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「「ハロー。同じく生徒会の庶務と補佐の1年、七々原(ななはら)、」」
「満月(みづき)」
「優月(ゆづき)」
「「テキトーによろしくね」」
んん…?!
目を逸らしている間に、次の生徒会メンバーさんへ、マイクが渡されたみたいだ。
壇上のマイクには、ハモリ効果が用意されているんだろうか?
さすが、十八さんの学校…マイクまで普通じゃないんだなぁ…
と想いつつ、視線を上げたら。
ドッペルゲンガー!?
視線を瞬かせた。
熱気と歓声に当てられて、俺の目がおかしくなったのか?
何度も瞬きをくり返し、遠くや近くやと目線を分散させて、もう1度舞台の上を見て。
なんと…!!
双子さん?!
双子の神秘…!!
ハレルヤ!!
一卵性さんなんだろうか、ほんとうにそっくりそのまま、他の生徒会メンバーさんより小柄なひとたちが、ニコニコと手を繋いで存在しておられた。
ピンクがかって見える淡い金…ほとんど茶髪のくるくるっとしたあごラインまでのくせ毛、前髪はななめに流してピンで留めている、お可愛らしい髪型がよく似合っておられる。
整った小顔の中、くりっとした焦茶のキャッツアイが、すごく印象的だ。
「少年」という形容が似合う、それも「異国の少年」といったかんじかな…水兵さんの格好とか似合いそう!
「七々原ツインズ〜!!」
「カワイイぜ〜!!」
「優月ちゃ〜ん!!」
「美月ちゃ〜ん!!」
そんな声援に、ニコニコ応えておられる、ほんとうにアイドルみたいなひとたち。
双子で揃って生徒会メンバーさんだなんて、すごいなぁ…
失礼ながら、なんだか愛嬌のある子猫みたいで、微笑ましい…いつまでも見守っていたい、そんな存在感だ。
ところで、生徒会メンバーさんの紹介も、これで終わりかな?
そう想った時。
双子さんたちが、次のメンバーさんへマイクを手渡すのが見えた、その刹那、あれだけ歓声に包まれていた会場内が、壇上も含めて、シーンとなってしまった。
え?え?
どうしたんだろう、急に…!!
キョロキョロと、あちこちを見渡して。
俺は、目を見張った。
今まで歓声を上げ続けていた、生徒さん方も。
それを苦行の如く、耐えておられた先生方や他の生徒さん方も。
壇上の生徒会メンバーさんも。
俺の隣の、あいはらさんはもちろん、美山さんまでもが。
皆、皆、マイクを握ったそのひとを、懸命に見つめておられて。
まるで、勝敗間近の日本代表スポーツ選手に、エールを送らんと見守っているサポーターやファンのよう、熱い熱い情に満ちた眼差しが、壇上のお1人に注がれている…!
皆が、息を殺して、彼の人の成り行きを見守っている。
会場が一致団結した状態。
新参者の俺が、その空気を壊していいわけがない。
従って俺も、なにがなんだかわからないながらに、この奇妙な沈黙の輪の中へ参加することにした。
一体これから、なにが起こるのか。
彼の御方は一体、何者なのか。
ハラハラと、にわかサポーターになって、見守った。
誰もが息を殺し、空気中の微生物でさえも息を殺すような、張りつめた状態の中。
壇上の彼が、わずかに身じろぎし、ひとつになった会場内はハッとなって、彼の御方の行く末を見守り続けた。
ゆっくり、ゆっくり…
双子さんから渡されたマイクが、彼の御方の口元へ近づいていく。
よくよく見れば、生徒会メンバーさんの中でも、一際背が高かった。
マイクを握る手は、心なしか震えている…?
俺はますます、固唾を呑んで、彼を見つめた。
マイクが、キン、と鳴って。
「………」
なにかを言いかける、彼の御方。
気の所為なんかじゃなく、小刻みに震えているマイク。
皆、気持ちは同じだろうか、いつしか俺は、名も知らないよく知りもしない御方に向かって、なぜだか「頑張れ!頑張れ!」って心の中で唱えていた。
躊躇い、マイクを遠ざけ、けれどもまた近づけて。
そのくり返しを、会場内は真摯に見つめて待っていた。
やがて。
数度の逡巡の後。
マイクは、確かに、彼の声を拾った。
「………生徒会、会計。1年。……無門、…宗佑(かどなし・そうすけ)。」
い、言えた…!!
会場内は、間違いなく、心が完全にひとつになっていたと想う。
ちいさな呟きを残し、早々にマイクを生徒会長さまへ渡し、舞台袖へ去って行く彼の御方に、いつまでも拍手とエールが止まない。
あいはらさんは、心から安心した顔をなさっておられるし、美山さんも眉間のシワが消えている。
ああ…
感動をありがとう、ニッポン!!
2010-07-01 23:16筆[ 71/761 ][*prev] [next#]
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