86.化粧オバケの本音 by 心太(7)
プリンスの身の回りのお世話係ができるなんて、羨ましいですぅ〜って言いながら、不細工の分際で家柄上、主従の関係か何か知らねーけどウゼーんだよそのツラでプリンス様にお仕えするとか恥ずかしくないの?!その場所変われよっ!邪魔なんだよっ!と目で凄んでくるキャワイ子ちゃんチワワ達とマジ交代してーんだけど。
たまには良いかな。
良いよな。
だって本人達がそう望んでるんだぜ?
シフト制とか良いよねー!
今度ある親衛隊会議で提案してみようか。
そんでプリンス様の実像見て精々ガッカリしやがれ、キャンキャンうっせぇチワワ共!!
見ろよ、この散らかし放題のプリンスルーム。
プリンス台無しレベルの体たらく、何せこちらにはご実家同様に24時間態勢の執事やメイドが居ないものでね。
それなのにこの澄ましたツラしたプリンス野郎、寮生活もかれこれ5年を数えるってぇのにまるで改めやしねぇ。
「心太が居るから」?
っざっけんな、お坊ちゃま。
契約範疇外だ、卒業後にお前、契約外労働の請求しこたま立ててやっからな。
特に厚着になる秋口頃から大惨事、あちこちに脱ぎ捨てられた衣服が玄関から道しるべとなって、プリンス様の足取りを教えてくれる。
服だけじゃない、本日ご使用になられやがった勉強道具や手荷物なども辺りに散乱しているばかりか、朝の仕度したそのまんまが放置しっ放し。
大きくため息を吐きながら、それら気の毒な扱いをされているものを拾い集めつつ、部屋に足を踏み入れた。
テーブルの上には朝食の食器と夕食の食器とお茶した形跡がまんま残っている。
あちこちの部屋は全部電気つけっ放し!
部屋の主は優雅そのもの、片づいている綺麗なエリア、本日は窓辺に据えたソファーで脚を組み、月を横目に洋書を抱え、クラシックを背景にティーカップを傾けていらっしゃる。
素肌にバスローブのナルシストっぷりも健在だ。
バッカじゃねぇの。
お前がそこで気取ってても、このろくでもない散らかしっぷりで全て台無しだっつの。
昴の次に豪奢で有名な副会長部屋の筈なのに、マジおかしい話だぜ。
クラシカルに纏められた部屋が、全っ然リッチに見えない。
俺の目が腐ってるわけじゃないよな。
だってコイツの意向で「HOTEL KAIDO」に似せてコーディネートされた部屋だぜ。
趣味そのものは良い筈なのに、住んでる人間で変わるもんだ。
つーかルームサービス活用しろっての。
服のクリーニングもハウスキーパーもすっげー整ってる環境だっつの。
てめぇは片づけないクセに潔癖性だっつーなら、その手配ぐらいしろっつーの。
「心太、今日の紅茶は温い」
「知るか!!」
挙げ句、人の顔見るなりふざけた事を抜かしやがる。
大方お前がオーダーしてすぐ届いたものを、放置して飲まなかっただけだろうが。
もうヤダ、何なのコイツ。
どーしてガキの頃からこんな馬鹿で我が儘なプリンス様なの?
一平先輩から昴に関して、生活面のグチなんて聞いた事ないんですけど!
少なくとも昴はてめぇで業者の手配したり、自己管理してるっぽいんですけど。
何で俺はコイツの何から何まで面倒見なきゃなんねーの。
「お前さぁ!!髪濡れたままで放っとくなっつーの!すぐ風邪引くクセに!」
緊急優先事項の発生に、抱えた荷物等はわざとコイツ気に入りのソファーに積み上げ、ドライヤーを手にした。
プリンス様をご支援して下さるチワワちゃん達にマジ託したいぜ。
俺って何なの?
従者って何?
何でコイツの髪のブローまで俺がしなきゃなんねーの。
心とは裏腹に長年培った習慣は恐ろしいもので。
亜麻色のプリンスヘアーを手際良く、且つていねいに乾かしながら、何を気にする事もなく本を読んでいる莉人に声を掛ける。
「………あのさぁ。最近、何か変わった事ねぇの」
「変わった事とは?」
「何つーか、生徒会とか。ほら、告白大会とか…有耶無耶になってんじゃん」
「あぁ…そうだな、晴天の霹靂の如く悠が心を入れ替え、毎日いじらしい程に生徒会に顔を出しているが。それはお前も知っての事だろう」
「ふーん、まだ続いてんだ。天谷の事だから口先だけで一瞬で終わると想ってた」
「酷いな、心太。ああ見えて悠はやる時はやる。多分」
お前も酷いじゃん。
俺には到底理解し難く、理解したくもない、生徒会の絆ってやつかね。
良い想い出が作れてんなら良かった。
でも。
「そんだけ?他に変わった事ねーの」
「特にない。ゆーみーと前陽大がべったりくっついているぐらいか。あの双子、益々ガキ化しやがって、前陽大を送り届けるのを口実にサボりやがる。ま、担当の仕事はやってるし平和な証拠だがな」
ふーんと呟いて返しながら、俺の胸中は穏やかならない。
知らないんだな莉人、お前は。
完全に気づいていないってツラしてやがる。
双子がほぼ毎日の様に出入りしている場所が、このお前の部屋と同じフロアの一際ゴージャスな部屋だって事。
俺の邪推だが、双子に付きまとわれている前君も、そこに一緒に居るかも知れない。
何故か、俺には昴と双子、前君と双子の仲の良さが繋がって見える。
そして、昨今、再び学園で囁かれ始めている疑惑をお前は知らないのか、それでも平和だと楽観視するのか。
単に気が合う4人なのかも知れない。
面倒な事ばかり起きる中、4人で仲良く過ごす事で気が紛れている面もあるだろう。
誰がどっからどう見ても、双子が間に入れば平和な画になるから。
一平先輩は何も話してくれない。
確証は何もないが俺は、妙に引っかかっているんだ。
追い出し会までこの平穏は続かない様な気がして、変に落ち着かない。
杞憂であるなら良いが。
「ほらよ、終了っ!」
「心太、マッサージを」
「アホかーーー!俺はお前のヘアスタイリストじゃねぇっつーの!ルームサービス呼べ!俺はてめぇの散らかしたものを片付けんのに忙しいんだよ!ったく、いつまでも手のかかる…お前さぁ、社会人になったらどうすんの?!」
「どうするとは?心太が居るから不自由ない」
「ア、アホか…!!」
ずっとずっと、今のままなんて。
永遠に変わらないものなんて、何処にもない、どんな世界にもないんだよ、莉人。
チリっと傷む胸には注意を払わず、俺は片付けに集中した。
2014.8.30(sat)23:39筆[ 703/761 ][*prev] [next#]
[目次]
[しおりを挟む]
- 戻る -
- 表紙へ戻る -