82.金いろ狼ちゃんの武士道(8)


 「「「「「ヒュー!唐揚げっ!山盛りっ」」」」」
 「ふふふ!武士道大好き、唐揚げ尽くしだよーさぁ、たんと召し上がれ!」
 弁当を広げた途端、武士道の歓声や口笛が響く。
 まったくガキだねぇ、コイツら。
 「「「「「お母さん、お母さん。そーちょーが気取ってるよ」」」」」
 「仁はつい今しがた、盗み見して知ってるだけですからね。放っておきましょう」
 「「「「「キヒヒ!だからそーちょーデコ赤いんだ!」」」」」

 悪ガキ共の視線が、天誅デコピンを受けた額に集中する。
 「うるせぇっ!言わば名誉の負傷だっつの」
 「「「「「そーちょーったらガキ!キヒヒ!」」」」」
 「はいはい、あなたたち、食べるなら食べる!お話するならお話する!集中!あと、1人で1度にたくさん取ってはいけません。焦らなくてもたくさんあるんだから、キープしないっ!」
 「「「「「はぁーーーい!」」」」」

 「唐揚げばっかり食べるのもめっ!ちゃんと三角食べしなさい。野菜もごはんも食べないと大きくなれませんよ」
 「「「「「はいっ!」」」」」
 甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるはるとに、連中は相変わらず頭が上がらない。
 頭が上がらないどころか、はると以外には見せない、締まらない顔でフニャけてやがる。
 ガキだねぇ。
 一通り世話を焼いた陽大は、「ふう…まったくいつまでも世話が焼けるったら」とため息を吐きながら、俺の隣に座った。

 苦笑混じりに茶を勧め、やっと食べ始めるはるとに礼を言う。
 はると、気付いてるか?
 コイツらもいつまでもバカじゃねぇ、ガキもちょっとずつ成長する。
 ただ、手が焼ける悪ガキで居たら、はるとが甘やかしてくれる、世話を焼いてくれる。
 俺らはソレが好きで、わざとガキぶってる面がある。
 あれこれ口出しされて、時々手も出されて、たまに誉められて、例えば親にされたらマジでウザい事が、はるとだとすんなり受け入れられるんだよな。
 
 そういう平和なやりとりがさ。
 偽りだけど理想の家族像っつーのか、それが簡単に壊されるもんだって、永遠に約束されてない脆いもんだって、俺らは知ってしまった。
 事件はいつでも起こる。
 そしてソレを俺らの手で収束できない場合もある。
 現実を知って、はるとの笑顔が消えて、会えなくなって、俺らはやっとわかった。
 この温い時間が、どんだけ貴重なもんかって。

 大事にしねぇとなぁ。
 もう2度とあんな想いは御免だ。
 「仁…」
 「んあ?どうした〜はると」
 ふと箸を止めたはるとが、抱えていた包みを俺に渡す。
 「これ、一成に…」
 遠慮がちな小声と、心配そうな顔に、ったくあの銀色はナニやってんだかと呆れた。
 今現在、武士道の中ではるとの心配独占してる果報者は一成だけだ。

 馬鹿め。
 結果はどうあれ、幸せ者め。
 『俺が居ると空気悪くなるから〜当分会うのパスするわ〜』
 何でもないってツラして、一見大人な対応装って。
 その実、1番てめぇがガキじゃねーの。
 お前が惚れたはるとの心痛めさせて、心配までかけて、ナニやってんだよマジで。
 2人の間でどんな話になったのか、詳細はわからんし知りたくもねぇ。

 大会参加者が全敗したっぽいってのしかわからんが、本気で惚れてんなら、アフターフォローもちゃんとしてやれよな。
 「んーわかった。ちゃんと渡しとく」と受け取って、安心した様に少し笑うはるとの目の前でわざと、包みを開いた。
 「あ?!はると、一成のが全体的に分量多くね?!特に唐揚げ!」
 「仁!いけません!人のお弁当を覗き見するとは何です?!お行儀が悪いですよ!分量はすべて平等也。天誅っ!」
 「いってぇ!!2発目のが強烈!」

 連中に悪どく笑われ、はるとには説教されながら、俺は平和を噛みしめる。
 はるとが笑ってんなら、それでいーじゃねぇか。
 全員、贅沢なんだよ。
 はるとが近くに居るだけで、すげー幸せになれんじゃん。
 「つーかはると、今日の弁当ゴーカだな。いや、いつも美味いけどさ。唐揚げ分量いつもより多いし、はるとボールも卵焼きも充実してるし、おにぎりの内容もバラエティあって凝ってっし。すげー嬉しいけどよ、生徒会忙しいだろ。無理してね?」
 
 盗み見した時から気になってた事を何気なく聞いたら、急に挙動不審になった。
 「それは、その…リクストが唐揚げで…晩もお弁当も食べたいとか…皆で作ってたら盛り上がりすぎて多くなっちゃったと言うか…ええと?あのですね、そもそも晩ごはんの残りを工面したと言うか、晩ごはんついでにお弁当準備と言うか…?何と言いますか、無理はしておりませぬのでお気遣い有り難いながら無用でござる。ニンニン」
 あ???
 殆どよく聞こえなかったけど。

 「そ?無理してねーなら良いけどよ。つか、顔赤くね?つーかはると、最近ますますモコモコしてるよな。特に首もととか、常にモコモコしてね。逆上せて顔赤くなってんじゃねーの」
 「!!!こっこれはっ…お山が寒いからでっ!ひ、人が気にして隠してるのに面白がってぐるぐる巻きにしてくると言いますかっ…とにかく、防寒の一環でしかないので、大事ないでござる!お気になさらず!」
 「そ、そっか…?何かよくわかんねーけど、問題ないなら良い」
 まぁ、はるとが一成とか大会絡みを気に病みつつも、一応元気なら何でもいーけど。
 こういう事は時間が解決するってねー。



 2014.8.23(sat)23:46筆


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