114.十左近先輩の気苦労日記(8)


 こんな憂鬱な帰り道って、ちょっとなかなかない。
 これだけ雁首揃えていながら、誰1人何も喋らねぇとか。
 生徒会1年生組っつー騒がしい面々まで、借りて来た子猫の様に大人しい。
 たまに物音が聞こえると想ったら、誰かのため息か風が吹く音ぐらいだった。
 行く当てすら見失って、ただ歩いてる。
 それなりに勝ち得てきた、てめぇで道を切り開いて立ってるつもりだった、その足元がこんな脆くて薄っぺらいものだったとは、我ながら驚きだ。

 旭にとどめを刺されるとは想ってもみなかった。
 そのダメージは俺だけじゃない、全員にとって致命傷だった様だ。
 柾だけじゃない、ヤツの周りの連中まで相当肝座ってたんだな。
 知らなかった。
 俺は幼等部からずっと此所に居て、1年後から入って来た柾をマークしていながら、何もわかっちゃいなかった。
 ヤツの派手なパフォーマンスに目を奪われて、その表面だけを信じて知った気でいた、一体何様だっつの。

 俺なりに頑張って来たつもりだった、カッコ悪ぃ話。
 それが全然、柾の覚悟には追いついてなかった。
 知らなかったじゃ済まされねぇ。
 取り返しもつかねぇ。
 じゃあ後は俺達に、俺に何ができるってんだ。
 途方に暮れるしかない、無力さに。
 何が3年生、何が卒業だ。
 こんな一大事にろくに頭も回らねぇなんて、使えないにも程がある。

 「困ったもんだねェ…どうしたものやらとんと妙案が浮かばねェや」
 寮近辺までたどり着いて、やっと所古が呑気を装った声を投げ掛ける。
 気まずい沈黙だけで終わるワケにいかない。
 此所から先は一般生徒の目につき易い、別れる前に何らかの結論は必要だ。
 暗に誰か策はないかと問い掛ける、しかし沈黙はなかなか揺らがなかった。
 「親伝手もNG、旭もNG、今日を除けて後4日か…」
 宮成のため息に同調する空気になりかけた、それを拳を握りしめた合原が断ち切った。
 
 「…もう、もう我慢できません…っ!言わせていただきますっ!最初から他人を頼ろうとするから駄目だったんですよ!!そうじゃなくて、先ず自分がどうするか考えなきゃいけなかったのに!!」
 呆気に取られるしかない俺達を気にせず、合原は声を上げ続けた。
 「僕も皆様も間違ってるっていう事でしょう?だから何も上手くいってないって事…ちゃんと考えなきゃいけなかったんです!だって、柾様はいつもご自分で考えて行動されていたのに…こんなやり方じゃ、絶対に戻って来てくださらないですっ」

 「合原君、言いたい事はわかるし、最もだと想うけれど…」
 「じゃあどうするのかって話だね〜」
 冷静沈着な渡久山と成勢が冷や水を浴びせるも、合原は一切動じなかった。
 逆に落ち着いた様にも見えた。
 「僕は、1人でも最後まで行動します。例えば、全校生徒や職員の署名を集めるとか…できる事は何だってします。柾様に全ての責任を被っていただいたまま去られるなんて、男として恥ずべき事、そんなの自分が許せない…それに…」

 大きな瞳が潤み、決壊するかと想ったが、かぶりを振ってきっと目を上げた。
 「このままじゃはるとが可哀想…あの子、また笑えなくなっちゃう…僕は何よりもはるとの友達として、そして柾様の親衛隊として、悔いのない様に最善を尽くします。皆様に対して数々のご無礼を申し上げた事、心からお詫びします。ですが勝手な行動を取る事、どうかお見逃し下さい。では!失礼いたします!」
 勢いよく一礼した後、駆け出す合原をぽかんと見つめていた九が、我に返って宣誓する。
 「オ、オレもっ!オレは、はるととコハルの友達で味方だから!!おいっ、コハル!!ちょっと待てよー!!オレも一緒に行くし!!」

 弾丸の様に後を追いかけて行った、小さくも勇ましい後輩達の背を、俺達は呆気に取られたまま見送っていた。
 やがて日景館が、何故かくっと喉を震わせて笑った。
 「まさか合原と九に先を取られるとはな…生徒会が負けてる場合じゃない。昴は俺達の代表で前陽大は仲間だからな。行くぞ、悠、宗佑、優月、満月。作戦会議だ」
 「「「お?おーーー!!負けないぞー!」」」
 「おー?ぞー!」
 挨拶もなく立ち去る生徒会連中を見届けるまでもなく、日和佐と渡久山も動いた。

 「やれやれ…騒々しい事この上ないな、凌」
 「そうですね、日和佐委員長」
 「だが、頼もしい。卒業前の最後の大仕事、存分に楽しませて貰うとするか」
 「ええ。十八学園には風紀委員会在りきと、見せつけてやりましょう」
 それまで掛けていなかった眼鏡を着用し、何処かへ颯爽と去る奴らを後目に、武士道の2トップは揃って欠伸をして腕を伸ばしている。
 「しゃーねーなー」
 「クソだりぃけどね〜」

 「行くか、一成」
 「しかないでしょ〜そーちょー」
 「「全てはお母さんのために!」」
 ギラっと一瞬、瞳を光らせてから口角を上げ、ダラダラとかったるそうに歩きながら遠ざかって行く。
 後にはバスケ部2年に捕まった音成以外、つまり、俺と所古と宮成だけが取り残された。
 「火ぃ点けられちゃったねェ、連中」
 「まさか合原に目ぇ覚まされるとは、な」
 くねくね、ふにゃふにゃ、誰より猫被ってた合原の本性って男だったんだな。

 目と目を合わせて、にっと笑った。
 「行くかァ、相棒共!」
 「相棒言うな」
 「同感。けど、行こうぜ」
 俺達は、俺達のできる事を。
 例え望まぬ結末になったとしても、悔いの残らない様に。
 今更だ、後悔なんて山程ある、柾と関わった人間ならばこんな種明かしされて、あの時こうすれば良かったのかと、悔悟は尽きないもんだ。

 だから最後ぐらい、足掻いて見せるさ。
 カッコ悪くても、いっそカッコ悪いぐらいに。 
 「十の字、仲間外れを発見したぞィ」
 「ああ?」
 「正解はー宮成ー!お前さんは生徒会組だろーがァ」
 「仕方ねぇだろ…出遅れたんだよ」
 「「可哀想な子…」」
 「うるっせぇ!卒業組の中に入れろ!」
 「「渡久山は風紀だしネ…」」
 「その目、止めろっつーの…」 

 さぁて、先ずはどうしてやろうか?



 2014.10.5(sun)23:59筆


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