133.音成大介の走れ!毎日(ゴール)


 おいおい、敵陣のまっ直中だってのに大胆だなー柾会長。
 怖いもの知らずにも程があんだろ。
 うっわービリヤード口実に、あんなにはるとにベタベタ絡んで、アレ絶対わざとだよな。
 手ぇ握り過ぎっつか、腰まで腕回すってやり過ぎだろ。
 礼央さん、こめかみ割れんじゃねってぐらいビッキビキになってんじゃん。
 はるともキリっとビリヤードしてる場合じゃないって、いや、会長マジ万能だな!
 なんでその位置からヒットできんの。
 周りのおどろおどろしい凍りついてる空気なんてまるでお構いなしに、次々とミラクルショットを連発し、はるととハイタッチして笑ってる。

 ボコボコにサンドバックにされてた、八つ当たりでしかない暴力を無抵抗に受け入れたこの場所で、自分のテリトリーじゃないのに余裕そのものとか。
 そら恐ろしいな。
 俺はやっぱ、会長や旭先輩がちょっと怖ぇ。
 事が収束した後、あっけらかんと遺恨も何も忘れてケロっと笑ってる。
 男だからってそう割り切れるもんじゃねー事だってあるのに。
 本心伝えて本気で動いて、傍から見たら滅茶苦茶だけど、だから引き際も心得てる。
 好き勝手してる分、責任を取る潔さは畏敬に値するけど、それ素直に認めんの口惜しくて、ビビってるフリでごまかしてんのもあるかも。

 俺もまだまだガキなんでねー。
 いつかすんなり認められるまで、うだうださせて貰いますよー先輩方。
 ぎこちなさを残しつつ遊びに興じ始める人達を眺めながら、カウンターでぼんやりレモン割りを呷ってた。
 その隣に立った、雇用主様々に笑いかける。
 「やー清々しい程、仲睦まじいスねー羨ましいっスね!」
 「本気で言ってるのか、大介」
 「本気も本気スよー美郷様はコレが初めてでしょうけど?俺達は学園であの時以来、毎日毎日あのイチャイチャを見せつけられてますからねー新学期始まったらどうなんのって羨ましいやら恐ろしいやら!」
 「…成る程」

 ついに勝利の最後を決めた会長に、はるとの目はキっラキラ光り輝き、惜しみない賞賛の拍手を捧げている。
 「柾先輩、すごーーーい!」
 「はるとくんが参戦して、応援してくれたからだょ…?イエーイ!」
 「イエーイ!」
 「「腹立つ」」
 想わず呟いた声が被って、ちょっと目を見合わせてすぐ逸らし合った。
 「昴のあの子犬の演技こそ腹立たしいものはないな…」
 「マジ、それっス…」
 はるとの前で異常にカワイコぶりっこしてるよな、あの人。
 優しいはるとに付け込み過ぎじゃね。

 大きく息を吐いた雇用主様々は、おもむろに人のレモン割をやけ酒の勢いで飲み干した。
 「大介」
 「はい?」
 コレは命令を下す時の声音だ。
 以前までの俺なら、何でも有無を言わずに従ってたけど、そりゃ複雑だけど、従えない命令ができてしまった。
 呑気を装って返答しながら、緊張が走る。
 内容次第では今度こそ、お家断絶ものだ。
 だが、この会合の始まりからずっと硬い表情をしていた雇用主様の、会長達を見つめる横顔がふと軟化した。
 急に、穏やかな眼差しに変わった様に見えた。

 「新しい辞令を下す。昴と陽大を見守ってやってくれ。十八学園が昴の存続を希望し、2人が公認の仲になったとは言え、何らかの障害が生じないとは言えん。昴は何にも屈さないだろうが、陽大はすぐ身を引こうとする。特に昴が卒業した後が気掛かりだ。大介には陽大の友達として、側に居てやって欲しい」
 目を疑いそうになった。
 何にも屈さないのは、あんたの方だろ。
 会長よりも王様気質だと想ってた。
 その雇用主様々が、一介のサラリーマン、使用人に過ぎない俺に対して、深々と頭を下げている。
 はるとの為に、2人の為に。
 これまでの命令は、雇用主様の為のものだった。
 人の幸せを、あんたが願うのか。

 俺に命を下してまで手に入れたがった陽大を、別の男が幸せにする事を認め、望むのか。
 「ははっ」
 想わずちいさな声で笑ってしまったのを、礼の形から怪訝な顔で見上げる雇用主様に、俺はかぶりを振って応えた。
 「友達は命令されてなるもんじゃないスから!俺とはるとはとっくに友達だし、俺は卒業しても友達付き合いしてーなーってひそかに想ってます。友達の安全平和な学園生活を願うのは当然ですし、こーなったら柾会長とは何としても添い遂げていただくつもりですよ!命令される謂れもありません。ですが、ご安心下さい。美郷様の心の平穏を保つのも俺の役目、ご報告は随時入れさせていただきます」
 あれあれ、今夜は変な夜だなー。

 「そうか…大介の言う通りだな。わかった。お前の観察記録を愉しみにしていよう」
 笑った雇用主様の表情は、すっかり晴れ晴れとしていた。
 予想外のサバサバ加減に驚きつつ納得もしていた。
 この春休みに至るまで、時間はあったしな。
 この人にはこの人の想う所があるんだろう、つかちょっと見直した。
 サラリーマンも悪くないかも知れねーな。
 「時に大介、『壱』の件はどうなっている」
 「あー…あの謎のチームですが、どう考えても怪しいのは会長じゃないスか。本人じゃなくても恐ろしく知り合い多そうなあの人に関連してるだろーと、ズバリ会長に聞いたんスけど想いっきりバカ笑いされまして…『何その都市伝説チームって!今時そんなの居んの?あの時の俺の状態知ってて邪推するとか!大介、変な子!』ってね…」

 疲れた笑いに同情の眼差しを向けられ、更にしょっぱい気持ちになった。
 「やっと尻尾が掴めたと想ったが…そう上手くは行かないな」
 「まぁ、謎は謎のままが良いとも言ったり言わなかったり?」
 「何だそれは。大介は気持ち悪くねぇのか」
 「いや、気味は悪いスけどね。ここまで所在も実体もわかんねーチームの影、追い回してもしょうがないでしょーここにも武士道にも実害はねぇって話だし。つか美郷様?チーム遊びに興じるのもそろそろ終わりにして下さい。来年大学受験でしょー美郷家から俺、結構チクチク言われ始めてるんスよね。そろそろヤバいスよ」
 「ちっ、最後に奴らをぶちのめして終わるつもりだったんだ」
 拗ねた顔になって横を向く雇用主様に苦笑しながら、こんな日々もゆっくり終わりを告げていくんだなと。

 会長とはるとを中心に、今度はダーツで騒いでる群れを眺めた。
 2年に進級したらあっと言う間に3年で、俺もかつての先輩方と同様に進退を迫られる時が近付いてる。
 バスケを目一杯楽しむのも、夜遊びすんのも、今年でひと区切りかも知れない。
 だけどさ。
 変わってくものばっかりだけど。
 まだ先は何も見えないけど、会長とはるとからは明るい未来が感じられる。
 2人だって変わってくだろうけど、それは良い意味で前向きで、何か俺も頑張んないとなーって想えるんだよな。
 いろんな時間が終わって、何かを手放していくとしても、見えない絆を信じられる。

 2人を見てると、信じたいと想えるんだ。
 ふて腐れてる雇用主様をけしかけて、俺も輪の中へ駆け寄った。
 退屈な毎日を楽しくすんのは自分次第ってな!



 2014.11.1(sat)23:59筆


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