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 おふとん巻き巻きで、それよりもっとあったかい腕の中、ぎゅうぎゅうになっている。
 あったかいなぁ。
 ぐったりして、ぼんやりしているのに心臓のドキドキが止まらなかったのが、やっと落ち着いてきた。
 気づいたらいつの間にかベッドの中にいて、暖かく包まれていた。
 何が何だかわからなかったけれど、おしまい、ということなのかな。
 プールではしゃいで散々泳いだ後に近い気怠さのまま、寝てしまっていいんだろうか。

 ご挨拶するべき?
 柾先輩は、もう寝た?
 そろりそろりと、おふとんの中から目だけ出す。
 室内はまだ、うっすらと電気がついているようだ。
 寝るなら消さなきゃと、頭の上を見上げて、落ち着いた心臓が騒ぎ出す。
 ぱっちり目が開いている先輩と、目が合ってしまった。

 コソコソとおふとんの中へ戻ると、微笑う気配が伝わってきた。
 むむっ、敵は相変わらず余裕でいらっしゃる。
 ふん、俺なんかどうせ何も知らないし、わかっちゃいませんよ。
 こんな時、どうしたらいいのか、気の利いたことひとつも言えやしません。
 わからないから、だから。
 聞いてみたらいい。

 『知らない事があって当然、此所に居る誰もが最初は何も知らず手探りだった。まして陽大は入学したばっかだろ。いつでもどんな事でも聞いて。1つずつ確実に覚えていけば良い。遠慮して聞かないまま、1人で突っ走る方が俺達にとっても危ないから』
 生徒会のお仕事が始まった時、先ずそう言ってくださったのは、他でもない柾先輩だった。
 その言葉に励まされて、つい遠慮してしまうところ、何でもお伺いするようにした。
 おかげさまでどんな疑問も溜めこまず、すっきりとお仕事できる環境をいただけたんだ。

 生徒会とこういうことは、また別のお話だけれども。
 再びおふとんから顔を出して、今は穏やかな光を宿している瞳と視線を合わせる。
 「…あの…それで、どうしたらいいんですか?」
 「ん?」
 「お、俺は、こういったことは初めてですので、まったく作法を存じ上げていないのです」
 うう、男前のきょとーん顔、きょとーん顔すら眩しい上に近いでありまする。
 頬や耳が熱くなっていくのがわかる。

 ひとりカッカしていたら、きょとん顔からすぐに極悪なニヤリ顔が現れた。
 「そりゃ俺は大歓迎だけどーこういう時はー事後に感想をしっかり語り合ってー、ヨカッタ点ワルかった点を検証すんの。で、次回への反省と目標をまとめたら、次の開催日を決定して寝るってカンジ?という訳で、次どーする?俺に陽大へ対する不満なんか無えけど、強いて上げるならもちょっと力抜いて欲しいナ!保たなくなっちゃう!後、致す度に回数増加&ねっとりシたいナ。次回は日にち空けずに致したい!」

 きゃ!とか何とか言って、頬を赤らめている先輩をじいっと見つめる。
 「………絶っっっ対に嘘ですよね………」
 「えーーー?」
 「人が知らないと想って!いいかげんなことばっかり…」
 「ははは!後半マジだって。基本的に嘘じゃないって」
 「どうだか!すっかり先輩不信ですっ」
 「えーーーはるぅ〜」

 頬でぐりぐりしないでいただきたい。
 プンスカしながら、もう狼少年先輩は放置して寝ようと想った。
 ふと視線を感じて、この上まだ何か?と呆れながら見返して、見なければよかったと。
 こんな優しくて幸せそうな、とろける笑顔なんて知ってしまったら、知らない頃には戻れないじゃないですか。
 ふっと甘い目元が和らいで、ぎゅっと抱き寄せられて、頬にくちづけられた。
 「寝よっか」
 「…はい」

 おもむろに起き上がった先輩が、先輩のTシャツを着せてくれて、電気を消した。
 あったかい闇の中にいるのに、胸がぎゅっとなる。
 「まさきせんぱい…まだ、起きてますか」
 静かな夜を壊さないように、ちいさな声で囁きかける。
 「ん。起きてるよ。どした?」
 頭を撫でてくれる、おおきな手に眠気を誘われるけれど。
 だけど、どうしても。

 「明日、も……」
 途切れた言葉の続きを、明るく引き取ってくださる声に、頬が緩んだ。
 「ん。明日もその先もずっと一緒に居る」
 「はい…!」
 やっと心身が解れていくようで、緩やかな眠りの訪れを受け入れるべく、もそもそとおふとんの中へ潜りこむ。
 最近は柾先輩の胸の辺りまで潜って、ぎゅっとしてもらうのが定位置になっていた。
 
 あったかくって、先輩の鼓動を聞いていると安心できるから。
 「陽大、いつも聞いてるけど苦しくねえの」
 「ねえでスヤ…」
 「ねえでスヤって新しいな…おやすみ。また明日」
 「…おやスヤ…」
 「新しいなー」
 くくくっと喉を震わせて笑うから、ひっついている俺にまで振動が伝わってくる。

 こうやって眠れる時間は、あと1週間を切っていて、その1週間の間に何が起こるかなんて誰にもわからない。
 けれど先のことでもう、想い悩んだりしない。
 今、一緒にいられること。
 すぐ側にいてくださるこの時間を、大切にするんだ。
 約束をくださった先輩を、何があっても俺は信じる。
 優しく肩の辺りをたたいてくれている先輩が、どうかぐっすり眠れますように。
 おやすみなさい、また明日。



 2014.9.28(sun)22:17筆


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