117.化粧オバケの本音 by 心太(最終回)


 よっしゃ、完璧!!
 流石は俺様、良い仕事すんぜ。
 半ばヤケクソで拳を握って、額の汗を拭った。
 「紅薔薇の君、こちらも完成いたしましたぁ〜ご確認くださぁい〜」
 「おー、良いんじゃね。流石は日景館親衛隊、俺達に死角はないっ!」
 「「「「「はぁいっ!」」」」」
 うんうんと、全員大満足で頷き、廊下の壁全体に貼り巡らせたポスターを見やる。
 他勢力に負ける訳には行かない。

 莉人からの命令に恥じない、派手で華やかな出来映えは、他所のポスターに比べても断トツと言えた。
 ふん、プリンス様は実は美術部名誉部長もこなしておられる=親衛隊には美術部員が多い事が功を奏したな。
 これで俺達は一頭馬身抜きでた筈だ。
 とは言え決戦の日まで後1日、最後まで気は抜けない。
 「紅薔薇の君、お疲れ様でしたぁ〜ではこれより、徹夜慰労会を開催いたしましょぉ〜」
 「おー、下の連中に言って用意は進めてる」
 「「「「「きゃぁ!流石、紅薔薇の君っ」」」」」

 色めき立つ子猫ちゃん、子犬ちゃん達に微苦笑を向けつつ息を吐く。
 「つーかいー加減、紅薔薇の君ってのは止めてくれ…コッチが悪ノリして演じてたのは悪かったけど。もうあんな変装しねぇしさ、せめて親衛隊内ではフツーに接してくんねぇかな」
 「「「「「わかりましたぁ!紅薔薇の君っ」」」」」
 キラキラした眼差しに、何のボケだよとよろめきそうになる。
 まー基本的にピュアピュアな隊員ばっかりだから仕方ねーけど。
 きゃっきゃしながら疲れも見せずに、日景館親衛隊の集会所ならぬティーサロンに向かう背中を追い、この数日の事を想い返した。

 怒濤だった、な。
 昴のバカがカッコつけて、会長退任どころか自主退学まで申し出てから、3大勢力は元より俺ら親衛隊も大変だった。
 まさかこんな事になるなんて、予想だにしなかった。
 どんな天変地異が起こっても昴だけは学園に殉ずるんじゃないかと、俺も勝手に期待をかけてた大バカ野郎だった訳だ。
 あいつの覚悟を見くびってた、あいつがそこまで前君を想ってるとか全然知らなかった。
 一平先輩は「俺は柾様の御意志を尊重する」の一点張りだし。

 対応に追われた先週末、週明けには急に莉人が目ぇ覚ましやがって、それからがまた、もう記憶ねぇぐらい大変だったな。
 こーんなお祭り騒ぎになるなんてよ。
 昴のヤツ、驚くだろうな。
 驚いたからってどうにもなんねーかも知れない。いやどうにもならんだろう。
 だけど、学園が、俺らが自分の意思で行動したって事が大事だろ。
 あの澄ました莉人が、動揺して腑抜けた後、急に目の色変えて俺達親衛隊に頭を下げた、それだけで有り得無いんだよ。

 力を貸して欲しいって。
 自分1人だけではどうしようもないって。
 『長年側に居たからわからなかった…わかろうともせず、当たり前にこの時が続くと過信していた。大切なかけがえのない仲間が、全ての責を引っ被って消えてしまう、最悪な想い出を負わせて居なくなる。最後まで昴に甘えたままになるなど、俺は堪え難い。俺は何の礼もしていない、何も返していない。これまでの奴の功績、俺達への想いやりに今更及びもしないが、せめて最後に感謝を伝えたいんだ』

 だから俺も、応えたいと想った。
 昴の覚悟に、莉人の誠意に、動きたくても主君の意思は絶対尊重で、陰で苦労してきた一平先輩に、俺にできる事は何だろうと頭を捻った。
 バカげた変装も、気取った演技も、もう要らない。
 莉人が素の姿で俺達に頭を下げ、協力を頼んで来たから。
 きっと、他所の親衛隊も風紀も武士道も、どこも同じだったろうな。
 トップに誠意見せられたら堪んねーんだよ。

 そもそもの発端は昴からか、お前が誠心誠意ぶちかましやがるから、学園もやっと今になって本気出せた。
 聞けば、莉人の行動のキッカケは合原心春だったそうだし、昴にも昴の親衛隊にもマジで頭上がんねーよ。
 「おや、これはこれはお揃いで…変装を解いた途端、却って男気あって素敵!と人気沸騰中の織部心太君じゃないか」
 「「「「「きゃぁ!白薔薇の君っ」」」」」
 「富田先輩…」 
 富田先輩は堂々と、片前やタローちゃんを連れていた。

 署名活動に協力しないと声明を出している旭一派は昴の友達として、富田先輩達は腹心だと認知されてしまっている。
 こんな事態で全てが明るみに出るなんてな。
 この人達の事だから、明るみに出て良い事だけわざと表面化させて、まっだまだ切り札を持ってるだろうけど。
 隊員達を先に行かせて、3人と向き合った。
 こうやって揃っている所を見ると、やはり圧倒されるしわかる。
 今まで気づかなかったのが不思議なぐらい、3人共、昴と雰囲気が似通っている。

 「盛況な様だねー心太。お疲れ様」
 「お陰さまで…先輩もお疲れさまです」
 眩しいものを見る様な眼差しで、廊下の壁中に散乱しているポスターを見渡して、一平先輩はどこか切な気な、淡い微笑を浮かべた。
 「我々には何も出来ないが、ありがとう。君達の行動に心から感謝しているよ」
 3人が3人共、あの日の昴と重なる姿で、深々と頭を下げてきた。
 「一平先輩!片前もタローちゃんも!止めて下さいよ、俺達は勝手にやってるだけですから!」
 上擦った声を上げても、暫く3人は礼をしたまま動かなかった。

 やがてゆっくりと顔を上げた、一平先輩が口角を上げた。
 「自分が動けない時、代わって動いてくれる人が居るとね、心太。言葉に尽くせない程、本当に有り難いものなのだと、俺達は想い知ったんだよ」
 そう言って軽く会釈し、そのまま去ろうとする3人に想わず声を掛ける。
 「一平先輩、昴は、」
 「心太。俺には昴の覚悟を語る事も、変える事もできない。ただ金曜日を待っている。穏やかな1日となる事を心から願ってね」
 ふと、片前と漣がそれはやわらかく微笑った。

 「ただ、これだけは言える。柾様はとてもお喜びになるよ。こんなお祭り騒ぎを知ったら」
 「Yes!それは間違いないーデスネ!」
 「ああ、そうだね。間違いない」
 そっか。
 昴、喜ぶかな、ちょっとは嬉しいって想ってくれんのかな。
 この3人が言うんだから、そうなんだろうな。
 それを聞けただけで、莉人や皆の苦労が報われた気がして、肩が軽くなった。
 よっしゃ、もうひと踏ん張りする為に、徹夜慰労会でスイーツ食ってエネルギー補給だ!


 
 2014.10.11(sat)23:45筆


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