126.金いろ狼ちゃんの武士道(最終話)


 ガツンと横っ面殴られた気分だった。
 「誰を誰がモノにしたって…?」
 いつ見たよりもブチギレてる。
 この瞬間、昴は、旭ですら止めらんねー狂気を宿していた。
 爛々と光る目は、正気じゃなかった。
 俺は近くに居たから、よく見えた。
 これが殺気てヤツかっつーぐらい、まともにその狂気を浴びせられて。
 隣に居た一成が息を呑んだ気配だけでも、ヤバいってのがわかる。
 全員、息の根止められんじゃねーか。
 
 身の危険を感じて鳥肌が立つ。
 けど足も指先すら動かせらんねー、恐ろしい緊張感だった。
 目を逸らす事もできない。
 「ふざけんな」
 続いた言葉は奇妙な程、静かで落ち着いており、余計にブチギレてる事態を実感した。
 笑って流す所だろーと、誰もが想っていた。
 ネタにして軽いノリで、3年の面々含めて俺らにシリアスは似合わない。
 そうやって笑いで誤摩化さねーと、さらっと元に戻れねーじゃん。

 何もかもなかった事にするワケじゃない。
 ただ、いろいろあり過ぎて疲れてるしよ、掘り返したってろくでもねー事ばっかじゃん。
 赤狼も天谷も一成も一応は落ち着いてる、署名活動に参加してたぐらいだしな。
 昴だって重々承知してんだろ。
 笑ってバカ騒ぎして流して、一件落着!
 3年生追い出して更に落着、俺らの天下到来!
 それでいーだろって俺は想ってたし、暗黙の了解にもなってた。
 ところがどうしても看過できない逆鱗に、俺らは触れちまったらしい。
 何て事のない、悪気なくふざけた言葉のつもりだった。


 「陽大はモノじゃねえ」
 

 あー、なんかわかった。
 やっとわかった、今更。
 はるとが皆の前でお披露目されて、気まずそうに居心地悪そうに縮まっていながら、昴の側に立ってる意味、はるとが昴に惚れた理由も。
 俺らはつまり、スタートから間違ってたんだな。
 欲しいモノを手に入れる、テリトリーを作る、ダチや仲間を作る、惚れた奴と通じ合う。
 全部同じ括りにしていた。
 モノも場所も人も、手に入れるもんだと想い上がっていた。
 何でもてめぇの所有物にできると勘違いしてた。

 昴は違う。
 人を人として、それぞれの想いの存在を尊重する。
 「お母さんは武士道のモノ」だって、俺らは大きな間違いを掲げて得意になってた。
 はるとは優しいから、ニコニコして否定しなかった。
 俺らはすげー良い関係を築けてるって、これこそ仲間だって想い込み、はるとを尊重してた気になって負担をかけていたのか。
 淡々と語り、すぐに怒りを治めた昴の側に、はるとは怯えもせずに立ち続けている。
 困り顔で恐縮しながらも離れず、静かに昴を見つめている。
 ほわほわしてるけど夢があってしっかり者で、実は男前な一面もあるはるとは、対等に見てくれる昴に安心したんだろーな。

 やがてそんな一幕もなかった様に、バカ騒ぎが本格化し始めた頃、黙々と飲んでた俺と一成の元へ、昴がぬっと現れた。
 「仁、一成、ありがとー」
 「「軽っ!」」
 手前勝手にカンパイけしかけてくる、能天気なツラが疎ましいやら懐かしいやら。
 日常が色を変えて戻って来た。
 不思議な感覚だ。
 「昴の為なんかじゃないからね〜俺らはあくまではるるの為に動くから〜これからもずっとね〜」
 一成が冷めた目で言い放つと、昴はけろっと笑った。

 「それで良い。陽大には武士道が必要だし。すげぇ大事な仲間だって笑ってた」
 「「え…マジで」」
 「うん。それにー武士道の署名ってはるの事ばっか書いてんなーって想って、何気に後ろ見たら気づいちゃったんだよねー」
 「「あ?」」
 「『お父さんになってくれても良い』とか、『お母さんを守って』とか?ちっちぇえ字でお手紙書いてくれてありがとー武士道代表して連中にも言っといてネ!」
 腹立つウィンクされて、一成と同時にいきり立った。

 「「だからそれもお母さんの為だっての!」」
 「「「「?!そーちょー、副長、戦争スか?!」」」」
 「仁…?一成…?一体どうしたの、おっきな声を上げて…先輩とケンカ?」
 トンチンカンよしこと談笑してたはるとが、心配そうに瞳を揺らがせる。
 「はるぅ〜じんと、かずなりが………おれ、こわいょ…」
 途端にはるとの背中に隠れて、怯えた子犬演技を繰り出す昴に、真面目で免疫のないはるとは怪訝な顔になって、俺らと昴を見比べた。
 「え…皆、ケンカはいけませんよ?」
 「「てめぇ、昴…」」
 「「「「ムッカついたぞー!お母さん、後ろ後ろ!」」」」

 悪どい顔で嘲笑を浮かべ、俺らを挑発していた昴は、はるとが振り返るなり子犬の顔に逆戻りし、すっかり騙されたはるとに慰められている。
 なんなんだ。
 やっぱはると、そんな悪どい男止めとけって!
 「つーか、昴。これで俺ら武士道への挨拶が終わりとかナメないでよね〜下界には俺らの本拠地があるから〜」
 ナイス、一成!
 「全くその通り。ヒロさんや下界メンバーに筋の1つ通して貰うまで、武士道として認めるワケには行かねぇなあ。なぁ、野郎共」
 「「「「押忍!!」」」」
 「こわいょ、はるとくん…」
 「皆、仲よく、ね?」

 なーんかグダグダだな。
 なんだこりゃ。
 一時のシリアスはどこへやら、最終的にはいつもの悪ノリに戻った。
 これが俺らの姿だけど。
 昴の隣で笑うはるとの横顔を見ていたら、視線に気づかれて振り返られた。
 きょとんとするはるとに何でもないと言うと、「おかしな仁ですねぇ」と笑われて。
 マジでおかしくなって笑った。
 ま、はるとがちゃんと笑ってんなら俺は何でもいーぜ。
 相手が昴なら、なんだかんだ認めるしかない。
 良かったな、はると。

 また始まる戻って来た日常を、俺らは俺ららしくこなしていく。
 ちょっと退屈で怠惰で、けど2度とないこの貴重な時間を。
 楽しくなる予感しかねーのは、俺が楽観的過ぎんのかねー?



 2014.10.22(wed)23:59筆


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