104.臨時増刊!ニャンニャンナー号


 『●新聞報道部/掲示板ジャック第229号●

 【柾昴、切腹】
 〜王者自ら辞した玉座、その姿潔し〜

 本日5限目、3年生を送る会の全体ミーティングの終盤に事件は起こった。
 柾昴(17)と前陽大(16)の熱愛の噂は本誌既報通りである。
 怒れる柾親衛隊やその信奉者、野次馬共はこの機を逃さなかった。
 噂が出回ってから2人が衆目の前に初めて出る場、ところが柾は一切の弁明なく進行させ、大人しく耳を傾けていた聴衆はあわや解散という瞬間、容赦なく追撃の声を上げた。
 柾のスクープで我々が振り回されて来た事は珍しくない。

 これまでにも幾度となく起こり得た事態、その都度、この男は飄々と交わして来たものだ。
 今に始まった事ではない騒動、しかし今回ばかりは勝手が違っていた。
 何故なら熱愛の噂のお相手が、今年度入学して来た外部生の内の1人、我等がお母さんこと前陽大だったからだ。
 賢明なる諸君は無論、ご記憶されている事だろう。
 あの息の合った体育祭、特に障害物2人3脚走での見事なコンビネーションと熱演、2人の活躍なくしてAチームの優勝は有り得なかったものだ。

 当時から実は競技上の小芝居ではなく本気の熱愛ではないかと、2人の関係性を怪しむ声は絶えなかった。
 その間、柾の婚約者疑惑や外界での遊び人っぷりを本誌でも紹介して来たが、それらは全て真実を覆うフェイク、つまりガセネタだったと、記者は声を大にして言う。
 全ては柾の掌の上、我々は最後まで踊らされるしかないのだろうか。
 話は今に戻る。
 1度は舞台から去った柾だが、追撃の声は止む事なく、あわや暴動かと講堂内は緊迫した。

 いつものこの男ならば、全く鼻にもかけない事態だ。
 誰に何を言われた所で動じない男である。
 その強靭な精神力がなければ、生徒会長など務まらないだろうが、彼奴の精神論は今は触れずにおこう。
 噂や号外のことごとくをとことん無関心に徹し、為すべき事だけ淡々と為す男だ。
 ふざけた暴君ぶりを見せつけ、力を誇示する一方、この男が実は私事私情を振り翳した事は記者の知る限りない。

 鉄壁とも言えよう、徹底した「私」の秘匿こそ、彼奴の信奉者を惹き付ける一因でもあるのだろうか。
 今回も恐らく全てに口を閉ざしたまま、時が流れるのを待つのかと、記者が諦めかけた時だった。
 それこそ1度去った舞台に戻って来る事など絶対になかった、振り返る事のない男が戻って来たのだ。
 目を疑った記者は、更に次の瞬間、目も耳も疑う事となった。
 あの揺らがない男が、深々と頭を下げて謝罪の弁を述べたのだ。

 まさに、ハラキリ。
 そうとしか形容できない、異様な迫力であった。
 自ら玉座を降りた王は、敗北を認めながら、覇気を失わない。

 誰もが1度は想像した事ではないだろうか。
 この完璧な男が頭を垂れ、我等の前に膝をつく姿を見てみたいと。
 我が十八学園の頂点に君臨する男は、そのステイタスに相応しく、歴代でも類を見ないあらゆる才を持った完全無欠の男である。
 それは学園の誇りでもあり、血の通う人間にとっては鼻持ちならない現状であった。
 こんな男が存在して良いのかと、何せ彼奴は家柄は無論、頭脳明晰、文武両道、喧嘩道も不敗の色男であるのだから。
 
 同じ人間として男として、誇るだけでは済まされない、カンに障る存在であった事を記者は認めよう。
 どんなに努力しても敵わない現実が、目の前に高々とそびえているのだ。
 血反吐を吐く修練を積んだとて、彼奴は既に遥か彼方を悠々と歩いている。
 何1つ敵う所がない、ならば敗北を喫する情けない姿を拝んでやりたいと思うのは、人として子供として当然の感情ではないか。
 それを目の前で見せられた。
 何1つ愉快な事などなかった。

 王者が学園を去る。
 全て自らの責任とし、非を謝罪し、生徒会長退任ばかりか退学まで決意した。
 その理由が柾が初めて認めたスキャンダル、前陽大の熱愛の為だと言う。
 任期半ば、輝かしい道を歩む自らの歴史に傷を付けてまで、腹を切った、愛の為に王者は全てを手放したのだ。
 「この学園が好きだ」と、彼は言った。
 「好きな場所に私情で迷惑を掛けた時は去る」事を覚悟していたのだと。

 誰がいつ、柾に迷惑を掛けられたのであろう?
 お母さんとの熱愛に因り、誰がいつ被害を被ったのだろうか。

 恋は嵐だ。
 誰に止められるものではない。
 何故我々は、王者の初めての熱愛を、退学を覚悟する程に本気の恋愛を、素直に祝福できなかったのか。
 まして同性相手の恋愛である。
 学園内の色恋沙汰のトラブルは尽きないが、殆どは卒業までに別離の道を辿るものだ。
 一生を懸ける覚悟がなければ、易々と退学の道を選べるものではないだろう。

 諸君に問いたい。
 我々は今こそ、自ら考える時を迎えたのではないか。
 事が収束し平穏が戻るその日まで、新聞報道部の活動は一時休止とする。
 
 以下、柾のこれまで行って来た取り組みと業績、お母さんの優しさ止め処ない生徒会町補佐活動特集』



 2014.9.22(mon)23:59筆


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