137.大きくて小さなワンコの遠吠え(最終話)


 忙しいって、楽しいね。
 わいわい、バタバタ、こーちゃんとはるとが笑っていたら、大事な仲間が揃ってたら、なんだって楽しくなるんだ。
 ふくふくとした幸せが、いつも胸のまん中にある。
 どんなに忙しくなっても、どんな祭りがあっても大丈夫。
 おれたちなら、なんだって乗り越えられる。
 藤枝たちはかわいくないけど、それなのにこーちゃんもはるとも優しくしてあげてるけど。
 はるとのお弁当とおやつのおいしさには、藤枝だって敵わないから。
 わざと難しい顔作って食べてるけど、口元が笑ってるの、おれは知ってる。

 いつかきっと、皆、もっともっと仲よくなれる、ね。
 もっと楽しくなる。
 こーちゃんが卒業する日が、おれはずっと怖かったけど。
 それよりもっと怖いこと、乗り越えられたから。
 皆、卒業していく。
 バラバラになること、怖いことじゃない。
 この楽しくて、皆でがんばった時間があって、泣いたり笑ったり、たくさん忙しかった。
 想い出があるから、大丈夫。

 「はい、皆さん!お疲れさまです!お茶にして休憩にしませんか。外はかりっ、中はふっかりドーナッツ揚げたてですよー」
 「「「「「わーい!やったあ!」」」」」
 「ふん…この忙しい時に休憩など馬鹿馬鹿しい。そんな暇が何処にあると言うんです」
 藤枝のメガネがキラっと光った。
 ゆーみーとひさしがわざとその隣を「「「あ、ゴメンねー!」」」ぶつかりながら通り抜けてドーナッツに殺到する。
 すかさず、こーちゃんとはるとがお父さんとお母さんになる。

 「藤枝、そう言うな。休憩は必要だろーパフォーマンスの精度を維持する為にも。こんだけ頭使ってりゃ、糖分とカフェインの摂取も重要。しのごの言わずお前だって気に入ってるドーナッツ食って、一息吐きな」
 「ゆーちゃん、みーちゃん、ひーちゃん。わざとでしょう、いけませんよ。藤枝さんの仰る事も一理ありますし、俺は何も気にしてません。あんな風にぶつかって、お互い怪我でもしたらどうするの。さ、謝りましょうね」
 「「「はぁい!ごめんネ、藤枝」」」
 「ふん…こっちも大人気なく失礼しました」
 にっこり笑うお父さんとお母さんに、おれもにっこり、ドーナッツを掲げた。

 「みんな、いい子。ね。仲よく、ね?カンパーイ」
 「「「「「カンパーイ!」」」」」
 今日もはるとのドーナッツは、しあわせのお味。
 ほんのり甘くて優しい、熱々のドーナッツは元気をくれる。
 「では俺、ちょっとお届けものして来ますね」
 「おー気をつけてな」
 「「「「「えー…お母さん…」」」」」
 「そんな顔しないの!皆のドーナッツはたっぷりあるでしょう?ケンカせず仲よくお留守番してるんですよ。お父さんの言うことをちゃんと聞いてね。すぐ帰って来ますからね、ケンカしたらわかるんですからね?」

 ドーナッツが減るのもイヤだけど、はるとがいなくなるのが1番イヤ。
 それなのにはるとは、ぎっしり詰まった紙袋をいくつも抱えて、お供を申し出た1年生の補佐と出て行ってしまった。
 こーちゃんは気にせずモグモグしている。
 はるとがいなくなった生徒会室は、急に寒々しく感じた。
 なんとなくしょんぼりする皆を残して、おれはこーちゃんの側へ近寄った。
 「んー?どした、そーすけ。陽大が居なくて寂しーの?」
 からかう口調で微笑うこーちゃんに、おれはずっと聞きたかったことがある。

 あったかいお日様みたいな、はるとと付き合っているこーちゃん。
 お互い想い合っているのが、こうやって離れても平気なぐらい信じ合っているのが、おれにも皆にもわかる。
 そんな人たちが居るなんて。
 「こーちゃん…?」
 「んー何?」
 「おれにも、おれにもいつか…」
 いつか、こーちゃんにとってのはるとみたいな人が見つかるかなあ。
 はるとにとってこーちゃんみたいな、しっかりしたおれで居られるかなあ。
 もそもそと途切れ途切れ聞いた、こーちゃんは優しく目を細めて笑ってくれた。

 「出逢うよ、きっと。宗佑も大切な人に出逢う」
 「ほんとう?」
 「ああ。信じろ、必ず出逢うって。ただ、俺と陽大を見てくれんのは嬉しいけど、大切な人の前で四六時中しっかりしなくても良いから」
 どういうこと?
 首を傾げた俺の頭を、こーちゃんはぽんぽんっと撫でてくれた。
 「本当に大切な人の前で、粋がり続ける必要なんかない。良いも悪いもない。お互いその時々のまま、素のままで居られるから、愛せる信じられる。どんなに一緒に居ても、別々の人間だから100%わかり合う事はできないけど、飾らずに居たらそれも平気になる」
 
 人の感じ方はいろいろだけどと、穏やかに息を吐く。
 こーちゃんの横顔に、確かにはるとを信頼していると感じた。
 「宗佑、ちいさな星を見つけな」
 「星…?ちいさな?」
 「そう。ウチのパパから受け継いだ話だけどさ。人はたくさんのちいさな星を見つける旅をしてんだって。どんなに暗い夜でも、空を見上げれば光っている、ちょっと心強い存在。その星は人それぞれ形が違う。家族や友人、恋人だったり、勉強や仕事だったり、場所だったり、ものだったり…いろんな形をしている。星をたくさん集めるほどに心が明るく、元気になれる。いつか流れ星になるかも知れない、急に消えるかも知れないけど、見つけた瞬間の幸せな記憶はいつまでも残る。探して、たくさん集めるんだ」

 星を、たくさん。
 たくさん集めて、心の中の夜空に浮かべる。
 キラキラ、光る星は、集ればとっても強い輝きになって。
 ふうと息を吐いた。
 「こーちゃん、こーちゃんは、見つけた。ね?」
 「ああ、俺は見つけた。陽大を、仲間を、此所で見つけたよ」
 だからこーちゃんは、大事にしていたんだね。
 学園のこと、おれたちのことも。
 おれも、見つけた、仲間という星を。
 
 「がんばる。ね」
 「んーま、力まずに適当にな!あ、そーすけ、そろそろタイムリミットだから重大な任務を与える!陽大が凌達に足止め喰らってる可能性高いから、迎えに行ってくんね。俺が行きたいけどーこの書類、後5分で提出なんだわ」
 「こーちゃんったら!その書類、大事なやつ!ですよ。もう」
 「ははっ、ゴメンゴメン。忘れてたー超ー忘れてたー」
 「おれ、迎え、行くから。早く、ちゃんと出して、ね!」
 「おー任せとけー頼むな、そーすけ」
 まったく、いい話も台無し。

 カラカラ笑うこーちゃんに手を振られながら、「何事です?」と怪訝な藤枝に簡単に事情を説明し、後の事を任せて。
 扉を開けて、廊下に出た。
 ふわっと心地いい風を感じた。
 ドーナッツのいい匂いが、廊下にも漂っていて、深呼吸する。
 おれはゆっくり、足を踏み出した。



 2014.11.3(mon)22:10筆


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