35.いざ、参らん…!!


 「ところで、そろそろ食堂行きません?」

 で、やっと到着〜!
 想わぬ再会にはしゃぎ、クラスの皆さんに説明している内に、結構時間が経ってしまった。
 今や11時半過ぎ。
 俺の胃は、恥ずかしながら限界を訴えていた。
 仁と一成、美山さんやクラスの皆さんには申し訳なく想いつつ、間が空いたところで提案したら、あっさり受け入れて頂けて、ほっとした。
 ごめんなさい、換気口から漂ってくる、おいしそうな匂いに我慢できなかったんです…
 
 「前、食堂は初めて?」
 入口に差しかかりながら、おとなりさんの質問に対し、力いっぱい頷いた。
 「はい…!すっごくキレイで大きな建物ですねぇ…!」

 ガラス張りだ!
 壁と天井がガラス張りで、ふんだんに光が入って来る。
 けれど暑くない、眩しくないのは、ある程度の遮光性とUV機能を持っているからだろう。
 建物全体を覆うルーパーとガラス、明るいシナ材の床、1階しかないのに2階分…下手したら3階分ぐらい高く取られた天井が、ますます広く悠々と見せている。
 そこへ並べられた、まっ白でぱりっとしたクロスのかかった、シックな黒い丸テーブルと黒い椅子。
 席の間隔はゆったりと取られており、大きな葉の観葉植物がところどころに置かれている。
 窓側に面した、長いメープル材のカウンターテーブルも用意されている他、8人掛けぐらいの大テーブルもある。
 日差しが苦手な方のためだろうか、パーテーションで仕切ったスペースもあった。
 同じ新入生さんかな、既に生徒さん方がちらほらといらっしゃる。

 む…?
 窓側の奥には、ロフトのように階段が…螺旋階段が見える。
 階段の上にもスペースがあるみたいだ。
 なんだろう…?
 気になりながらも、あまりの広さと見所の多さに、俺の意識はあちこちへ飛んで行く。

 入口から入って左手が、大きなキッチンスペースになっていた。
 俺のいちばんだいすきな、ステンレス製の合理的キッチンだ…!
 かっこいい雰囲気がぷんぷん漂ってる、男の厨房だ…!
 けれども、調理スペースが奥まっていて、壁で遮られている為、調理の気配は聞こえてくるものの、中の様子はまったくわからない、見えない…
 え〜…
 オープンキッチンにして欲しいなぁ…
 オープンがよかったです、十八さん…
 ちえ〜…
 これじゃあ、見えない。
 はっ、待てよ、料理を注文して受け取る時に見え…

 「前、行くぞ〜」
 「何ぼーっと突っ立ってんの、七五三」
 「萌えりー(一舎的・はるとのあだ名)、行こ〜」
 え、どこへ行かれるのですか、皆さま!!
 「……注文は席だ」
 え、美山さん、それってどういうこと?!
 「ほら、ウエーターが居るだろ?」
 「このガッコー、ムダにお金かけちゃってるからねぇ〜」
 あれ、仁も一成もお腹空いてたんだ?
 一緒に来ちゃってる。
 そりゃそうか、お腹空いてるから、食堂の前にいたんだよねえ。
 なるほど、なるほど…


 「……って、ぅえっ?ウエーターさんっ…?!」


 素っ頓狂な声を上げた、俺の側。
 いつの間にか、忍びの如く音もなくやって来られた、まっ白なシャツとまっ黒な前掛け、短く整えられた黒髪と、清潔な雰囲気の大人の男性がにっこり。
 「いらっしゃいませ。新入生の皆様でしょうか」
 「は、はい………と、先輩もいます」
 「ようこそいらっしゃいました。此の度は御入学おめでとうございます。15名様ですね?ランチの御利用で宜しいでしょうか。こちらのお席へどうぞ」

 ウエーターさんだ…!!
 紛うことなき、ウエーターさんだ!!
 爽やかな微笑、上品な物腰と言葉遣い、溌剌とした動作、きりっと伸びた背中。
 掛け値なしに本物のレストランに居る、仕事に誇り高い、本物のウエーターさんだ!
 よくよく見れば、各テーブルの間を颯爽と巡られている、ウエーターさんが多数いらっしゃるではありませんか。
 ここは、レストランなんだ…!!
 わーい!
 何を食べようかな?!
 これはもう、かなり期待大だよ、十八さん…!!
 ありがとうございます、こんな素敵なレストランに招待してくださって…

 あれ…?
 
 ウエーターさんがいらっしゃるということは、つまり…
 ちらっと、失礼のないように各テーブルの様子を窺った。
 注文したり、食事を召し上がっていらっしゃったり、食事を終えて談笑していらっしゃったり、様々なテーブルがある中。
 やっぱり…!!
 ウエーターさんが、食事を運んでいらっしゃる…!!
 それは、すなわち、つまるところ…

 厨房の雰囲気が、まったくわからないということ…!!
 
 ガガーン!!
 わ、どうしよう…
 すっごい、落ちこんで来た…
 こんなレストランだから、きっと、もんのすごおく素晴らしい厨房に違いないのに、それを僅かにも見られないなんて…
 十八さん〜………
 このマイナスポイント、高いです〜…。



 2010-07-20 10:21筆


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