75.親衛隊員日記/心春日和vol.11


 何て良い天気だろう。
 風は冷たいけど、久し振りに日差しが暖かい。
 なんてね、この僕が四季に想いを馳せるとか、のほほんはるとの影響どんだけ受けてんだろうね。
 いいや、僕は悪くない。
 はるとが毎日毎日ジジくさいっつーか、季節ネタばっかり振ってくるから、自然と気にするようになっちゃっただけ。
 ふん。

 「「ごちそうさまでしたっ」」
 「はい、ご丈夫に」
 日差しがあるから、今日は教室から離れて中庭に来た。
 今朝は時間がなくて簡単なものでごめんなさいなんて、はるとは眉下がってたけど。
 武士道さまにも大好評らしい、そらそうだろ男の胃袋完全に掴んでんだろって5色丼っつー名前らしい弁当、すっげぇ心春好みで大満足だったな!
 ちゃんとタコも入ってたしね。

 時間なくてもこんだけ作れるとか、はるとってマジ神じゃない?
 「ちょっと穂、米ついてるし!心春の隣でダサい事しないでよねっ」
 「ええっ、ごめんー!でも心春も米ついてんぞっ」 
 「何っ?!天使の心春に米ついてるとか…有り得無ぁいっ!!そういう時はねぇっ、黙ってそっと本人にも周りにもわかんない様に取れっつーの!」
 「ええっ、もームズカシイなぁ、心春はっ!」
 はるとはクスクス笑いながら、もみ合う僕と穂から米を取って、お茶を入れてくれた。

 うん、いつもと同じだ。
 同じなんだけど。
 ちらっと素早く、穂と視線を交わす。
 金曜日の5、6限にいなくなってからずっと、何かおかしいんだよね。
 心ここにあらずって言うか、変に緊張してるって言うか、あまり元気じゃないカンジ。
 朝イチで土日はゆっくり休んだか聞いた時も、曖昧に笑って頷いただけだし。
 また何かあったの。

 僕らの知らない間に、誰かに余計な事言われてちょっかいかけられたとか、例の告白大会で想い悩んでる面も大きいだろうけど。
 力になりたい。
 聞いてあげる事ぐらい、この大バカ宇宙人の穂にだってできるんだからね。
 今日は絶対逃がさないんだから!
 意を決して、膝の上で両手を握り締め、口を開こうとした時だった。
 「あのっ、俺、心春さんと穂さんに、お話があって…」

 はるとに先を越されて、ぽかんとなった。
 なんだー!
 ちゃんと話してくれるつもりだったんじゃん!
 それならそうと言ってよねー!!
 まあね、心春だし?
 この僕に隠し事なんて、はるとができるワケないもんね、並みの友達じゃないんだからね!
 一気に急浮上したテンションで、しどろもどろのはるとの話を聞いて。

 「「はぁ?!!!」」
 
 全部話し終わったはるとが、見た事もない可愛らしい顔で真っ赤になって俯くのを、唖然と見つめるしかなかった。
 あの柾様がはるとを好きだって?!
 告白大会にエントリーしなかったばかりか、キレ気味でワイルドにイチ抜けした柾様が、後だしじゃんけんではるとをかっさらったって言うのっ?! 
 し、しかも、それがこの金曜日の話だったって?!
 まさか、土日の2連休、まさか!!!!!

 ぐらあっと一時に襲いかかってきた衝撃に、目眩すら感じていると。
 かすかに震えている小動物と目が合った。
 「あの…金曜日、言えなくて…すみませんでした。話したかったんですけど…ほんとうに、すみません」
 すみませんってはると、何言ってんの。
 申し訳ないって表情で、どうしたら良いのかわからないって、何を戸惑う事があるの。
 僕に遠慮する事は何もないのに。
 
 ふっと口角が上がった。
 バカだなぁ、はるとは。
 何てお人好しで優しい子なんだろ。
 柾様には到底及ばないけれど、心春の器量を見くびってもらっちゃ困るんだからね!
 「でかしたっはると!!」
 「えっ、えっ???」
 緊張で震えてる手を、がっしり握り締める。

 「難攻不落と名高いあの柾様をオトすなんて…これは十八学園にとって大きな歴史的第1歩だよっ!!何処の誰が迫ろうとも陥落しなかった、下界での遊び人レジェンドで武勇を高めておられた謎多き柾様と言えども、流石にのほほんはるとには勝てなかったと言う事か…!!やはり偽り無き無邪気こそ無敵と言う事なんだね!!相わかったよ!!何はともあれ、おめでとうっ!!大丈夫っ、心春に任せておいてっ。心春は柾様とはるとの味方だから!!はるとには是非っ柾様と一生を添い遂げてもらうべく、心春の全叡智を懸けて全力で応援するからねっ」

 「心春さん…」
 あわや感動の友情シーンを、間の抜けたガキの泣き声が台無しにしてくれやがったんだけどこいつ、マジでどうしてくれようか、十八学園七不思議其の四の無限樹海に縄ぐるぐる巻きで放り出してやろううか。
 「ふええーん…はるとっ…本当に良かった、良かったなぁっ…頑張ってきて、頑張ったからっ…良かった、良かったよぉっ」
 「穂さん…ありがとうございます」

 泣きじゃくる穂を優しく慰めるはると、2人の様子を見てるとため息が出た。
 それだけじゃないよね、穂。
 ホントはお前だって、ちょっと柾様に惹かれてたでしょ。
 知ってるんだから。
 この僕が、柾先輩に好意を抱いてる人間に気付かなかった事なんてない。
 だってそれだけ好きだったの。
 あの人を手に入れたいって、心の底から想ってたから、絶えず目を光らせてはちょっとでもライバルだって感じたヤツを排除してきた。

 上手くいって良かったって本音と、自分に言い聞かせる様に繰り返す言葉、よくわかる。
 大事な友達の恋が成就して嬉しいのと、寂しい気持ち、そして元々わかってたけど、改めて失恋の事実。
 んもうっ、しょうがないなぁ!!
 今夜は穂と泣き明かして、今後の作戦会議に耽るかっ!
 告白大会の件もある、親衛隊諸々の問題もある。
 柾様とはるとが当面、コソコソ肩身狭く付き合うしかないのは、火を見るより明らかなんだよね。

 はるとにとって、まだ暫く辛い日々だろう。
 心春達が支えてあげなくっちゃ。
 「穂っ、いつまでもメソメソしてんじゃないよっ!」
 「ふえぇぇっ」
 ばりっと寄り添う2人を引き離して、僕は、その真ん中で豪快に笑う。
 2人の背中をバシーンと叩いて、自分の頬もバシーンと叩いた。
 「っしゃーーー!!気合い入れてくよっ」
 
 さようなら、柾様。
 柾様の事を大好きだった、僕ごとさようなら。 
 大丈夫、明日はもっと笑って見せる。
 

 
 2014.8.14(thu)22:32筆


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