29.食堂デビュー前に


 「なるほど〜ひとつやさんも幼等部から在籍なさっておられるのですね」
 「Yes!」
 「ちなみに下のお名前は?」
 「祐(ひろ)ダヨ、俺のエンジェルちゃん」
 「ひとつやひろさん、ですね!わかりました」
 「なーなー、前、俺とも話そうぜ〜」
 「わ、おとなりさん…おとなりさんはバスケ部さんなんですか?」
 「おう!初等部の頃からずっとな!」
 「そんな変態腹黒達と喋ってたら、あんたも同類になっちゃうんだからね!」
 「わぁ、あいはらさん…あいはらさんも幼等部からこちらにいらっしゃるんですか?」
 「当たり前だし!」

 その時、盛大な舌打ちが聞こえた。

 「っち……んで、てめぇらまで来るんだよ……」

 わぁあ…
 美山さんの眉間のシワが、石器時代から現代に至る地層のように深く刻まれておられる…!!
 けれど美山さんのそのご様子にも、皆さまは一切動じていらっしゃらない、やはり幼少から学び舎を同じくしているから?
 「「「「お腹空いてるから一緒に来た」」」」
 「っち……クラス中でついて来んな…」
 「「「「僕達は親衛隊でーす」」」」

 そう、今、俺たちは。
 クラスの皆さま、過半数で食堂へ向かっているところだった。
 
 先程の俺の腹の鳴りっぷりが、皆さまにウケ、同時に食欲を触発したらしい…
 その時残っていたクラスメイトさん、ほとんどの方々が食堂へ行くと仰って、今に至る。
 まだ入学式当日、初日の顔合わせで、こんなにもたくさんのクラスメイトさんと知り合いになり、一緒に食堂へ向かうことになるとは…
 うれしいなぁ…!
 しかも、皆さんは慣れたご様子だけれども。

 俺、初めての食堂デビューだ…!!

 「きっと、食通のはるくんでも気に入ってくれると想うよ」って、十八さんが言っておられた食堂…
 楽しみ!!
 今日のブログは、ほんとうに書くことが盛りだくさんだなぁ。
 青い空、咲き誇る春の花々、異国情緒溢れる石畳、仲良しさんなクラスメイトさんたちのにぎやかな会話…食堂へ続く道程を、たのしく歩きながら、雲間から差す日差しに目を細めた。
 お腹空いたなぁ…
 朝は洋風だったから、お昼は和風がいいなぁ…
 あぁ、春の匂いをたっぷり運んでくれる、まだすこし肌寒い風が気持ちいい。

 「「「「「っげ……」」」」」

 ぼんやり歩いていたら、ふいに、皆さんの足取りが止まった。
 我に返って、俺も足を止め、皆さんを窺って驚いた。
 険しい表情になっている方、多数。
 青ざめていらっしゃる方、少数。
 急にどうなさったのだろうか?
 先程までの和気あいあいとした雰囲気が、すっかり消えてしまった。
 「あっちゃー、やっべぇなあ…」って、おとなりさん。
 「…先輩方、もういらっしゃるんだ…」って、あいはらさん。
 「わぁお、萌ぇ…?」って、ひとつやさん。
 美山さんは無言で、まっすぐ前方を見ておられる。

 「前、この学園で平和に過ごす為の掟、其の1!そこ、もう食堂なんだけど、その前にたむろってるヤツらと、ぜってー目ぇ合わせんなよ?超!超!危険人物、よりにもよって不良組のツートップが揃ってやがる…しっかし、何でこんな明るい内から…」
 おとなりさんが、折角、俺の袖を引いて、一生懸命に話してくださっているのに。
 俺は、その言葉半ばで、前方にいる人物を見てしまって。
 目を、見開いた。

 心の底から、びっくりした。

 どうして…?!


 「仁(じん)…?!一成(かずなり)…?!」


 想わず、口に出してしまった、どこか懐かしさを感じる名前。
 2人が、ゆっくり、振り向くのが見えて。
 「あの時」と同じ、険しいお顔の2人が、俺と同じように、驚いた顔をするのが見えて。
 間違いない…!!
 やっぱり、あの2人だ…!!
 そう確信した瞬間、俺は、彼らの元へ駆け寄っていた。
 「え、ちょ、マジはると…?!」
 「はるる〜?!」
 「仁!一成!」

 お互いに覚めない驚きのまま、懐かしさのあまり、2人へ想いっきりダイブしてしまったのであった。



 2010-07-13 10:00筆


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