33.銀いろ狼ちゃんの計算(1)
はるるが「今年の新入生・問題児学級」A組の面々と、仁と話している間、俺は笑顔だけ張りつけ、ケータイをちゃっちゃか操作していた。
送信、ズキュン!
俺らのチーム、「武士道」のメンバーへ一斉送信。
『件名:お母さん
やっぽ〜(*>ε<*)ノ
俺です。
俺らの大切なお母さんが見つかったにゃ〜
なんとなんと、今年の外部生がはるるんでしたっ(’◇’)ゞ
マジびびったぁ!
とゆーワケで、ふくちょー命令にゃん。
トトカルチョ、解除。
生徒会と風紀に言っとけや。
はるるに手ぇ出したら、俺らが黙ってねぇってな。
てめぇらも覚悟しとけ。
お母さんを守る準備、お願いねん。
ばいびー
さっきお母さんにデコピン2回もくらった〜!
俺らのお母さん、相変わらず最強よ?(笑)』
これでよ〜し!
あ!
同学のヤツらがこのメール見たら、うるっせぇだろーな〜電源切っとこうっと。
さ〜てさて…
後は最も厄介な生徒会のアホ共と、風紀のバカ共の目から、どーやって注意を逸らせるか、だね〜…
まさか、ココにはるるが来るなんて、想ってもみなかったから。
さっきは人目がある中、つい騒いじゃったし…失敗した〜!
ギャラリーの中には、アホ共の子猫とかバカ共の子犬とか、潜んでたかもね〜…ウザ〜。
このA組のメンツ自体、ヤツら子飼いのメンツが揃ってるけど。
そもそも、1年A組に居るっつーことが大問題。
はるるなら、だいじょーぶだろ〜けど。
……はるるは、あんなふうに言ってたけど。
俺があの時、声をかけたのは。
このコが歩いていた界隈には、未来ある少年たちが通う、偏差値勝負の塾が軒を連ねていて。
そのちょっと先には、何もかも暗闇へ引きずり込んで離さない、繁華街や歓楽街が広がっている…つまり、俺らや他のチームのテリトリー。
どっからどー見たって、はるるはフツーのコ。
だからてっきり、どっかの塾に通うお坊ちゃんが、何も知らずにノコノコ歩いているんだと想った。
いいカモが、歩いている。
てきとーに、遊んであげるつもりだった。
カネには飢えてないけど、持ってんなら巻き上げて。
持ってないなら、サンドバックにして。
いつものノリだ。
それが俺らの遊び方、ヒマ潰し、ただのノリ。
何にも知らないでふらふら、人のテリトリーに入って来るのが悪いんじゃん?
キレーなことしか知りません、お勉強命です、目に見える結果や数字しか信用しません。
なら、教えてやるよ。
その身に刻み込んでやる。
そこらに溢れてる、絶望と恐怖と、誰も助けてくれない孤独を。
世の中の、不公平さを。
知ってて、損はないっしょ?
教科書、学校、塾のお勉強だけじゃぁ、ダメダメ!
てめぇらに縁のない事こそ、身を持って体験しないとね?
一生、夜が怖くなれば良い。
トラウマ上等、俺が教えてやる。
永遠に覚めない、悪夢を……
そんなノリで、声をかけた。
仁は「またか、やめとけ」って言ってたけど。
声をかけた。
黒髪、ありふれた服装、チビで、やけに真っ直ぐな背中に。
けど、振り返ったその顔を見て、俺のお決まりのセリフは途中で変化した。
ねえ、君はどこから来たの?
ねえ、君はどこへ行くの?
そんなにも寂しそうな、世界にたった1人きりの遠い目で、どこへ行ってしまうの?
寂しい。
シンプルな感情だ。
それだけしか、なかった。
振り返った瞬間、その瞳の中は、空虚だった。
何かに飢えている、わかっている、どうしたらいいのか方法も知っている、だけど飢えたまま変わらない。
変われない。
迷っている。
中途半端な場所で、立ち止まったまま、歩けない。
そんな瞳が、俺の言葉を最後まで聞いた後、変化した。
ぶわっと膜を張った、透明な涙。
それは、俺らが怖いから、じゃない。
だから、決して流れ落ちない。
嬉しい。
また、シンプルな感情が見えた。
声をかけてもらって、嬉しい。
ひとりきり、不安だったから嬉しいのだと。
俺らの見た目にも屈せず、はるるは今にも泣き出しそうな瞳のまま、それはもう朗らかに微笑った。
身内以外に興味ない仁まで、声を掛けたのが聞こえた。
うん、その気持ち、超わかる。
俺らの共通のクセ。
子供の頃からのクセ。
捨て犬や捨て猫、拾っちゃうの。
はるるは、子犬みたいだった。
フツーの平凡君なのに、よく見たら、子犬みてーに純真無垢な黒目がかった眼差しで、じいっと見つめてきちゃったりしてさ。
かわい〜の。
かわい〜から、可愛がったら、もっとかわいくなった。
頭撫でて、抱っこして、溜まり場にも連れてって、話をする内にまた可愛くなって、オカン的な意外な一面も見つけたりして。
そのクセ、チョーシ乗んないし、乗って欲しいぐらいなのに、謙虚なままだし。
今じゃ俺らのマスコットつか、お母さんそのもの。
俺らの、トクベツな存在。
俺の、トクベツな存在。
あっは、違う意味で、この退屈極まりないガッコーが、面白くなってきた〜!
はるるが居るなら、俺、頑張っちゃうからね〜!
ぜってぇ誰にも手出しさせない。
この壊れたガッコーで、はるるが強いってわかってても、初日っからミキティやA組の面々を手懐けてても、俺の側にいなきゃ安心なんかできない。
はるるは、俺の唯一無二さぁ〜!
「武士道」ふくちょーとして、ひっさびさに動いちゃうぞ〜!
2010-07-18 23:21筆[ 85/761 ][*prev] [next#]
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