17.ラスボスは俺様だった
「新入生の皆さん、高等部御入学おめでとうございます。第100期生徒会会長を務めさせて頂きます、柾昴(まさき・こう)と申します。…と言っても、皆さんの大半が幼等部、初等部、中等部から学び舎を同じくして来た仲間ですから、お互いに久し振りの再会と言った風体ではありますね。皆さんとの再会を果たせた今日この日を、とても嬉しく想います。
しかし、高等部は今までと異なり、いよいよ将来を決めねばならない大事な時期を過ごす場所です。卒業後、進学される方も就職される方も、国内外問わず華々しい活躍を為される事でしょう。その礎となるべく、皆さんの高等部での日々を充実させる為に、生徒会が存在します。
皆さん、くれぐれも悔いなく、2度とないこの時間を謳歌なさって下さい。我々生徒会一同も、生徒の代表としてだけではなく、皆さん新入生の良き先輩と成る可く尽力して参ります。
………つか、てめえら」
すっかり静まり返った、建物内。
順調に始まった、生徒会長さまの祝辞は、時の経過と共にまたざわめき出した新入生達の影響で、不穏な気配を見せ始めている。
騒ぐな、と言うほうが無理なのかも知れないなぁ…
こんなになにもかもが完璧に整った、同性の俺の目から見ても惚れ惚れしてしまう、嫉妬する間もなく魅了されてしまうような存在感。
けれど、百獣の王は、まだ、年若く。
十分な覇気を有し、他者を威圧する気配は持っているものの、自身でも制御し切れないのか、男としての色気が圧倒しているのか…
祝辞の合間に生徒さん方は、ひそひそと彼を賞賛する言葉を呟き、うっとりとため息を吐かれていた。
話の内容よりも、その低い声音に夢中。
生徒会長さまが挨拶中だという正式な場よりも、その見事な立ち姿を見つめることに夢中。
実際、俺自身、彼の目しか見ていない…
ほとんど誰もが本来の状況を忘れ、魅入られたまま。
ふいに変わった、凄みのある口調に、建物内の空気が変わった。
ひそかに、こちらの方が彼らしいなって、感じた。
祝辞の改まった口調が無理してるとか、そうじゃなくて。
「俺様に迷惑掛けてんじゃねえよ…さっきからうるせえ。いー加減静かにしやがれ。今更ピーピー喚くんじゃねえ。安心しろ、これから2年は俺が会長だ。事あるごとにてめえらの前に出てやるから、入学式如きでいちいち喜ぶな。どーせこの閉鎖された鬱空間で、毎日毎日同じ空気吸って顔合わせんだろーが。
…これから…毎日、一緒だろ…?」
わー…
この人、なんか……
いろいろな意味ですごい人、だから、生徒会長さまなんだ……
最後の、「…これから…毎日、一緒だろ…?」って問いかけ…
アレ、「自分に言われたんだ!」って想った人、多いんだろうな〜
生徒会長さまの話し方自体が、1対1で話しかけているような…無意識なのか、意図してなのか、妙に親密に聞こえる。
不思議な人、だなぁ…
いろんな意味で、なんだかもう、すご過ぎる。
こんな大きな学園の、生徒さんの代表の生徒会、しかも会長さまだなんて、こんなふうにすごい人じゃないと、到底務められないんだろうな。
俺には、遠い世界だ。
「ま、柾君…!きちんと挨拶をしなさい!と言うか、もう下がりなさい!」
「生徒会長、言葉を慎んだ上で祝辞をお続け下さい。新入生は静かにしなさい」
会長さまに注意をする先生方と、冷静なアナウンスが被った。
会長さまは、なにも意に介さないように、ふっと。
微笑った。
この上なく、愉しそうに。
その一方で、この上なく、つまらなさそうに。
両極端な、どちらの表情も見て取れた、その微笑に、建物全体が大きく揺れた。
ざわめきが広がる。
嵐の日の大海原のように、建物内を荒れた波が覆い尽くす。
歓声が、今度こそ、止まらない。
生徒会長さまの、なにげないちょっとした仕草の影響を、目の当たりにしながらも、俺は。
俺は、その目から、視線が離せない。
微笑った、細められた瞳のまま。
生徒会長さまは、言葉を改めることなく、素の口調のままで声を張った。
「面倒くせえ、このまま生徒会紹介に移るぜ。ま、メンツは相変わらずだけどな。俺の愉快な仲間達だ、よろしく頼む」
そして、嵐は、更に大きく吹き荒れた。
2010-06-19 23:37筆[ 69/761 ][*prev] [next#]
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