140.LASTチャラチャラツイートby天谷悠
まだ笑い声が絶えない講堂を背中に、はるちゃんが舞台袖へ戻って来た。
ありゃりゃあ〜顔、まっかっか!
皆、笑いながら出迎えて労ってる。
俺も笑いながら、はるちゃんの頭をポンポンした。
「はるちゃん、よしよし。さいこぉだったよぉ〜『この度、第102期生徒会長を務めさせていただく、前陽大だす!』」
モノマネして再現すると、裏で待機してた先生達まで吹き出した。
「も、もーーー!真似しないでよ、ひーちゃん!緊張でぶっ倒れそうだったんだから!!」
かあっと更に耳まで赤くなるはるちゃんは、やっぱり可愛い。
「でも笑いを掴んだところで後はスムーズに演説できてたじゃぁ〜ん!見たぁ〜?生徒皆があんなにウケて笑いながら、真剣に話聞いてんのとか、俺初めて見たよぉ〜」
「ええ、ええ。おかげさまで話は聞いていただけましたけどね…もう…どこまでも穴を掘り進めて身を埋めたい…そのまま地球の一部になりたい」
落ち込むはるちゃんを、そーすけとゆーみーと慰めてたら、いけ好かない生徒会バカの藤枝がやって来た。
「新生徒会長も書記も雑談している暇などありません。業務は山積みです。先ず早速ですがお2人で職員室に直行して下さい。業田先生の指示に合わせて動いた後、速やかに生徒会室に戻り、その後、」
ウッザ!
マジウゼェ。
昔の俺ならここでキレて、藤枝ごときに言い含められたりなんかしない、逃亡してるところだけどぉ。
そもそも3年になってまで生徒会継続せず、後輩ちゃん達に丸投げして遊んで暮らしてるハズだったんだけどね。
「あーあーハイハイ〜わかりましたよぉ〜っと。アレコレ言われてもわかんないからぁ〜取り急ぎごーちゃんに会いに行ってぇ〜戻ってくりゃ良いんでしょお〜?行こぉ、はるちゃん」
「あ、はい!藤枝さん、ご指示ありがとうございます。助かります!何かと至らず恐れ入りますが、一刻も早く慣れるように精進いたしますので、お力添えの程、お願い申し上げます」
なんで風紀行かなかったのってぐらい、面倒くさいマジメ君な藤枝すらも黙らせるはるちゃんの誠実さ、相変わらずだなぁ〜。
こんなヤツにまで丁寧に応対しなくて良いのにね。
いってらっしゃいと手を振るゆーみーとそーすけに手を振ってから、はるちゃんと連れ立って歩き出した。
「春だねぇ〜」
「ねーポカポカで気持ちがいいね!こんな日が入学式になってよかったぁ」
ほわほわ笑って目を細めてる、道行く生徒に「お母さーん!」と呼びかけられる度に会釈して手を振るはるちゃんは、学園にすっかり馴染んでる。
ブレザーの襟元に光る、こーちゃんから受け継いだ会長バッジが似合ってるなぁ〜って。
想った瞬間に、着信音が聞こえた。
「あ…ひーちゃん、ちょっと失礼いたします」
「どうぞどうぞぉ〜周り警戒しとくから、ゆっくり話しなよぉ〜」
「あ、ありがとう…ゆっくりなんてとんでもないですよ。折り返しますからね」
咲き誇る桜と同じ、はるちゃんの頬がさっきとは違って可憐に色づく。
そわそわと電話に出て、話し始める表情は、誰に向ける笑顔よりもやわらかい。
こーちゃん達も今日が大学の入学式だっけ〜?
学園に馴染んでるけど、はるちゃんの隣にこーちゃんが居ないって、この1年の事なのに不自然なカンジ。
不思議だね。
2年前に再会した時は、こんな未来は想像もしてなかった。
『悠、陽大と生徒会を頼むな』
短い言葉、深い声を想い出す。
こーちゃんが居ない学園は、やっぱりチョット寂しいね。
外で会えるってわかってても、こうしてはるちゃんが目の前で電話してても、つい最近まであった楽しさとは比べようもない。
だけど、こーちゃんが俺を信頼してくれたからねぇ〜。
頑張る気なんかなかったのに、てきとーなトコロで逃げるつもりだったのに、頑張るしかないじゃん。
恋敵だったのに信頼するとか、マジこーちゃんらしいってか曲者!
空を見上げる。
バカに大きく見える、桜色に覆われた空。
チョー良い天気だ〜。
下界もそうかな、こーちゃん達も良い天気で新生活始めれたらいーのにね。
春の光がはるちゃんに降り注いで、あったかそうだった。
もう少しで終わりそうな通話の合間、人が通らないのを良い事に、俺はスキだらけのはるちゃんのほっぺたにキスをした。
「んなっ?!ちょ、ひーちゃん?!」
「こーちゃーん、後ではるちゃんのさいこぉの演説動画、送ってあげるからねぇ〜!」
『あ?悠、何した今。最高の動画って何』
「動画、って撮っ…?!と言うか、ひーちゃん、今…!」
「はるちゃん、行こぉ〜そろそろヤバいよぉ〜藤枝がうるさいのウザイよぉ〜」
『はる?大丈夫か』
「え、う、は、はい!先輩、後でかけ直しますね」
動揺したままのはるちゃんの手を引いて、ぐんぐん歩き出す。
ばいばい、はるちゃん。
大好きだった、ホントに、ずっとずっと。
何があっても諦めないつもりだった。
実はね〜まだチャンスあるかもって想ってたんだ〜。
こーちゃんに信頼された後ろめたさはあったけど、時間が経ったら人生わかんないじゃん。
山と下界の遠距離だしね〜。
でも、電話してる幸せそーな顔見たら、どーでも良くなっちゃった!
なんか急に吹っ切れた。
大好きなはるちゃんを幸せにできんのは、こーちゃんしかいないって。
わかってたこと、マジでわかったよ。
「げっ!はるちゃんっ、藤枝から悪魔のライン来たぁ〜『遅い!サボってるんですか?』だってぇ〜ウッザあ〜!ウザいから走ろっかぁ〜」
「なんと!急いだほうがいいね。走ろう、ひーちゃん!」
ねぇ、応援するから。
ちゃんと応援して守ってあげるから、俺とはるちゃんが幼馴染みっていう絆は、変わんないよね。
はるちゃんとずっと一緒に居られるなら、仲良しの幼馴染みで良いや!
だから、大好きだったはるちゃん、ばいばい。
これからは幼馴染みとして、生徒会の仲間としてよろしくね。
青空の下、走り出す。
花びらがゆらゆらと舞う中、ちっちゃい頃と同じ、笑いながら走った。
2014.11.8(sat)21:47筆[ 757/761 ][*prev] [next#]
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