93.白薔薇さまのため息(9)


 約束の時間を寸分違えず集った面々を見渡して、息を吐く。
 何が正解で何が間違いなのか。
 我等にとって重要な事は、そんな一方的で瑣末な事象ではない。
 大方、覚悟はしている目だ。
 この数日、学園内は特に怪しい雲行きになっていた。
 疑惑と不信と嫉妬と揶揄と興味をブレンドした空気を、限界まで注入した風船が、今にも割れそうになっている。
 調べるまでもない、この学園に育った者ならば。


 「柾様がご決断なさった」


 だから、一言で済む。
 これだけで我等は動く。
 そればかりか、やっとかという安堵にさえ満ち、笑みさえ浮かぶのは、彼の方がこんな手間がかかるばかりで大して面白くもない遊具の様な学園に相応ではないと、知っているからだ。
 例えあの御方達が何と仰ろうと、世界を面白くするのは自らの当然としても。
 彼には広い世界に居て欲しい。
 こんな鳥籠ではなく、もっと自由で広い大地へ。
 茶番は我等だけで十分だ。

 「やっとですか…それは良かった。今宵は祝宴ですね」
 晴海が常に険しい双眸を崩し、やんわりと笑む。
 「となると新たな赴任先は皆サンいらっしゃる所ですよネ〜そいつぁ良かった!天晴天晴」 
 「赴任ってタローちゃん…まぁ転校という単語がお似合いにならないけれど」
 他の連中もそれぞれに安堵と祝福の声を上げる中、咳払いして皆を鎮める。
 「浮かれるのは早い。我等の役目を忘れる事はないだろうが、新たな役割が追随される事を認識せねば」 
 片前の瞳がキラリと光った。

 「前陽大君、ですね」
 「その通り。彼の警護こそ柾様の1番の望み、我等に課される使命だ」
 無言で頷く一同の中、片前は憂いを含んだ呟きを零す。
 「前君、大丈夫かな…」
 「あの子は強い。柾様の誠を知れば、更に凛と立つ事だろう。何より柾様が見初めた御方を我等が信じない訳にはいくまい」
 それよりもと、言(げん)を繋ぐ。 
 
 「所古が前君に号外発行の念を入れた様だ。事前に知った事である程度の心づもりは持てるだろう。片前が頑として口を割らなかった新聞報道部の活動だが、お前こそ大丈夫なのか」
 「富田様、御心配なく。使命は全うします」
 即答を返され、頷く。
 片前、お前こそ不憫な奴だ。
 あんな誠の欠片もない脳内現実共に性欲まみれのアホに惹かれるとは、それ故、お前の情報網は磨かれたものの、何と不憫な。

 俺の心残りは寧ろ、お前かも知れない。
 弟同然の仲間がアホな男に関わり遊ばれ、情が湧いてそれで終わりとか、お前が割り切っているのは誰の目にも明らかだが、そうだな、卒業前に1発2発殴らねば俺の気が済まない。
 柾様が先に動かれるだろうが、その時にはおこぼれにでも預かろうとしよう。
 前君の事は心配していない。
 彼には自分の手で見つけた仲間がいる上、柾様の寵愛が惜しみなく注がれている。
 本人は気付いていないが、とんでもない御方に捕まっている事実を。

 君に何が起ころうとも、もう大丈夫だ。
 主に厳命を下された、我等が居る。
 「既にあの御方達が動き始めていらっしゃる。事態は柾様の想うまま、揺るぎない。俺は直に卒業する身上、無論、外からのサポートは惜しまないがお前達に託す。これは柾様の言葉だ。『くれぐれもよろしく頼む』。特に前君と同学年の者達は、『最後まで彼を守ってやって欲しい』」
 「「「「「御意」」」」」
 
 決起の証とばかりに、主から差し入れられた「HOTEL KAIDO」のサングリアサワーを開け、優美なグラスへシャンパン同様に注ぎ入れる。
 「今宵、直々にお越しになれない事を悔いておられた主の為に…」
 目線の高さに掲げ合い、それぞれに飲み干す。
 「まさか未だ生徒会の仕事を?」
 怪訝な顔をする新入りに、苦笑を返す。
 「そういう御方だ、柾様は。最後の最後まで手を抜かない。仕事だけではあるまいが…」

 どうか良い夜を。
 明日に備えて、彼の人が確個たる睡眠をとれます様に。

 「てっとり早くタローちゃんか僕が同じクラスになったら良いよねー」
 「いいですネ〜流石尚、Nice idea!さすればお母さん弁当もいただけますネ〜ニンニン」
 「「「「「タローちゃん…弁当目当て…?」」」」」
 「No No!弁当だけじゃないーデスヨ!お母さん、とっても優しイ〜very可愛いネ!」
 盛り上がっている連中の余裕に、不安は微塵も感じなかった。
 「タローちゃん、その言葉、柾様の前で言ってみよ。是非見てみたい」
 「「「「「富田様、どS…」」」」」


 
 2014.9.7(sun)19:55筆


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