24.歌舞伎町の中心で夢を叫ぶ


 業田先生ご自身も淡々とされておられる。
 教室中が一致団結して、その気迫にコクコク頷いたところで、満足そうににっこりと笑って(歯磨き粉のCMに出られそうな、爽やかな笑顔とまっ白な歯!)。
 先生の笑顔に、アイドルさまたちの時みたいな、ざわざわっとひそかな反応がありつつ。 
 「俺様のA組の可愛い問題児達が物わかり良くて助かるぜ。ん、気持ちが1つになった所で、じゃー全員机の中に注目!確認!俺様が仕込んでやった封筒が入ってんだろ?」

 封筒…?
 言われるまま、一斉に机の中を覗きこんだ。
 机の中には、十八さんにカードを頂いた時と同じ種類の、白地に金の縁取りが施されたA4版の封筒が入っていた。
 
 「中身は全員同じだ。
 1枚目はこの1年間の各行事、テストなんかの日程表。予定はあくまで予定であるからして、鵜呑みしねーように。
 2枚目はこのクラスの時間割と、各教科担当の紹介。
 うっすい面倒極まりない冊子は〜高等部の生徒会、委員会、各部からの挨拶集な。
 あとは、このクラスのメンツ表。入学前に提出が決まってた、自己紹介表からデータ引っ張って来たのと、各自の寮部屋番号の記載。俺様の職員寮のデータもあるが、緊急事態であろうが何であろうが、俺様の城には決して近づかないように!
 以上、自己紹介とかいっちいち面倒くせーし、どーせお前らほとんど持ち上がりだし?各自で目を通しておけよ〜」

 なるほど、なるほど…
 これは実に興味深いアイテムだ!
 業田先生は、面倒くさいって言ってらっしゃるけど…
 こうやって名簿を作り、各プリントとまとめておくなんて、なかなかできないことではないだろうか。
 それとも、他のクラスさんもこんなかんじなんだろうか。
 いずれにせよ、自己紹介は緊張するし…
 こうしてクラスの名簿を持っていると、皆さまのお名前を構成する漢字とかわかって、すぐに覚えやすい。
 持ち上がりじゃない俺には、とってもありがたいアイテムだ。
 これは熟読の価値ありですな!
 
 「教科書類は今日、寮に届いてる手筈だ。週明けから通常授業が始まるから、各自で用意を怠らねーように!用意するもんがわかんねー時は、ウチのHPに生徒番号でログインすれば、各教科担当のページに書いてあっからな。いちいち聞くなよ。
 それから席は〜今日は俺がSHRに間に合わなかったから、てきとーに座ってもらってるが、出席番号順に着いとけよ。後ろのロッカーも出席番号順だ。
 あー…っとに面倒くせぇな…こんなもんだったっけな…あーっと、これだけ説明してりゃ、誰も何もあるワケないだろーが、いちおー…質問ある奴ぁ、手ぇ上げろ〜」

 業田先生は、きっと。
 すぐに、そのままの語尾で「ハイ、誰もいないよね〜じゃ、解散!」とか、仰りたかっただろうなと。
 俺は、後で想ったのだけど。
 どうしても。
 どうしても、我慢できなかったから。
 「手ぇ上げろ〜」の、「手ぇ」が聞こえた瞬間、ものすごい勢いで右手をまっすぐに上げていた。
 教室内が、ざわっとしたのは、わかったのだけれど。

 どうしても、抑えられなかった。

 業田先生は、すこし、面食らったようなお顔になって。
 「あ?見ねー顔だな……ま、いーけど。何だ?俺様に対する逆セクハラな質問は却下だからな」
 言ってみろと、促されて。
 俺は、静かに立ち上がった。
 

 「質問です、業田先生……どうして1年間の予定の中に、校外授業が入っていないのでしょうか?!」


 …かーかーかー……

 静まり返った教室内にエコーとなって響く、質問の語尾。
 誰も微動だにしない中、先生は眉を顰めておられる。
 「校外授業…?!んな面倒くせーもん、あるワケねーだろーが、1年の分際で」
 「なんとっ…!!新1年生に校外授業は許されていないのですね…」
 「な、なんとって、お前……そうだぜ、1年が校外に出られるのは大型連休と緊急時のみだ。2年の中頃にはなんかしらあったかも知れんが、俺の知ったこっちゃねーし」
 「なんとー…!!校外授業はものすごく贅沢なことなのですねっ…2年生に進級できなければ、与えられないご褒美ということですね…わかりました……と言うことはつまり、遠足やオリエンテーリングなどもない、と…?」

 眉を顰められたまま、業田先生は、何故か笑っていらっしゃる。
 「遠足って、お前な……んなもんあるか。遠足は3年なってもねーよ。ここは超お坊ちゃん進学校だぜ?外できゃーきゃー言ってるヒマなんてねーよ」
 「な、な…なんということでしょう…!!遠足は3年生に進級してもないんですか…!!なんと……そんなことが……はっ、ではっ、校内においてはどうですか?!校内の森散策とか山散策とかっ…」
 「ぶはっ、んなもん、あるワケねーだろーがっ!!確かに無駄に広いけどよ…校内散策って…!!お前、変わってんな…つか、そうか、お前が外部生の前か」

 校外授業は、2年に進級するまでない…!!
 遠足が、ない…!!
 校内散策も、ない…!!
 ショックで、プルプルと震える手を、机に付きながら。
 もちろん、先生を無視するわけにはいかない。
 それに、俺には、まだ質問が残っているのだ。
 大切な、大切な、これだけは確認しておきたい質問が…

 「そうです…俺が外部生の前です…無知で申し訳ありません、ご迷惑お掛けしまして……あの…業田先生、HRを煩わせてしまい、クラスメイトの皆さまにも大変申し訳ないのですが、最後にもう1つだけ、質問させて頂いてもよろしいでしょうか…?」
 「お前、なんか面白いな〜見たことないタイプだわ、この学園で。つかプライペートでも見ねーけど。いいぜ、前。んなに恐縮しないで何でも質問しろ」
 「ありがとうございます!」
 ごくり。
 固唾を呑んで、息を吸い込んで。


 「業田先生のお名前は、やはり、某漫画のあのガキ大将キャラクターが関わっていらっしゃるんでしょうか…!」



 2010-07-07 23:32筆



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