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 「前陽大君といったヨネ…?!君がこの俺の3年越しの夢を叶えてくれる我が王道学園の希望の礎、平凡総受け君…ナニコレ、キタキタ萌え止まらんマジパネェ!!嗚呼…見れば見る程、人並みに埋もれて分からなくなるパッとしない凡庸な、けど何気なく二重で犬っぽい健気な眼差しにぽってリップで可愛気お忘れなく!どうしようもないまさに平凡総受けフェイスさんめ…!!君、そのお顔に産んでくれたご両親に心の底から感謝すべしネ、コレ大マジだからネ!!寧ろ俺が感謝するワ!!そして早速やらかしてくれちゃって、マジ神だネ?!同室者の一匹ウルフ・美山ミキティを手懐けてると思いきや、バスケ部爽やかルーキー・音成にも興味持たれちゃってるし、生徒会長親衛隊・エンジェル心春ちゃんのツンデレ発揮させちゃってるし、担任のホスト・業田センセイとは熱く語り合っちゃって!!やりおる…!!やってくれおる…!!初日っから早速やればデキル子、マジ萌えパネェエエエ!!嗚呼、今日まで生きててヨカッタ、マイゴッド…!!」


 ………???

 拳を握りしめ、かと想えば天を振り仰ぎ。
 息継ぎなく語り続けられる、マシンガントーク。
 それでも崩れない、ひとつやさんの、キレイなお顔立ちとキレイなよく通るお声。
 ぽかんと。
 見つめていたら。

 「前、行くぞ」
 「へっ」
 美山さんに肩を小突かれ、我に返った。
 美山さんの眉間のシワは、この数分間で深海の海溝のように厳しく険しくなったようだった。
 「さんせーい!前、一舎に構ってたらキリないから放っといて行こー!」
 「…黙っていたら、生徒会入りも可能な御方なのに…」
 おとなりさんと、あいはらさんも、苦笑いされておられて。

 「てめぇらはついて来んな…」
 「なんだよ、美山!いーじゃん、折角クラスメイトになったんだしさぁ〜あ、俺もっと前と話してみたいし」
 「美山様、同室だからって独占権は行使できません」
 「萌ぇぇぇ…!!!!!平凡総受け君・奪い合いプロローグ〜クラス編〜、地味にスタート…!!萌ぇ……」
 「「「てめーは黙ってクラスの隅で悦ってろ」」」

 うう〜ん…?
 息が合ってるのか合ってないのか、美山さんとあいはらさんとおとなりさんは、声を合わせてひとつやさんに喰ってかかり、その後、にらみ合っていらっしゃる。
 ひとつやさんは気にすることもなく、相変わらず頬を紅潮させたまま、なんだか息づかいも荒い…?
 まるで貴公子のように微笑んでいらっしゃるが、大丈夫だろうか、熱がおありなんじゃないだろうか…?

 オロオロと辺りを見渡せば、クラスメイトさんの反応はいろいろで。
 なにごともなかったように、退室なさる方々。
 困ったように見守っている方々。
 遠目ながら微笑んで見守っている方々。
 すこし、険しい視線を向けている方々。
 俺は、ちらっと壁掛け時計を見上げた。
 なんだかんだで11時前だ。
 桜並木の素晴らしさ、十八さんが真面目にお仕事されていた姿、アイドルさまたちのコンサート、この学校で唯一らしい、俺の好きな漫画を理解しておられる業田先生のHR…
 想えばこの短時間でいろいろな想い出…今日のブログは盛りだくさんだなぁ…

 って、そんなことを考えている場合じゃない。
 この、ちょっとばかり険悪な空気を、なんとかしなければ。
 でも、お互いの物言いに遠慮がないのは、やはり皆さま、幼少の頃からここにいらっしゃるから、かな?
 それはちょっと、羨ましいな…
 俺も早く、皆さまと仲良くなりたいな。
 「あのっ!!」
 「「「あ?」」」
 「萌ぇ?(一舎的・日常反応)」
 その為にも。
 
 

 「皆さま、お腹、空きませんか?!」


 腹が減っては戦ができぬ!
 母さんの教えだ。
 なにかあった時は、とりあえずお腹を満たして、身体をあったかくして、ぐっすり眠る。
 そうすれば、大概のことはなんとでもなる。
 お腹が空いていると、人は過敏になるものだから、なにより先ず、おいしくて温かいごはんでお腹を満たす。
 そうすると、心までも満たされる。
 俺の夢も、そこにある。

 …実際、お腹が減っているのは俺なんだけれども。

 「「「…は?」」」
 「…萌ぇ?」
 「ね!ちょっと早いですけど、よかったらどこかでごはんを食べてから、再集合なりなんなりしませんか?」
 俺の提案に、4名さま共、呆然となさっている。
 クラス中、呆然となさっている。
 あ、れ…?
 あれれ?
 あれあれ?
 なんか、間違えちゃったかな…?
 ダメ?
 ごはん食べてから、ダメ?
 誰もお腹空いていらっしゃらない?
 鉄板ネタが滑った芸人さんのように、寒々しいこの空気と静けさはどうしたらいいものか。

 再び、オロオロしていたら。

 「ははっ、前、マジで面白いっ!!」
 おとなりさんが、盛大に噴き出して、大爆笑。
 クラスのあちらこちらからも、控え目な、くすくす笑う声が聞こえた。
 美山さんとあいはらさんは、拍子抜けだと呟いていらっしゃる。
 ひとつやさんは、ひたすらぽかーん。
 「す、すみません、見当違いなことを申し上げて、」
 あわあわと取り繕おうとした、その瞬間。

 
 ぐうううぅうう〜


 はっきりと大きく鳴り響いた、俺の腹の虫。
 
 更に加速する、おとなりさんの、うひゃうひゃ大爆笑と、クラスの皆さんの笑い声、あいはらさんの呆れたため息。
 ひとつやさんは、「萌えって奥深い…」とか呟いていらっしゃる。
 俺は、この場に穴を掘れるなら、光速で数10メートル掘って潜りこみたいほど、恥ずかしいながらも笑いごまかしていた。
 ふと、美山さんが手を伸ばして、俺のブレザーの袖を掴まれた。
 よくよく見たら、眉間のシワがキレイさっぱり消えていた。
 「…行くぞ」
 「えっ、美山さん、どちらへ?」
 「食堂」
 「食堂…?!」
 「メシ、食わせてもらったから…昼は俺が奢る」
 
 なんですって…!!



 2010-07-12 23:37筆


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