34.金いろ狼ちゃんの武士道(1)


 おーおー…赤い狼が、今にも牙剥き出して襲って来そうな顔してら。
 面白いな〜さっすが、はるとだな〜。
 コノ美山を早速懐かせちゃったか。
 寮で同室だっけか…となると、早くも胃袋支配された系かね。
 はるとの手料理、マジで美味いもんな〜そら、無理ないわ。
 寧ろ同情すんぜ、赤狼?
 目立つ場所で目立つ俺らがはるとを巻き込んで騒いだ、それに覚悟はあんのかって、ずっと聞いてたけどよ。

 俺からしたら、お前のがもっと、覚悟決めろよって話。

 はるとの引力は、ハンパない。
 はるとのメシは心まで満たす。
 はるとの許容は広い。
 はるとの笑顔は底抜けに明るい。
 気がつかない内に誰もが惹かれてる。 
 そのクセ、本人は空みてーに悠々としてる。
 古き良き時代のオカンみてーに、慈愛の心で物事を見つめてる。
 
 「……んで、この…先輩達は、呼び捨てでタメなんだよ」
 「美山さん、すみません〜…先輩だって知らなくて…」
 おーコワいコワい!
 きっつい顔で眉間にシワ寄せて、必死に睨んでるけどよ、美山?
 そういうの、何て言うかわかってんのか。
 お前がどんだけ凄んで見せたって、意味ねぇよ。
 「俺も呼び捨てしてタメで話して欲しい」って、素直に言ったほうがどんだけかわいーか。
 つか、はるとを睨むんじゃねぇっつーの。

 「み・や・ま・く・ん?はるとと仲良くなんのは時間かかるぜ〜?お前こそ覚悟しろよ?俺らだって、こうなるまでに相当時間かかったからな。なー、はると」
 見せつける様にはるとの肩に腕を回し、加減しながら頭を撫でくりまわした。
 はるとの頭って、撫でやすい。
 形が良くって毛質も良い。
 「わ、仁〜…」
 「ま、同室同クラだけに、チャンスは転がりまくってるだろーけどよ……てめぇ、はるとを傷付けたらただじゃおかねぇからな?その時は『武士道』全員でてめぇを潰す。よく覚えてろ、これは俺だけの意思じゃない、『俺ら』の覚悟だ」

 あれまぁ、引き攣っちゃって。
 美山だけじゃない、問題児組にも言い聞かせる様に睨んだら、全員で引き攣ってる。
 後輩イビんのは、俺の趣味じゃねぇけど。
 どーせこの裏表ありまくる連中だ、そうそう応えちゃいねぇだろ。
 美山にしたって、単純に口惜しいだけだろ。

 けど、譲れねぇ。

 腐って荒んで拳を受けて突き付けて。
 ボロボロの者同士、傷を舐め合う様に徒党を組んで、また、今度は仲間だという偽善の絆の下で、同じ事をもっと激しく繰り返す。
 そうして自分を痛めつけて、やっと生きる実感を得て。
 安っぽい世界だと、バカにしてフカして立ってる、自分が1番最低で安っぽい。
 わかっていて、止められない位置まで来た。
 無茶苦茶だった、更に深みへハマって行きそうだった、俺と一成の側に居て、笑ってくれた。
 
 はるとは、俺らの大事な存在だ。

 「遠くの親戚より近くの他人」とは、よく言ったもので。
 「武士道」を、血の通った家族の様に変えてくれたはるとは、血の繋がりなんかなくてもあったかい存在だ。
 譲れねぇ。
 てめぇの大事なもん、護れなくて男で居られるか。
 孤独な赤狼も、生徒会長親衛隊・元隊長の合原も、バスケ部の爽やか少年装った音成も、変態趣味の一方で最も厄介な一舎も、難癖揃いのA組メンツも知ったこっちゃない。
 生徒会も風紀も、ヤツらと俺らとのバランスも、どうでも良い。

 俺らは、はるとを護る。
 俺らが、はるとを護る。
 面白くねぇって、ツラしてやがるな、全員。
 俺は、面白いよ。
 美郷(みさと)と一緒だと想ってた、はるとが俺らの側に居る。
 つまんねぇ学校が、急に色をなして来た。
 これ程、愉快なことはねぇ。

 余裕ぶっこいてたら、いつの間にか復活した一成が、ちゃっかりはるとを奪って行った。
 アイツ、はるとに関して盲目的だからな…
 今の所、1番頼りになって1番危ないのがアイツだからな…
 つか、ちゃんと連絡してくれたかね。
 アイツのことだから、抜かりはないだろーが。

 ……って、おいおい…!
 俺の携帯に、やたらメールが…全部チームのヤツらじゃん!
 ちょ…一斉送信かよ?!
 一成、アイツ…!!
 てめぇの携帯、電源切ってやがるのか?!
 ガンガン受信来やがる…
 件名全部、はると絡みじゃねぇか!!
 うっわ、ハンパねぇわ、この受信量…
 まさかこのまま、チーム全員からメール来るんじゃ…
 一成め…!!
 後ではるとに言い付けてやる!!



 2010-07-19 23:13筆


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