113,金いろ狼ちゃんの武士道(9)


 「俺はてめえらを許さねえ」

 旭のブチギレっぷりは凄まじかった。
 手がつけらんねぇ、取りつく島もないってヤツ。
 つっても喧嘩になったわけじゃない。
 見境なく暴れられた方がまだマシだ、ヤツはあくまで最初から冷静だった。
 それなりに腕の立つ集団に囲まれて、俺ら武士道も居るっつーのに、まるで動じない。
 俺達が来る事を予測していたんだろう。
 開口1番からバッサリだった。

 「俺は昴を止めないよー。あいつが決めた事だからねー」
 バスケ部体育館には音成の言った通り、2年生しか居なかった。
 練習の合間を縫って無理に呼びつけ、何を説明する間もなくいきなり拒絶された。
 「つーかお前ら、今更何なの?あ、やべ!先輩居るのにすみませんねーけど言わせていただきますよー今回ばかりは」
 バスケ部はチャラいっつか、旭筆頭に軽いノリでユルい。
 お祭り騒ぎはいつもバスケ部から引き起こされる。
 
 昴とつるんでるイメージが強いだけで、俺は接点もないし、特にマークしてなかった。
 それを改めさせられた、この一瞬の切り替わりで。
 皆さんお揃いで何なのーとぶつくさ言いながら、にこにこ笑ってた、淡い色の目は微塵にも笑っておらず、今は冷ややかに俺達を見据えていた。
 1人対集団だ。
 けど気圧されてんのはこっちだ。
 最初から負けが決まってる、よく訳がわからない内に勝敗は喫していた。

 「てめえら全員、何でも昴に押し付けやがってさーそのクセ大事にしねえクセに、いざ消えるってなったら慌てて引き止めるとか、人を舐めんのも大概にしろ。集団じゃねえとモノを考える事もできねえの?何であの時こそ何も言わなかったんだよ。今になってピーピー騒いでも手遅れ!とっくに試合終了してんの。コレ、ビジネスだったら路頭に迷ってんぜ。それぐらい判断ミスって重罪じゃんー?昴も甘やかし過ぎだけど、お前らこそ甘え過ぎ。その辺わかってる?」
 くっと喉を震わせて笑ってる。
 鋭い眼光が、俺達を見透かす様に見渡す。 

 「そもそもこーして俺と話してる時点で重大ミスだって、わかるー?残念ながらアイツの家族が動いてる。知らなかっただろ?聞こうとも想わなかっただろ?昴の家族が決してこの学園の事を快く想ってないって。初等部がギリだったかなー中等部に上がった段階で一族中が転校させたがったのを、あいつ1人が頑張らせてくれって頼み込んで粘ってた。どーせその理由もわかんねえだろ。昴の意地とかプライドだって想ってんだろーけど」
 旭が息を吐く。

 「違うっつーの。てめえらが居るから頑張るって、もう少しだからって、何の義理もなく負担でしかないこの学園背負ってたんだよ、あいつは。
 昴がどんな覚悟で立ってたか、想像すらしなかっただろ?昴なら何でもできる、どうにかできるって、勝手に超人扱いして甘えてただろ。

 あのさーもうこの際、全部種明かしするけどー。あっさり退学表明したって、軽く受け取っただろーけど、違ぇんだよ。何かあったら責任取るって、毎年退学届け用意してたの知らねえだろ。軽くねえ、あっさりしてねえんだよ。辞めるフリすりゃ引き止められんだろとか、昴の頭にそんな卑屈な考え無えから。全部本気なんだよ。

 昴はとっくの昔っから覚悟決めてた。お前らが今更どうこう言った所で、あいつに届くワケが無え」

 覚悟決めてた?
 毎期毎期、退学届け用意してたって?
 知る由もなかった、そんな、今になって昴の覚悟を知るとか。
 いや、違う。
 旭の言葉通り俺達は、俺ら3大勢力は、「聞こうとも想わなかった」んだ。
 昴なら大丈夫だって頭っから信じて、よく無理するよなーとか感心までしてた。
 家族の反対とか、想像もしなかった。

 その時、体育館から次々とバスケ部の連中が姿を現した。
 呆然として何も言えない俺達の前に、旭を囲う様にズラズラと並ぶ。
 どの顔もいつものチャラさを消失させ、冷め切った表情を浮かべていた。

 「陽大君を守るって決めた。同時に学園の未来も切り開いた。昴が今できる最善尽くした結果を、お前ら如きが覆せるとか、想い上がりにも程があるだろ。まして俺を頼って来るとか、っざっけんな。伊達に13年間も親友やってねえっつーの。
 とにかくー寂しい!困る!っててめえらのちっちぇえ感情に、これ以上昴が振り回されんのなんか見てらんねえ。俺らもいーかげん限界!これで話は終わり!」

 「チャンチャン!めでたしめでたしー」
 「バスケ部2年舐めんなー!」
 「友達守る為なら喧嘩道も辞さねえよー?」
 「お母さんは昴の大事な人だー!」
 「「「「「そうだそうだー!」」」」」
 「俺らにとってもお母さんは大事な人だー!」
 「「「「「そうだそうだー!」」」」」
 
 口調はふざけてやがるのに。
 俺達は誰1人として、反論できなかった。
 一見ふざけてる、声は荒げちゃいねぇし、落ち着いて見える。
 けどコイツら、マジでキレてる。
 一言でも反論しようものならただでは済まねぇ、奥底に流れる凶暴性にぞっとする。
 「これは昴に言われたからじゃない。俺らで決めた事でもない、俺の意思だけど」
 誰よりブチギレてる旭が、にっこりと笑った。

 「俺はてめえらを許さねえ」
 
 それで話は終わりだった。
 とんでもない場所に、最強のジョーカーが居た。



 2014.9.30(tue)23:30筆


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