125.親衛隊員日記/心春日和vol.max


 そして、今。
 本当に全て丸く収まったのか信じ難く、夜通しの宴会だったし、眠れない夜はあっと言う間に明けた。
 ベッドの中でぼーっとしている内、すぐ昼がやってきた。
 今日は何曜日だっけ?
 日曜日?土曜日?
 休日って事だけわかる。
 張り詰めていた糸が切れた、頑張り屋さんの心春は抜け殻も同然で、このまま日がな1日ベッドで過ごしたいぐらいだったけれど。
 空気読まない穂の奇襲で、お呼び出しされていた事を想い出し、身だしなみだけしっかり整えて部屋を出た。

 寮からも校内からも遠く離れた、武士道様のテリトリーに集う、どこか懐かしささえ感じる顔触れにプラス、バスケ部2年の皆様まで勢揃い、キタコレまさに眼福!
 これだけ個性的でにぎやかな面子が集っているのに、どなたも一言も話さない。
 皆様も僕達も、様々な想いを抱いて凝視するのはただ2人だけ。
 こうしてどんなに見つめても消えない2人の姿に、やっと今、僕は実感した。
 柾様が、ちゃんと此所にいらっしゃる。
 学園に残る事を選んで下さった。
 期待なんて少しもしていなかったの。
 崖っぷちで何ができるかって、必死に細い枝に掴まった僕達を、頑丈なロープで引き上げてくださった。

 こうと決めたら必ず決行する。
 腹の括り方が尋常じゃなく潔い柾様が、ご意思を曲げて此所にいらっしゃる。
 僕達の声を聞いて、受け入れて下さったんだ。
 それは1人の人間として認めていただけた様で、旭様の立ち位置には到底及ばないけれど、並んで歩く事を許していただけた様で、ああ、僕はやっぱり柾様の親衛隊なんだ。
 骨の髄まで染み渡っている、恋情よりも尊敬の方が強かったんだとわかった。
 わかると同時に、鈍く胸が痛むのは仕方がないよね。 
 単なる憧れだけでは言い表せない、あなたを好きだと想った事は嘘じゃないもの。

 タコウィンナーまで揃えた豪勢なパーティー料理が並ぶテーブルを背景に、気まずそうにショボショボしているはるとを守るように肩を抱いて、ニコニコしていらっしゃる。
 沈黙に耐えかねたらしい、所古様が「で?」と切り出された。
 そりゃ最上級生に動いていただかないと、誰も動けない。
 所詮、僕達は縦社会に生きているから、察して下さらないとね。
 「でー、この度は大変お騒がせいたしました!皆々様のご尽力のおかげで、復帰する運びとなりました。此所に宣言させていただきます。俺達、幸せです!」
 「「「「「ヒューヒュー!よっ!ご両人!」」」」」
 ウィンクをしてハートを飛ばす柾様と、途端に盛り上がるバスケ部2年の皆様に、びきっと空気が震える。

 「…昴…言っておくけど、それとこれとは話が別だから。俺の大事な陽大君を翻弄してくれた件については後で重々物申し上げさせて頂く。覚悟しておいて…?」
 ゆらりと影が動く、渡久山様の黒い微笑に勇気づけられた皆様は、次々と声を合わせる。
 「ほんっとそぉだよぉ〜!大体こーちゃんは参加しなかったじゃんかぁ〜!後出しじゃんけんで横入りとかズルいぃ!卑怯ぉ者ぉ〜!!」
 天谷様のお言葉に、「全くその通りだ」と大多数の方が頷く。
 「後出しじゃんけんの昴に負ける方が悪いんじゃねーのー?」
 旭様のとびっきりの笑顔と皮肉に、バスケ部2年の皆様が「そうだそうだー!」と騒ぎ立てる。
 収集つかない状態になって、遂に武士道様中心になった皆様が叫んだ。

 「「「「「お母さんを自分のモノにしたからって調子乗んなよ!」」」」」
 その瞬間、あらゆる声をスルーしてはるとと談笑していた、柾様のお顔が豹変した。
 「…ああ゛…?今何つった…?」
 突如ブチギレた柾様の気迫に呑まれ、あんなに騒がしかった室内が恐ろしいぐらいに静まり返る。
 「誰を誰がモノにしたって…?ふざけんな。陽大はモノじゃねえ。感情のある1人の人間だ。冗談でもモノ呼ばわりすんな。友達だろうが何だろうと許さねえ。てめえだけが主人公気取りかよ。人を人と想わねえ言葉なんか2度と言うな」
 
 何故か、泣きそうになった。
 この心春が人前で泣くワケにいかないけどっ!
 柾様が真剣で怖かったからじゃない。
 良かった、良かったね、はると。
 此所にいらっしゃる皆様は、それぞれはるとや柾様の事を心配していて、悪気なんかない。
 柾様もそれをご承知の上で、大切な事だからと口にされたんだろう。
 僕達はすぐに舞い上がり、図に乗る生き物だから。
 人をモノと同様に欲しがり、手に入れた気になって、得意になってしまうから。

 柾様ははるとを見て下さっている。
 人として尊重して下さっている。
 良かった、柾様なら大丈夫。
 はるとを幸せにして、繊細なあの子を守って下さる。
 ううん、見守りながらお互いに支え合える道を見つけるんだろう。
 優し過ぎて脆い所があるはるとには、柾様みたいに意思のはっきりした、強い御方じゃないとダメだったんだろうね。
 はると、どうか幸せになって。
 柾様の事を信じて、幸せを手放したりしないでね。

 暫く経って場が落ち着き、にぎやかさを取り戻した頃。
 「心春も穂も、ありがとうな。率先して署名活動してくれてたって、十八さんや旭達から聞いた。お前らのおかげで俺は命拾いしたな。ありがとう」
 歓談の合間、柾様にそんな風に声をかけていただいた。
 知って下さった事、それだけで、僕は。
 知って下さらないワケがない、柾様はちゃんと見て下さる御方なのに。
 僕と穂、順に大きな手で頭を撫で、大人びた大らかな笑顔を浮かべておられる。
 長年の想いも、この1週間の頑張りもぜーんぶ報われた。
 この瞬間、きれいに昇華された。

 「当然です、柾様!僕は柾様親衛隊ですよ?白薔薇…いえ、富田様がご卒業の暁には次世代を導く大型ルーキー、それは心春の事!ご心配なく、柾様とはるとに不自由な想いはさせません!全て心春にお任せ下さい!既に親衛隊リニューアル、『柾様&はるとを応援し隊(仮名)』の結成を検討中ですから!」
 「オ?!オレだってっ!2人を応援し隊だからなっ!!(コハル、後で詳しく聞かせろよなっ!)」
 どーんと胸を叩くと、目を見張った柾様はすぐ、可笑しそうに口角を上げられた。
 「そりゃ頼もしいな。頼むわ、心春、穂。お前らだけが頼りだから」
 「「はいっ!!」」
 敬礼する勢いの僕達に、もう1度労うように微笑って、これからもよろしくって。
 柾様が握手を求めて下さった。

 ああ、認めて下さった。
 充実感に浸されながら、心から願う。
 神様が居るって言うなら、どうかずっと、柾様とはるとを守ってあげて下さい。
 2人を幸せにしてあげて。
 誰よりも頑張ってしまう2人こそ、誰より幸せになって欲しい。
 それと願わくば、僕にも素敵な人が現れます様に!
 願っても良いでしょ、ついでに穂もね! 
 だって僕達は、幸せになる為に生まれて来たんだもの。
 きっと、きっとね。
 


 2014.10.20(mon)23:59筆


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