22.冒険大好きお母さん


 A組の退場は1番最後だった。
 B組さんたちの背中を遠く眺めながら教室へ、ほぼ確定・担任の先生さまの後ろに続いて移動した。
 クラスメイトの皆さんがひそひそコッソリ、アイドルさんたち(作者注:はるとの中では生徒会=アイドル決定)の素晴らしさ、再会の喜びを語り合うのを、最後尾からのんびり、聞くともなしに耳に入れながら。
 来た時は猛ダッシュだったものだから、見落としていた、渡り廊下の荘厳な造りをじっくり観察。

 うーむ…
 やはり、どこを見ても飽きることのない学校だ…!
 十八さん、グッジョブ!
 十八さんの遠いご先祖さま、この学校の創設者さま、グッジョブ!
 設計士さん、デザイナーさん、グッジョブ!
 建設者さん、グッジョブ!
 皆さま、まとめてグッジョブ!!
 学校の隅々までうつくしく調和の取れた造り、その中を行き交う、仕立てのいい制服を見事に着こなした生徒さんたち、身なりのいい教師さんたちの存在…
 しかも、アイドルさんたちもいらっしゃる。
 
 皆々さま、グッジョブ!!

 ほんとう、どこをどう写メっても、どなたさまを写メっても(いえ、肖像権の問題がありますから撮りませんけれどもね)、絵になるうつくしさ…
 渡り廊下の、空いた窓から時折、はらりはらりと舞い落ちてくる、桜の花弁の繊細なうつくしさ…
 落下流水の世界!!
 なんてなんて、雅なんだ!!
 これはもう、どこもかしこも冒険しまくって写メりまくって…ブログにアップするだけじゃぁ物足りない!!追いつかない!!
 ブログは一応、「親しい方々のみ公開」前提で、パスワード入室が原則なんだけど、セキュリティーの不安もあるし…

 ここは、チ●ーさんならぬ、ハルさんの出番!!

 模造紙とマジック!!
 模造紙とマジック!!
 あ、あと自転車!!
 くう〜〜…ハルさん、張りきっちゃいますぞー!!
 必ずや、学園内の探索に励んで、ハルさん地図を完成させてみせましょう!!
 と、ぼーっと空想に耽りながら、歩いていたら。
 隣にいらっしゃった美山さんが、ふと呟かれた。

 「……耳、」
 「へっ?」
 「……耳、ダイジョーブか?」
 「え、耳ですか?美山さん、どうかなさったんですか?」
 「違う…俺じゃない。てめぇの耳だ……さっき、うるさかっただろ。くだらねー生徒会連中の所為で」
 「???ああ!コンサートのことですね!」
 「…あ?こんさーと…?」
 美山さんったら…
 アイドルさんたちの存在をよく理解していなかった俺を、心配してくださってるんですね…!!
 お優しいなぁ!

 「俺なら大丈夫ですよ〜気にかけてくださって、ありがとうございます!俺、初コンサートでしたが…あまりの盛況ぶりに戸惑いはしたものの、とても楽しませて頂きましたよ!
 すごいですねぇ、この学校は…トップにアイドルさんたちがいらっしゃるなんて、マンネリ化しそうな学校生活が、華やかなものになってよろしいですねぇ。
 やっぱり多少の刺激は欲しいですもんねぇ…俺達、思春期ですものねぇ…なにか夢中になれる対象が絶対的に欲しい年頃ですものねぇ…あんなにしっかりなさっているアイドルさんたちなら、心配も要らないですものね!」

 「……何か、話噛み合ってねーな……あいどる…?」
 「え???」
 「……てめぇが、無事ならいーけど…フツー外部生なら引く場面じゃねぇの…」

 引く…?


 「よく知らない、今まで接したことのない、これまで歩んで来られた人生を僅かにもわかっていない、目を合わせて心からの言葉を交わし合ったことがない人を、どう判断して、初対面で引くのでしょうか…?
 確かに、声を聞く前から雰囲気的な…ええと、第一印象の段階で、すこし苦手だと感じることはあるかも知れませんが…『第一印象で決まる』ことも多い世の中ですけれども。
 俺などは、まだまだ…生まれて生きて、15年ですから。税金も収めていない、親の保護下で守られ、勉強させて頂いている身の上です。

 それにこちらの学校は、一般的に考えて、素晴らしいハードやソフトが用意されていますけれども、閉鎖されたこの環境の中、いろいろな人がたくさんいらっしゃって、向き不向き等もある中、生徒さんの代表として前に立つ…もうもう、それだけで大尊敬です。俺には絶っっっ対にできませんから!

 自分ができないことをできる人って、ほんとう、尊敬しますしすごいと想います。自分ができないことをやってくださっている存在が、例え遠くでも近くでもいらっしゃることで、自分は今の位置に立たせて頂いている…知らないところでも知ってるところでも、助けてもらっている存在がいらっしゃる、世界ってほんとう、よくできているなって想います。

 ……あれ…話、ズレちゃいましたか…?とにかく、俺はこの学校に来たばっかりで、まだまだ知らないことがいっぱいあって、それを知って行くことがうれしいんです」


 わーわー…!
 どんどん脱線してきちゃったな、こりゃ…
 美山さん、眉間のシワがなくなったと想ったら、きょとんとなさっておられるし!!
 お、俺ったら、変に語っちゃって…!!
 美山さんはしばらく、きょとーんとなさって。
 苦笑のような、あいまいな表情で、ため息を吐いた。
 「てめぇ…マジで、変なヤツ…」
 「ごめんなさい!つい語ってしまって……よく言われます〜変わってるって…」
 「……別に、悪くねーけど」
 「え?」
 
 美山さんの手。
 長い指先が、俺の額を小突いた。
 「けど、呑気に構えってと喰われんぞ。気をつけろ。お前が知らない事なんか、マジで山程ある」
 「はい!ご忠告ありがとうございます!」
 


 2010-07-04 23:00筆


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