100.孤独な一匹狼ちゃんの心の中(18)


 どっかでずっと想ってた。
 あのムカつく完璧男が膝を折り、項垂れ、玉座から退く様を拝んでみてぇと。
 情けない醜態晒して、その立ち位置から引きずり降ろされれば良い。
 余裕を失ったてめぇは、どんなツラになるんだろうな。
 成績でも地位でも家柄でも容姿でも、喧嘩道でさえ、誰もてめぇに敵わない。
 完全無欠で、指1つ動かさずとも望めば何でも手に入る、だからいけすかない笑い顔で自信たっぷりに自由を謳歌してやがる。

 関わらなくても存在しているだけで鬱陶しい男。
 長年ずっと揺るぎないてめぇが、大衆にみっともなく頭を下げて平伏す、脅威の前に怯える姿を1度で良い、臨んでみたかった。
 その時はこの面白くねぇ学園生活も、ちょっとはスカっとすんじゃねぇか。
 てめぇの治世の所為で、腐った馬鹿げた学園もマシになんじゃねぇか。
 とにかくウゼぇの一言に尽きる。
 前に立たれるだけで、何かしら名前を見かけるだけでムカついた。

 その男が、頭を下げている。

 何の茶番だ。
 これもどーせ何かの企てなんだろ。
 恐ろしい程頭がキレる、あんたの独断場にまた、イイ様に踊らされるだけだろ。
 くだらねぇ。
 そう醒めた眼差しで見るともなく見ていた。
 小芝居でもこいつが頭下げてんのはちょっと愉快だが、どーでもいー、早く解散しろとイラついた時だった。
 続いた言葉に、改めてまともに壇上を見上げた。

 人が唯一本気になったもんを、あっさりかっさらっただけじゃねぇ。
 辞めるって何だ。
 前を置いてあんたが辞めて、何の冗談だ、くだらねぇ。
 いつもならとっくにフケてどっかでサボる所だ。
 どーせ口から出任せだろう。
 そう言やぁ誰か引き止めてくれるとか、何か計算あっての小芝居の一環だろう。
 前を使って鬱陶しい事この上ない。
 それを見極めてぇのに、妙に焦った。

 壇上の哀れな筈の道化師を見て、ゾッと寒気が走った。
 目が、本気だ。
 このバ会長の1番鬱陶しい目が、いやに落ち着いている表情の割に、爛々と光っている。
 みっともない幕引きの筈だ。
 任期半ばでの退任理由が、朝っぱらから散々学園を騒がせ、混乱させた理由が男相手の色恋沙汰で、どうしようもねぇから辞めるとか有り得ねぇ。
 てめぇならどうにでも操作できる事を、敢えてこんな茶番を打つのか。
 そんな邪推をも跳ね飛ばす、強い眼差しだった。

 正面しか向いてねぇ。
 何1つ後悔はねぇって、いっそ清々しく、また頭を下げている。
 ちょっと見た事のない、深い礼だった。
 なし崩しにやむを得ずしている飾りの礼じゃない、武士なんて見た事ねぇが、誠実としか形容しようがない一礼だった。
 何だコレは。
 「「「「「柾様ぁ〜…」」」」」
 「マジかよ…」
 「どーせ悪い冗談だろ?!」

 ザワザワうるっせぇ講堂を、パニックに紛れて抜け出す。
 あんたが醜態晒せばスカっとする筈だった。
 てめぇで幕引く情けねー事態の筈なのに、何でこっちが惨めな想いになるんだ。
 イライラと何の考えもなく歩く。
 「あ、美山」
 講堂の裏に回り込んでいたのか、理事長と複数の先生に連行中の、ついさっきまで壇上に居た顔と目が合った。
 最悪のタイミングだ。
 
 スルーしようとした俺に、追い討ちがかかる。
 「ハルナツアキフユ、頼むな。俺が引き取って良いならそうするけど」
 「…あぁ?」
 何つった、コイツ。
 とんでもねー爆弾を投下しやがった男はカラリと笑って、理事長を促して歩き出す。
 「美山君、君も早く教室に戻りなさい」
 去って行く連中を呆然と見送りながら、暫くその場に立ち尽くしていた。
 大して世話してねぇ猫共が、妙に毛艶も肉付きも良く、人懐っこい理由なんて知りたくもなかった。



 2014.9.16(mon)08:08筆


[ 717/761 ]

[*prev] [next#]
[目次]
[しおりを挟む]

- 戻る -
- 表紙へ戻る -




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -