78.音成大介の走れ!毎日!(14)
3学期ともなると練習場が広くなる。
3年生が来なくなるから。
ギリギリ冬休み前まで参加してた部長も、流石に来なくなった。
コートの内外共に随分静かになった。
居たら居たで気ぃ遣うし、絡まれたり口出しされて面倒だけど。
なーんかね、物足りないっつか。
これも後数カ月、4月までの辛抱だ。
4月になったらなったで、先輩方より厄介な新1年生が入部して来る。
中等部の頃を想い出すと、苦笑いするしかねーよ。
俺らの次の代、現中等部の後輩共は、生徒会役員筆頭にクセ者揃いだ。
頭キレて冷静で、良い意味で十八かぶれしてない奴らが揃ってる。
容姿や家柄で解決しないっつーか、あくまで能力主義の柾チルドレンっつーか。
どちらにせよ手強い連中が春には大挙してくんだ。
束の間の静寂ってヤツ、堪能しねーとな。
「はーやーとーくんっ」
「昴。どしたの、お前」
パス練の合間を縫って、ふいに現れた柾会長に、2年はわっと盛り上がり、1年は戦々恐々となった。
「大事なお話があります」
「しょうがねーなー。ちょー抜けるわ。お前ら10分休憩な」
「「「「「10分休憩してあげるから、旭新主将、ジュース奢って」」」」」
「え、理不尽」
どーでもいーけど、ウチの2年と柾会長って仲いーよな。
旭先輩絡みだろーけど、こうやって会長が乱入して2年とツルんでる姿、珍しくない。
「いーよ、旭。てめえら、この俺様が奢ってやろう。有り難く想え」
「「「「「キャー!かいちょー男前っ!抱いてー」」」」」
「「ヤダ」」
「「「「「何で旭まで返事すんのーキャー!やっぱりアヤシい!」」」」」
「あっち行きましょっ、昴」
「ウン!行きましょっ。ジュースは後でネ」
「「「「「いってらー」」」」」
今日も仲よろしい事で。
突然の休憩にラッキーと想いつつ、少し離れたコートで親し気に話す2人の姿を、見るともなく見た。
真面目に話してたかと想うと、笑ってじゃれて、結局笑ってる。
まともな友達関係っつか、柾会長と旭先輩には嘘がない。
素、なんだよな何か。
双方共に気ぃ張る立ち位置だから、普段もっと取り繕ってる、それが全然ない。
あまりに平和な空気感に、誰も何も言えねえし怪しむ隙すら与えない。
会長の話は手短に終わったらしい。
「親切なかいちょー様から差し入れだってよー」
「「「「「すっげー!夏季限定の蜂蜜レモン氷だー」」」」」
俺がスポーツドリンク飲んで一息吐いてる間に、夏期しかお目にかかれない運動部人気ナンバー1を誇る飲むシャーベットを置いて、立ち去ったようだ。
マメだよねー。
つか謎だ、こんな冬に人数分の差し入れとか。
走り回って熱っぽく渇いた喉に、シャリシャリのシャーベットが心地いい。
ありがたく頂戴しながら、旭先輩に近寄った。
「会長、どうされたんですか」
んあ?
この人がこんなに穏やかな目ぇしてんの、初めて見るんだけど。
横顔に呆気に取られたのは一瞬で、俺を振り返った旭先輩はいつも通り、面白そうな軽い色を宿しながらも、油断ならない目をしていた。
やっぱ気の所為か。
「何、大介ー気になんのー?」
「まぁ、それなりに…放課後に現れるのって久しぶりじゃないスか。差し入れまで置いて」
「んー久しぶりだけど珍しくないよねー?此所には俺が居るからネ」
何つー自信だ、アンタ。
そりゃそうだけどさ。
「差し入れ、あざっす」
それだけ言って離れようとした、目だけで引き止められた。
「大介はー今、何処に居んのー」
「…何処に、とは?」
「お前の御主人様の所?それともフリー?」
何をどこまで掴んでんだかマジ恐ろしいわ、ヘラヘラ話しかけた俺が馬鹿だわで。
「一応クビは繋がってますけど…?」
アンタの親友を失職覚悟で助けてみたけど、お咎め無しでしたよ。
お陰で俺は、まだ何とか在籍してられますよ。
「ふーん。じゃ、内緒ー」
「は?!」
特に興味なさそうに流したかと想うと、呆気なく手を振られた。
「間に挟まれてご愁傷様だけどー大介は誰を選ぶの。何が1番大事なんだよ。お前はお前で悩んで苦しい所だろうけど?しっかり腹は決めときな。何があっても揺らがないぐらい、ね」
不敵に笑って、「はい、休憩しゅうりょー!」と大きく手を叩く。
通り過ぎていく広い背中を見ながら、呆然とした。
何だよ、また何かあるって事かよ。
けど、柾会長も旭先輩も笑ってた。
いいや、あの人らはどんな事態でも笑ってるんだった、楽観できねぇ。
陽大絡みの事か。
ワケわかんねー子供騙しなコクハクタイカイなる開催が決まってから、俺は殆ど陽大と絡んでない。
近い内に大きな動きでもあるのか。
その時、俺には何ができる?
2014.8.16(sat)23:42筆[ 695/761 ][*prev] [next#]
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