80.宮成朝広の一進一退(9)


 憮然としている顔を、唖然と見下ろした。
 「で、同行して一緒に泊まったのかよ…」
 ちょっと待て、凌。
 心配すんのは同感だ。
 まして俺と柾の極秘機密上、ヤツの危険度について俺は学園の誰より身に染みてわかってるっつーか。
 忘れようと努力してんのにこうやって想い返す事態が起こるって、俺の業はどんだけ深いんだか。

 いや、俺の人生最大の失態はどうでも良い、忘れよう。
 そんな事よりお前、心配だからって普通、柾の部屋に泊まるか?!
 有り得なくね。
 柾昴だろ?!
 因りにも因って前の部屋じゃなくて、あの危険レベル最大級の柾のプレイベートエリアにのこのこついて行くとか。
 冷静を欠いた行動にも程度ってもんがある!

 まだ所古のがマシだ。
 所古なら前が居たらストッパーになるだろうよ。
 大体、柾とお前って、中等部の頃から妙な噂が絶えなかったよな?!
 如何にも初心者な前と、色気十分な手練の凌って、両手に花じゃねぇか!!
 両手に花の柾が悪どい顔で不敵に笑う絵面(えづら)が鮮やかに想い浮かび、血の気が失せそうになった。
 その組み合わせ、どう考えてもおかしいっての!!
 
 むすっとしていた凌は、わなわなと震える俺に気づかず、ため息混じりに口を開いた。
 「必要なら泊まるつもりでしたけど。ちょっと意外な程のんびりした2人だった上、9時過ぎには陽大君が舟を漕ぎ始めたので。彼奴の事だから寝ていようと構わず襲うのではないかと危惧しましたが、その心配は不要だったので退室しましたよ」
 寧ろそれ、お前がそのまま居残ってたら、お前こそ大ピンチだったんじゃねーか?!
 柾のヤツ、昔、仕事に追われて疲れてる時程ヤりたくなる的な事、どっかで公言してなかったか。
 益々荒ぶる俺の心境には一切気づかず、凌は拳を握り締めている。

 「口惜しい…!!この俺より昴の方が陽大君を大事にしている様に見えるなんて…!見ましたか、宮成先輩?!あの顔!!彼奴のあんな顔、見た事ない…それよりもっと衝撃的なのが陽大君の照れ顔ですけど!どうしてあんな可愛い子があんな野獣…野獣が紳士ぶりつつ、甘えて引っつき回っているのがまた許し難い…」
 「いや、俺は同行してねーから知らないけど。お前こそ、よく無事で帰って来れたな…」
 「無事な訳ないでしょう!ダメージ凄まじいですよ!!」
 「はぁ?!ダメージぃ?!無事じゃねぇって、お前、まさか…」
 
 その時、正気に返った様に、凌の瞳がいつもの怜悧なものに切り替わった。
 「…先程から、若干会話が噛み合ってない気がしますが…」
 「…あぁ、そうだな…ちょっと落ち着こうぜ。余りの事態にお互い焦ってんな…」
 沈黙が訪れたタイミングで、放課後を知らせるチャイムが鳴り響く。
 「あ、宮成様、渡久山様、お疲れ様です!」
 「きゃ!お2人が揃っていらっしゃるなんて!」
 「ごきげんよう」

 少し離れた廊下を通り過ぎるチワワ達に、適当に手を振って応じ、会話を再開させた。 
 「とにかく…その、2人はそういう事になったと」
 「ええ。昨日見た限りでは、早くも良好な関係を築いているようです」
 ふうと吐いたため息が重なる。
 「問題は、これからだな」
 「ええ、本当に。何も解決していませんから」
 柾の親衛隊も、前に好意を抱いている連中も、そもそも野次馬だらけの学園全体も。

 誰も納得しちゃ居ねぇ。
 下手すりゃ周りから潰される恐れがある。
 柾は何も気にせず真っ直ぐ立てる男だが、前はどうだ。
 気丈な反面、あいつは優しいから、周りに否定されたら引くだろう。
 いずれにせよ、人生とか大きな目で見て、早々に身を引くのではないか。 
 そもそも柾はどういうつもりで居るんだろうな。
 俺が卒業する前に、全て片をつけられるだろうか。

 「取り敢えず宮成先輩。昴から援軍要請です」
 「は?」
 「『特に何を求めるわけじゃない。知っててくれるだけで心強いから。陽大をよろしく』だそうですよ。他に昴サイドでは旭と七々原ツインズ、陽大君サイドでは合原君と九君が知っているそうです」
 「へぇ…取り敢えず身近な所から、ってヤツか」
 けど、何か引っかかるな。

 「陽大をよろしく」?
 そのままの意味だろうが、奇妙に耳に残る言葉だった。
 目を合わせた凌も、何か想う所がある表情を浮かべていた。
 「昴は暫くこのメンツで共有し、様子を見ていずれ公にするつもりです。一先ず俺と宮成先輩は引き続き連携を取りましょう。素直に頷けない…昴は何か、突拍子もない行動を取りそうですから」
 「そうだな…こっちはこっちで態勢整えとこうぜ」
 やれやれ、いつになったら安心できるんだろうな。

 「それにしても、許せない…!俺の可愛い陽大君を…!」
 夕陽を浴びながら憤る凌を見て、知らなかった一面をこんな時期に知った事に、新鮮な驚きと微妙な悔しさを感じた。
 「つーか想像の範疇超え過ぎてて、今ひとつ実感ねーけど。マジなんだよな」
 「マジもマジ、すこぶる真剣ですよ…!!そうですね、話だけではわからないでしょう。今度是非同行して下さい。最早、婚約ウン年を経た新婚カップルの域です、アレは」
 「は?!婚約ウン年を経た新婚カップル?!」

 何だこの、急にわき上がってきたとんでもない喪失感は。
 これが花嫁の父親の心境ってヤツか?! 
 しかし、花婿が完璧なだけにぐうの音も出ねぇ。
 何だこれ。
 何で脳裏に前と過ごした日々や、前の笑顔が浮かぶんだよ。
 こうなったら意地でも見届けさせて貰う。
 目の前で永遠の幸せを誓われない限り、俺は断じて認めない! 


 
 2014.8.18(mon)22:29筆


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