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「おーやさいっモリモリー」
「おーさかなっモリモリー」
片づけが終わった途端、柾先輩と隣同士に並んで、左右それぞれを2人に引っぱられながらリビングへ移動した。
「あらまぁ、お2人さんともゲンキンですねぇ。今日のごはんがお魚とお野菜尽くしって知った途端、ふくれっ面さんだったのに」
「お母さん!言わないでっ」
「こーちゃん、違うんだよ」
焦る2人を順番に見て、柾先輩はわざとらしく渋面を作っておられる。
「ゆーみー、メシにグチグチ言ったんだ?折角、陽大が一生懸命作ってくれてんのに、ぶーたれたんだ?」
「「違うんだもんっ!肉が良かったけど…」」
「けど何?メシに文句言う奴にこの食堂名物、ミルフィーユ仕立てアイスクリームケーキはやれんなぁ」
「「野菜も魚もお母さんのおかげで大好きだもんっ!お父さんのイジワルっ」」
睨み合いっこのお顔がなんだか微笑ましくて、俺は笑いが止まらない。
「はいはい、悪ふざけはもうおしまい!優月さんも満月さんもしっかりお手伝いしてくださって、残さず食べましたものね。とってもいい子さんです」
「「えっ、ゆーみー良い子?良い子?」」
「ええ!こんないい子さんたちは見たことありませんよ。かぼちゃサラダも初めて2人で頑張った力作でしたものね。偉い偉い」
「「えへへー!ゆーみー頑張ったぜ!」」
ほんとうに悪戯盛りの子猫みたいでお可愛らしいことこの上ない。
ふわふわの頭を交互に撫でていたら、肩にずしりと重みがかかった。
「えー陽大、俺は?俺こそ功労者なんだけどー。そりゃメシの仕度は手伝えなかったけどさー陽大達を部屋に送ってた後、すっげぇ仕事頑張ったしーこのアイスケーキもデリバって来たしー俺だって超頑張ってるんですけどー」
何てこったい。
まったくもう、一家の大黒柱が子供たちと同じレベルと言うか、更に上を行く甘えたさんっぷり、何て手のかかること。
「先輩のぼう!甘えんぼう」
「「こーちゃんのぼうっ!」」
「あれ?知らなかったのー?おっかしいなぁーお前らの崇拝してるナントカ同盟の必須スキルなんですけど。デキル男は甘え上手…ってネ!」
まぁ!!
俺から優月さん満月さんへと、順番に男前ウィンクショット炸裂!
何のグラビア撮影ですか、それともPV撮影ですか、もったいないったらない。
優月さんと満月さんと想うことは同じで、3人でうんうん頷き合う。
「はいはい。先輩がいちばんの頑張り屋さんなのは重々存じております。とりあえずアイスケーキをお渡しいただきたいで候」
「「ニンニン」」
「所詮世の中、花より団子だよねー」
「「「押忍!」」」
知ってますよ、ちゃんと。
わかっております。
まだ暫くはコソコソとしたお付き合いになること。
いろいろなことに落ちこみそうになる俺を想いやってくださって、ここ最近は頻繁に、優月さん満月さんの3人で先に帰らせてくださっていること。
お2人の明るさ、にぎやかさに、俺がとても救われていること。
そうして早く上がらせてくださった分、先輩がお仕事を担ってくださっていること。
俺が一足先に寝落ちてしまった後、優月さん満月さんと持ち帰りお仕事していること。
こんなに負担になっていいのか。
こんなに想いやっていただける価値が俺にあるのか。
悩みも迷いも尽きない俺に、いつも、時には背中を押すように、時には包みこむような、身になる温かい言葉をかけてくださって、側に置いていてくださる。
いつかは、終わりがくること。
この時間は永遠じゃない。
すべてに言えることだけれど。
大切にしたいと想える。
タイムリミットがいつかなんて、俺にはわからない。
わからないからこそ、今、一緒にいられる時間を抱きしめるように、大切にしたいんだ。
この人の懐の深さ、優しさにどうやってお応えしたって足りない、と。
気づいてからは、俺にできることを精一杯、心をこめて頑張ろうと想った。
例えば、お疲れさまで帰って来る先輩に、あったかくておいしいごはんをご用意すること、快適なお家空間の維持に努めること。
なるべく笑顔でいること、とか。
微力でしかない、微力でもないだろう。
それでも今は、この優しい時間を受け止めたい。
絶品アイスケーキをいただいて、4人でマ●オカートで対戦して盛り上がって、明日の準備が終わったら、歯みがきをして。
4人並んでも広い広いベッドで、優月さん満月さんのゴキゲンさんなハミングと、柾先輩が即興で作り上げる、7匹のハムスターさん(???)に因る壮大な寝物語に耳を傾けながら。
ふいに終わりを告げるであろう、今という時間に、じんわりと想いを馳せつつ、俺は眠りに就いた。
どうか明日もその先もずっと、柾先輩にとって素敵な1日となりますように。
俺の大好きな人たちに、どうか、明るい日々がずっと続いていきますように。
2014.8.28(thu)23:23筆[ 702/761 ][*prev] [next#]
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