お怒りはごもっともです。また次の機会があれば重々気をつけますので、今回はどうか大目に見て頂けませんか。この2人には後でもっとキツく注意しておきますから…」
 「「え、俺ら、まだ怒られんの…?」」
 「しぃっ!静かに!」
 「「はぁい……そうか、怒られちゃうんだ…」」
 「また2人は…怒られるのに嬉しそうにしない!」
 「「はぁい」」

 懲りない2人を交互に睨みつつ、皆さまへ視線を戻したら。
 ノーコメントで、そそくさと想い想いの席に着かれた。
 皆さま、なんだか苦笑のような、あいまいな表情を浮かべておられる。
 お怒りは解けたと見ていいのだろうか。
 よかった、よかった。
 席まで案内してくださったウエーターさんが、心配そうに成り行きを見守っていらっしゃった。
 全員が席に着いた所で、恭しい動作でお冷やとおしぼりを置いてくださった。
 ほっとしながら、では、いよいよオーダー…!!

 だけど、あれ???
 メニューは…?
 日替わり1品のみとか、あらかじめ決まってるのかな?
 「はるる〜、オーダーはコレだよ〜」
 きょろきょろしていた俺の前に、一成がどこからか取り出したのは、黒いちいさなTVのような箱型の…これ、カラオケにある、タッチパネル式のリモコン…?!



 2010-07-21 23:12筆


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